さむらいペンギン 01 100回目の告白

(2012.01.16)

◆01「100回目の告白」

「夕日も、キンキラキンやぁ……」

ぼくは、南極海に沈む夕日を眺め
ていたんや。
ぼくの名前は、田中一郎。
真っ赤なメガネが、トレードマーク
の小学三年生や。
 
 ぼくは今、豪華客船ゴールドフィ
ンガーの船尾に立ってるんや。
ゴールドフィンガーは、夕日を買い
叩いた成金みたいに、キンキンに、
光っとんねん。
ほんで、船のあっちゃこっちゃでは、
この世の春に浮かれた大人たちが、
朝からずーっと馬鹿騒ぎをやっとる
んや。

ぼくは、あることをしてたんやけど、
夕日に見とれ、それを忘れとった。
「さあ、やろか」
そうつぶやくと、だぁーれもおらん
船尾で、大きな袋をこっそりと、
ゾリリ、ゾリリ。
柵のほうへ引きずっていったんや。

 そんで。

袋の中に手を突っ込んで——
もう、こんなモノいらんよな……
そう思って、それを捨てたろうと思
ったんやけど……
何ーんやぁ、ようわからんけど、
それを捨てることは。
ぼくの中の大切な何ーんかぁを、
捨てるような気がしてん。
せやから、しばらく考えたんや。
 
 ほんで。

やっぱりそれを、袋の中に戻そうと
思った、そん時。
スポーン!ポーン!ポーン!
シャンパンの祝砲が鳴り響いたんや。
ほんならぼくの気持ちもスポーン!
と弾けてもうて、

「やっぱ、いらんわ」

ドボーン!
それを海に
放り投げ
たんや。
もう、ヤケ
クソや!

ドボーン!
ドボーン!
ドボ、ボーン!
ドボーン!
ドボーン!
袋のなかに
あったモン、
ぜぇーんぶ放り投げたった!
そしたらなんかぁ……
ムッチャ興奮してきてぇん!

「人生は金や! 金!!
 キンキラキンやでぇ!!」

夕日に向かって、そう叫んだんや!
せやけど。
せやけど、だんだん悲しくなってき
てもうて……
泣いてしもうたぁ。

ボゥオオオォォォォー。

 こうしてゴールドフィンガーは、
プクプクと残酷に浮かぶそれらと。
ぼくの中の、何ーんかぁ大事なモン
を置き去りにして……
人々の欲望と共に、水平線へと消え
て行ったんや。

三ヶ月後

ここは南極大陸すぐ脇にプッチリ
浮ぶプチプチ島。
この島では、キングペンギン達が、
人間達と同じように生活をしている。
島の天空には、七色に輝くオーロラ
がカーテンのようにゆれる。
そんな、ロマンテックな夜に……

「好きやねーん!」

「無理ぃ!」

「パッサン、あなたしつこいのよ。
今まで何回あたしにフラれたの!」

「100回ぃ!」

「もうイイ加減にして! 
      あんたウザい!」
「だってナタリーちゃんのこと……
  やっぱ好きやねーん!」
「あーっ、もうホントウザい!」
「髪型はダサい!」
「臭い!」
「おまけに、ペンギンだし!」
ナタリーは、そう吐き捨てると、

「あんたなんか!
 死んだらいいのよ!!」

ウワァァーン!
「100回目は、とってもとっても
メモリアルやったのにー!!」

モーパッサンは、そう叫びながら
走り去った。
本当に、ウザい男である。 
そんなウザい男、モーパッサンは
とにかく走った。
走った。
走った。
 我を忘れて走るモーパッサンは、
ついに、島の端までたどり着いた。

ハッ!
目の前は断崖絶壁ぃ!!

「あかん、死んでまう!」
しかし、心の声は…
”死んだら楽になるで!”

「あかんって、まだ16歳やでぇ!」
”ほな、永遠の16歳になれるで!”

「あかん! あかん!」
いっとこ! いっとこ!“

「ああ! もう止まれへん!!」
”ほな! 死のかぁ!! ”

「ほな!
死んだるぅぅー!!」

バビョョョーン!

モーパッサンは、
魂も凍える海へ、
飛び込ん
だ!

次回!
いきなり、
主役降板か!?