さむらいペンギン 12 百海振り

(2012.04.02)

百海

夏。
プカプカと、流氷の上に浮かぶ
デェマとモーパッサン。

「モーパッサン、桜吹雪斬りで……
感じて動くことの重要さを理解した
じゃろう。次は自然の原理を利用し、
勇者の太刀筋を身に付けるのじゃ!」

「はい。デェマ師匠!」

「今から海に潜って……
竹刀で、魚を打ち据えてみぃ!」

ドボン!
 モーパッサンは海に潜った。

プクプク。

さっそく獲物が現れた。
プチプチ島の周りでよく目られる
プチプチ銀魚だ。
”桜吹雪斬り”をマスターした
モーパッサンは、魚の動きを感じる
と——ズバン。

ズビン。

ズブン。
ピュュュー!

数分後——
プハーッ。
「はあ。はあ。師匠、無理やあ!
竹刀が重いねん。
ほんで、竹刀もブレブレやねん」

「そりゃそうじゃ、水中で竹刀が
受ける抵抗は空気中の約20倍!
しかも、速度が上がれば3×3 4×4
と、二乗の抵抗を受けるんじゃ。
   なんじゃ、モーパッサン。」

 数字に弱いモーパッサン。

「わかりやすく言えば、普通に竹刀
を振るうより100倍位難しいんじゃ」

「100倍! じゃあ、それが出来た
ら、100倍凄い振りが出来るんや!」

「そうじゃ、勇者の秘技〜その弐
    ”百海振り”じゃ!」

「そ、それって……
僕が百回フラれたから、嫌味で言っ
てるんとちゃいますよね……」

「なんじゃ!!
 ユーは100回もフラれたんじぇ!
 ひゃひゃひゃ、ひ、百回ぃ…
     ぷぷぷっっ…っ……」

「……」

ドボン!

「あんま好きな名前やないけど……
”百海振り”をマスターしたるねん!」

「はぁ……百海振り…」

「百回好き……って言われたい」

三ヶ月後——
 
 プッカリと、浮き輪に挟まり、
片手にビールのデェマ。

 プカプカ。

海中から魚が浮かんできた。
デェマは、その魚を掴むとガブリ。
酒の肴だ。

プハーっ。
海から浮かんできたモーパッサン。
「師匠、僕の”百海振り”は……
         どうですか?」

「ユーの腕力も、足腰もかなり逞し
くなったもんじゃ。
竹刀の振りも、水の抵抗が最小限に
なるよう、真っ直ぐ振れるようにな
ったの。
この三ヶ月、一日も休まずに修行し
た成果がでとる。
しかし……まだまだじゃ。
魚を打ち据えれるが、せいじぇい、
雑魚にしか通用せんレベルじぇ。
それでは”百海振り”をマスターし
たとは言えんじぇ!」

「あのデェマ師匠……そろそろ。
極意を教えて欲しいねんけど…」

「なんじゃ、極意を催促しよって。
まあ随分と修行を積んできたし……
教えてやろう!
よく聞くんじゃ、モーパッサン!
 もう、何も見るな!
 ほんで、海になれぇ!!」

ゲップ。

女は海——
とはよく聞くが……
男も海——
にならなきゃダメなの!?