メディア・パブニューヨークタイムズ、
生き残りを賭けたデジタルシフトへ。

(2011.12.26)

ニューヨークタイムズ(NYT)社がデジタルシフトで大きな賭けに打って出ようとしている。

まずトップの挿げ替え。NYT社は同社 CEOのJanet Robinson氏を年末に退任させることを、12月15日に突然発表した。そして19日には、同社の地方紙16紙をまとめて売却することも公表した。ま た11月中旬に出されたニュースルーム・スタッフ20人の削減要請に応えて、次々と著名なベテラン記者が退社することも明らかになってきた。

米国の新聞社は崖っぷちに立たされている。先週発表された南カリフォルニア大学(USC)のレポートは、米国の新聞紙がほとんど5年以内に消えると予測し ている。生き残る可能性のある米新聞紙はNYT、WSJ、Wasington Post、USA Todayくらいと手厳しい。読者数や広告売上が減り続ける新聞紙に頼っていけないのは明らかで、米新聞社はオンラインを含むデジタル に賭けざる得ない段階に追い込まれたと言える。紙とデジタルの両立といった悠長なことは言っておれないのだろう。

米新聞界の旗頭である NYTも、事実上のCEOの解任まで強行して、デジタルシフトを加速化させるようとしているようだ。Janet Robinson氏はCEO期間中(2004年-2011年)、オンラインサイトの拡充やソーシャルメディア機能の取り込み、さらにはデジタルコンテンツ の有料化など、先進的なプロジェクトを手掛けてきた。実際、NYTがオンライン化やソーシャルメディア機能の取り込みでトップランナーであったのは間違い ない。全売上の中でデジタル売上高の占める割合も、図のように着実に増やしてきた。今年(2011年)はデジタルコンテンツの有料化も始めたので、デジタ ル売上比率は20%前後に達しているはず。

でも同社発行人のArthur Sulzberger Jr.は、CEOが進めてきたデジタルシフトが手ぬるいと見ていたようだ。実際これまで、デジタル化による増益で、膨らむ一方の紙新聞の損失を補えないで いた。また買収したAbout.comに対する取り組みも期待外れであったという。CEO退任を発表したのに、新任のCEOは決まっていない。内外の候補 者を探している段階と言う。オンライン/デジタルの専門性を備えた人を選びたいようだ。一方のニュースルームのスタッフ削減も、紙にこだわるスタッフに辞 めてもらって、Webやデジタルメディアに適した人材を増やしていきたいのが本音のようだ。

また、地方16紙を抱えるRegional Media Groupの売却も進めている。Halifax Media Holdings LLC.に約1億4500万ドルで売却する予定。16紙の総購読数は43万3251部で、フルタイムの従業員数は1755人である。2011年第3四半期 のRegional Media Groupの売上高は6000万ドルで、全体の売上高の11%に相当する。地方新聞紙の広告売上は一段と激減しており、はっきり言ってNYTにとってお荷 物となっている。これらの地方紙を売り払うことにより、The New York Times, The Boston Globe そしてThe International Herald Tribuneの旗艦3タイトルに集中して経営することになる。さらに良き買い手が現れれば、The Boston GlobeのNew England Media Groupも売ってしまいたいのではなかろうか。

(2011年12月21日)