メディア・パブ新聞、米国で最も縮小している
落ち目の業種に。

(2012.03.12)


 

米国で最もシュリンクしている業種は新聞であるのかも。LikdInの発表によると、2007年から2011年の間に最も従業員を減らした業種は新聞業界であった。リーマンショックによる金融危機に見舞われた波乱の時期であったが、人減らしで縮小している業種がある一方で、従業員を増やし拡大している業種も少なくない。

以下のLinkdInのグラフでは、各業種がこの5年間に増減させた従業員数の割合を示している。またプロットした円印の大きさは、増減させた従業員数の規模を示している。

(ソース:LinkeIn)

拡大している業種と、縮小している業種の代表例を以下に掲げておく。

◇拡大している業種例
+49.2%:Renewables &Enviroment
+24.6%:Internet
+24.3%:Online Publishing
+15.9%:E-learning

◇縮小している業種例
-12.8%: Automotive
-14.2%:Building Materials
-15.5%:Retail
-28.4%:Newspaper

新聞は28.4%も従業員が減り、米国でも最も縮小している業種になってしまった。確かに新聞社のレイオフが日常茶飯化している。新聞各社は競うかのようにニュースルームの記者も減らし続けた。だが一方でこの間に、オンラインパブリシング業界は24.3%も従業員数を増やしてきている。伝統的なメディアから新興のオンラインメディアへ、メディア関係者の流れが進んでいるようだ。ジャーナリズムはプリントメディアでないとダメと言い張る人も少なくなってきているようだし。

米新聞が経営的に崖っぷちに立たされているのは、今に始まったわけではない。少し前まで、米新聞の全売上の80%以上を、新聞紙広告(プリント広告)売上高に頼りきっていた。その命綱のプリント広告が読者の紙離れもあって、21世紀に入って急落下している。The Atlanticに記載されているグラフは、奈落の底に落っこちる新聞紙広告売上高の推移を物語っている。グラフではインフレ修正の入った新聞紙広告売上高を、1950年から2011年までの推移で示している。なんと、昨年の新聞紙広告は実質、約60年前の広告売上高に戻ってしまっているのだ。 

下げ止まらないプリント広告売上に頼っていくのは無理である。そこで、プリントからデジタル(オンライン)へのシフトに向わざるえなかった。多くの新聞社はデジタルシフトの掛け声を高らかに上げるのだが、どうも戸惑いが見られる。落ち目と言ってもプリント売上高の比率が高く、デジタル売上高はまだ低い。またデジタル事業の収益性が、歴史のあるプリント事業に比べかなり低い。このため、 Pew Research Centerの調査結果のように、新聞社のデジタルシフトの段階で、デジタル事業で1ドル稼ごうとすると、代償としてプリント事業の7ドル失うことになりかねないのだ。つまりプリント売上の占める割合が高い段階でデジタルシフトを加速化すると、弱体化している新聞社の経営破綻を早めてしまう恐れがある。

八方ふさがりの米新聞社が、最後の賭けとして打って出たのがデジタル(オンラインも含む)コンテンツの有料化である。あまりにも危険な賭けであることは分かっていても、もう他に打つ手がないと言ったところか。WSJやFTのような経済/金融紙は別にして、一般紙のサイトやデジタル版の有料サービスが成功するのは極めて厳しい。それでも米国の日刊紙1400紙の約20%が今年中に有料デジタルサービスに突入する。LATimesサイトの有料サービスも始まるし、Gannettは傘下の80紙全てにPaywall(課金の壁)を置く。新聞サイトの有料化で配するPaywallは、ソーシャルメディアを遮るSocialwallとなる心配もある。プリント売上も確保しようとする新聞社の中途半端さが気になる(FTは違って、価格設定に工夫を凝らして、プリントからデジタルへの読者シフトを後押ししている)。

新聞コンテンツのニーズは実は高まっている。ただ、伝統的なマスメディアが発行する新聞“紙”だけを新聞と定義するなら、米国では新聞の消える日は遠くない。でも日本は違うようだ。人口層の厚い中高年者向けとして新聞紙は長生きしそう。World Association of Newspapers and News Publishers (WAN-IFRA) の大会でも日本は羨望の的に。新聞閲読率が92%でアイスランドに次いで世界2位。発行部数の世界ランキングで、トップ10新聞に日本の4紙が入っている。日本の新聞1紙当たりの発行部数は46万1000部で、これは世界トップに。日本語の壁Japanesewallに守られているし。