引退した天才音楽家バリンジャー（マイケル・ケイン）と、高齢ながら現役で新作撮影に臨む映画監督ミック（ハーヴェイ・カイテル）。ふたりがバカンスを過ごしているのはアルプスの高級スパリゾート。彼らの友情はかれこれ60年続いています。というのもお互い「よい話」しかしてこなかったから。最近の「よい話」をしながらもふたりはスパに居合わせる人々の人間観察にも事欠きません。ディナーの席で一言も口をきかないがノーブルな雰囲気を漂わせる不思議なカップルを見ては、なぜ彼らは沈黙を守るのか？　小金を賭けをしたり。さらにはふたりの長い人生の共通登場人物で、ふたりの間を通り過ぎて行ったちょっといい女たち、実は彼女とやっちゃったの？　やってないの？　とりとめのないお喋りを続けています。時には極上なるスパのトリートメントを受けながら、時には牧歌的なスイスの山間を散歩しながら……。

伝説の名曲『シンプル・ソング』の作曲者であるバリンジャーの元には、女王陛下からの使者が何度も訪れ、記念式典での演奏指揮を願い出ていますが、なぜか頑なに断るバリンジャー。かたやこれまでの集大成で遺作ともなろう作品の脚本執筆に、若いスタッフたちと精力的に取り組むミック。そんなふたりの前に夢か現かこの世のものかと思われんばかり美と若さの塊のようなミス・ユニバースが現れます。「なんだ、あれ？」「神だろ」

とぼけた会話も哲学的に聞こえるのは、ふたりがお爺さんだから？　輝かしい芸術業績を残してきたふたりだから？　会話の端々で、それぞれが終生を意識しながらバカンスを過ごしていることがわかります。

物語の後半、ミックのミューズで、伝説の女優ブレンダ・モレル（ジェーン・フォンダ）が登場することでお話はクライマックスへ。若かりし時を振り返り愛した人たちを思い、残された時間何をすべきか？　

惜しくもアカデミー賞主題歌賞は逃したもののノミネートされた主題歌『シンプル・ソング』を韓国出身のディーヴァ　スミ・ジョーが歌いあげるラストは圧巻です。

西洋絵画の名画さながらの隙のない構図、天衣無縫なイメージの展開、豊穣ながら無駄のない音楽。フェリー二の再来ととも言われるパオロ・ソレンティーノ監督の最新作です。こちらの試写会に5組10名様ご招待いたします。