さむらいペンギン 13 お知り合い

(2012.04.09)

◆13 「お知り合い」

百海振りを修行するモーパッサン。

「極意は……何も見るな!?
 ほんでぇ……海になれぇ!?
      ですか…デェマ師匠?」

 デェマはおつまみにしていた昆布
を、モーパッサンのお面に巻きつけ
ると、
「モーパッサン!
これで”百海振り”をするんじゃ!」

「まったく見えへんし……臭いです。
  何か……こぉう…こんぶ!
     こ…昆布巻き!!」

「こ、昆布巻きじぇ……相変わらず
脳みそグチャグチャじゃの…
まあええ。
とりあえず、やってみぃ!」

ドボン。

昆布巻きで周りが見えない
モーパッサン。
しばらくすると——

ガチンコ!

「痛っ! 何んやぶつけたぁ!!」

「モーパッサン。
    何も見えんと怖いか?」

「はい、デェマ師匠……」

「ワシが見とるから、安心するん
じゃ。そのままそこに漂ってみぃ」

モーパッサンは言われたとおりに、
真っ暗な海に身を委ねた。
すると、恐怖感が徐々に消え……
今度は海の匂いや、音、大きな海流
のうねりを感じた。

ふっ。
何かの気配。

バシ!

体がそれに反応した。

プカプカ。

「モーパッサン!
仕留めたじぇ〜!
モグモグ、プチプチハギじゃ」
と、海上からデェマの声。

「師匠! 見えなくても、魚がおる
のわかりました!
しかも、鋭く振れましたぁ〜!」

「そうじゃ、モーパッサン!
”桜吹雪斬り”のときは、ユー個人で
完結する感覚じゃったが……
”百海振り”は、ユーを取り巻く世界
まで感覚を広げる技なんじゃ!
筋力や太刀筋を極めるだけの技じゃ
ないんじぇ!」

「うわー!さすが勇者の秘技!
    やっぱ、凄いっす」

「そうじゃろ。
ユーを取り巻く世界を目で見ている
だけでは、相手と同じじゃ!
さらなる感覚をもって、
己を取り巻く世界を感じることが出
来れば、その世界を味方にすること
が出来るのじゃ!
海のような大きな流れを捉えれんと、
魑魅魍魎行き交う株式市場をぉ……
おっと、脱線したわい!
ひゃひゃ。
モーパッサン!
酒の肴はハギばかりじゃ、そろそろ
もっと歯応えのあるもんを喰わして
くれやぁ〜」

「はい!
   モーパッサン行きまーす!」
そう言うと、さらに深海へ
と潜る。

海のうねり、
様々な音や匂い、
生き物のたちの気配を感じる。

む!

バシュル!

海流に吸い
込まれるように竹刀が奔る!

海流に吸い
込まれるように竹刀が奔る!

プカプカ。

「モーパッサン!
    コオリウオじゃ!」

「師匠!
な、何か見えてないけど…
むっちゃ見えてるね〜ん!」

「ユーが感じたことを、脳が変換し
イメージ化することが出来るように
なったんじぇ!」

「ハ、ハゲ!!」

バシュる!

       

      ビシュる!

プカプカ。

「モーパッサン! 
      プチプチタコじゃ!
わしゃ、タコが好きなんじぇ」

モーパッサンはさらに、深海へと
潜って行った。

すると、
ブーン!

間髪かわすモーパッサン!
何かが!
襲いかかってきた!!

「な、何やぁ!!」

「モーパッサン、落ち着くんじゃ。
昆布を外してはいかんじぇ!
大きな流れを感じ、今こそ!
 ユーが海になるんじゃ!」

モーパッサンは身体も心も、海に
ゆだねた。
すると、身体が巨大な海流と一体と
なる、その瞬間!
ズビュッ!
ガッ!
ジャキーン!
バッシュー!

プカプカ。

「モーパッサン!
こいつは……
ユーの知り合いじゃないかの?」

「まさか……シゲロウ!?」
モーパッサンは急いで浮上すると、
昆布を外した!

「師匠…知り合いと言えば……
知り合いやねんけど……はは」

「ユーが、百回フラれた腹いせに…
 百回ぶん殴った……ヤツじゃろ。

ひゃひゃ、今度は……
     ”百海振り”じゃの」

アホになり——
そして、海になる男!
モーパッサン!!
次は一体、何になるのか!?