ワシントンポストの大胆な試み、
広告料を払い企業も編集意見欄投稿

(2013.06.21)


 

米国の有力新聞ワシントンポスト(The Washington Post、WaPo)も、今週の水曜日(6月12日)からデジタル版/オンライン版の有料化に踏み切った。月間20本までの記事を無料で閲読できるメーター制を採用しているが、それ以上の本数の記事を閲読するには購読料を払わなければない。WaPoのPC及びモバイル向けWebサイトの月間購読料は9.99ドル、それにモバイル端末向けネイティブアプリ版も加えた購読料は月間14.99ドルとなっている。

デジタル/オンライン版の有料化は予告通り立ち上がったが、NYタイムズなどの後追いで特に新鮮味があるわけではない。新しい収益源が同新聞の売上高の長期低落を食い止められるかどうか。でもデジタルコンテンツの有料化だけでは厳しそう。そのためか今回の有料化に合わせて、新しい広告メニューも本格的に立ち上げようとしている。新しいタイプのオンライン広告で、チャレンジの観点ではこちらのサービスのほうが興味深い。

それは、”Sponsored Views” と称する新しいインターネット広告メニューである。WaPo編集のオピニオン欄の中で、外部のスポンサー(企業や組織)が自前のオピニオンを投稿できるようにしている。つまり編集欄の中に、外部企業のコンテンツが組み込めるわけだ。ただし最大600字のオピニオンを投稿するには、投稿料金を払わなければならない。これは、最近話題になっている”ネイティブ広告”の一種といえるのではなかろうか。

NYタイムズなどの米国の新聞では、新聞社の主張を述べる社説(editorial)に加えて、外部の識者や組織が独自の(時には社説の反論)意見を述べるためのOp-Edページを設けている。この流れをくんで、WaPoサイトの編集オピニオン欄でも、編集側のオピニオン記事(The Post`s View)に加えて、そのオピニオンに対するOp-Ed的なオピニオンスペースを用意することにした。そのスペースには、読者のオピニオンだけではなくて、外部の企業からのオピニオンも掲載できるのである。 WaPoの編集側が提供するオピニオン記事に対して、消費者が関心を抱くようなコンテンツ(意見)を世に発すれば、企業のマーケッティング活動やイメージアップに貢献するだろう。商品やサービスを売り込むだけの押しつけがましい企業広告が消費者から煙たがられる傾向が高まっていることもあって、企業も自社メディアの構築に力を入れて消費者に役立つコンテンツを発信しようとしている。フェイスブックやツイッターなどの公式アカウントや自社サイトも、メディア化に向かっているのである。いわゆるオウンドメディアである。ただ企業がコントロールするオウンドメディアは、消費者に広くリーチしないで埋もれたままになりがちである。そこで、その自社のオウンドメディアに誘導するための効果的な手段として、ネイティブ広告に期待が寄せられている。

そこで、”Sponsored Views”の実例を見てみよう。最初のスナップショットは、WaPoサイトのオピニオン欄に登場した編集側のオピニオン記事(The Post`s View)である。増大するサイバー攻撃の危機に関するオピニオンである。

この編集側のオピニオン記事に続く目立つ位置に、スポンサーからのオピニオン”Sponsored Views”を配していく。この例のスポンサーは、無線通信事業者などが参画する国際的な業界団体CTIA(Cellular Telecommunications & Internet Association)である。サイバー攻撃に関してCTIAが主張するオピニオンが掲載されている。このような流れだと、企業や組織のコンテンツでも目に留まりやすく、消費者に読んでもらえる機会が増えそうだ。

ただし、そのスポンサーのオピニオン記事を編集記事と識別するために、Sponsored Viewsと明記するとともに記事スペース全体に淡い黄色の背景色を敷いている。一方でスポンサーのオピニオン記事内には、スポンサーのロゴやURL(詳しい情報を提供しているサイトへのリンク先)も掲載できるようにしている。編集側のオピニオンに対する自前のオピニオン記事を投稿するには、アカウントを取得しておれば、以下のようなフォームに最大600字のオピニオンを書き込んで送ればよい。

Sponsored Viewsの掲載料金は明らかになっていないが、掲載時間や掲載日によって変わるという。スポンサーのオピニオン記事は原則として投稿順に掲載するが、投稿後2時間以内に掲載していきたいという。

これから企業は、各種課題に対して消費者に向けてオピニオンを伝えなければならない局面が増えるだろう。ただ、企業の主張をそのままマスメディアを通して幅広く伝達することは易しくない。意見(オピニオン)広告なら可能かもしれないが、その利用はかなり限定されるだろう。そこで注目されているのがネイティブ広告である。原則として、メディア編集側の手をバイパスして、スポンサーの自前コンテンツをそのまま発信できるからだ。ただメディア側としては、何らかの形でスポンサーのコンテンツをチェックしたい。ネイティブ広告については、米広告協会(IAB)ですらこのほどタスクホースを設けて調査を始めた段階である。でも一方で、試行錯誤の実践が一斉に始まっている。

(2013年06月15日)

参考
・Sponsored Views (washingtonpost.com)
・The Washington Post Launches “Sponsored Views” (washingtonpost.com)
・’The Washington Post’ Now Sells Ads in the Comments (Mashable)

関連記事
・ワシントン・ポストも着手したネイティブ広告 [2013-03-19]
・グーグルが米有力新聞NYT/WaPoと始める「将来のニュース」プロジェクトとは [2009-12-10]
・ワシントン・ポストのiPadアプリ、有料化前の大盤振る舞い [2013-03-27]
・ワシントンポストやガーディアンも、フェイスブック新聞に挑戦 [2011-09-25]
・グーグルのCEO,ツイッターでWSJに謝辞を [2009-12-08]
・ブロガーを喜ばせるブログ広告ネット,米新聞社WPが開始 [2006-08-19]
・NYタイムズ・サイトの「課金の壁」、なぜ抜け穴だらけなのか [2011-03-26]
・動きの鈍いマードック陣営に対し,動きの速いグーグル陣営 [2009-12-15]
・153年の老舗雑誌「Atlantic」、デジタル強化で勢い復活 [2011-06-06]
・米有力新聞のNYT,WSJ,WaPo,サイトの開放化がまた一歩前進 [2008-07-02]

メディア・パブ