メディア・パブTechCrunch、トラフィック急落
影響力低下の懸念。

(2012.03.06)


 

TechCrunchがどうも芳しくない。月間ユニークビジター数とページビュー数が昨年秋ごろから急落しているのだ。インターネット業界で抜群の影響力を誇っていたTechCrunchに、何が起こっているのだろうか。

月間ユニークビジター数の1年間の推移を、comScoreの調査データで見てみよう。以下の表のように、昨年8月に約500万人であったのが今年1月に355万人に大幅に減っている。またページビュー数も昨年8月の2600万から今年1月に1500万に落下した。


(ソース:comScore)

Technorati調査によるブログのAuthorityランキングでも、TechCrunchの影響力の低下が読み取れる。以前は総合ランキングでは、Huffington Postが1位に、TechCrunchが2位にほぼ定着していた。ところが、今日のTechnorati Top5 を見ると、4位に甘んじていた。


(ソース:Technorati)

またテクノロジー分野では断トツの影響力を誇示していたのだが、テクノロジー分野のランキングでは1位のEngadget、2位のThe Vergeに抜かれて、3位に落ちていた。またビジネス分野のランキングでも、1位の座をMashable!に奪われていた。

テクノロジー分野のニュースアグリゲーターの決定版であるTechmemeでも、掲載回数のシェアが縮小し始めている。米国のネット業界のインフルエンサーが必ずと言っていいほど活用しているTechmemeにおいて、掲載頻度が減っていけば影響力低下は避けられない。

4年前(2008年3月3日)と昨年(2011年3月3日)、今年(2012年3月3日)の3時点における、掲載シェアのランキングを掲げておく。過去1ヶ月間の掲載回数のシェアである。テクノロジー分野のメディアの勢力図の変遷も読み取れる。


(ソース:Techmeme)

TechCrunchは、2005年6月にMichael Arrington氏によって創刊されたブログであった。Web2.0ブームが沸き上がろうとしていた時で、そのWeb2.0ブームに乗って急成長し、2007年ころにはテクノロジー分野のトップブログにのし上がった。そしてソーシャルメディア時代に入っても、不動のトップを独走していたのだ。2011年3月の掲載シェアでも、Techcrunchが10.45%と2位を大きく引き離していた。ところが2012年3月には掲載シェアが7.17%になり、2位の7.13%のVergeに肉薄されているのだ。

順風満帆のTechCrunchに変調をもたらしたのは、2010年9月にTechCrunchがAOLに買収されてからであろう。TechCrunchの創業者のMichael Arrington氏はブロガーとしてもカリスマ的な存在で、ネット業界でトップインフルエンサーでもあった。一方でVCとしても意欲を燃やしていた。AOLに買収されてからも、TechCrunchは編集の独立を堅持し、Michael Arrington氏の指揮の下にそれまで通りブログ編集を続けていた。

ところがAOLが2011年2月にブログ新聞のHuffington Postまでも買収し、その創業者のArianna Huffington氏がAOLメディアの編集トップに就いてしまった。つまり組織上、Huffington氏がArrington氏の上司となる。両者が衝突するのは明らかであった。Arrington氏がVC事業のためにTechCrunchを利用しているとHuffington氏が非難し、ついに昨年夏にArrington氏をTechCrunchから事実上追放したのだ。

TechCrunchはArrington氏が看板のブログである。カリスマブロガーのArrington氏に加えてTechCrunchの人気ライター(ブロガー)も相次ぎ去ることになった。これが同ブログ記事の質に影響している。エッジの効いた鋭い記事が以前に比べ減り、ありきたりの発表記事が目に付くのもそのせいではなかろうか。また先週には編集長のErick Schonfeld氏が辞め、代わりにEric Eldon氏(前VentureBeat)を編集長に据え再浮上を狙うことになった。はたしてどうなるやら。

***

失速気味のTechCrunchに対し、急浮上してきた The Vergeの動向が見逃せない。Vergeは昨年11月に創刊したテクノロジー系の新生ブログであるが、Techmemeの掲載回数シェアでTechCrunchに迫り、またTechnoratiが示すテクノロジー分野のAuthorityランキングではTechCrunchを追い抜いてしまったのだ。

このVerge誕生の背景がおもしろい。AOL傘下の人気ブログEngadgetの編集長だったJosh Topolsky氏がAOLマネージメントを嫌って飛び出て、Vergeを創刊したのである。もちろんEngadgetチームの多くのスタッフも一緒にVerge発行に加わった。AOLのEngadgetが打撃を被ったのは間違いない。

それにしてもAOLは人騒がせな会社だ。ともかくEngadget、TechCrunch、Huffington Postの米国3大ブログを傘下に収めメディア王国を夢見たのは凄いのだが、ネット分野のメディアをけん引してきたEngadgetとTechCrunchの勢いに陰りが見え始めているのは残念である。一方でVergeやThe Next Webのようなブログメディアが急浮上しており、どうもネット分野をカバーするメディアの勢力図が塗り替わりそうである。

(2012年2月24日)