メディア・パブ ピンタレストマーケティング
エリートキュレーターの台頭 (その3)
(2012.06.16)
人気キュレーターがECサイトを繁盛させる
フェイスブックコマースの話題で昨年はおおいに盛り上がった。さらに今年に入って、米国ではピンタレストコマースの話が新たに加わってきている。
米国のECプラットフォーム提供会社「Shopify」は、オンラインストアへのピンタレストからの参照トラフィックがツイッターに追いついたと伝え、さらにピンタレストからのユーザーの商品購入買単価は、フェイスブックやツイッターからのユーザーに比べ2倍以上になっていると報告した。またShop.orgの発表によると、ピンタレストユーザーは同サイトで平均9.3店の小売店をフォローしているのに対し、フェイスブックユーザーはそれより少なく平均6.9店しかサイト内でフォローしていないという。さらにSteelhouseの調査によると、ピンタレストユーザの59%もが同サイト内で見た写真の商品を購入したことがあるのに対し、フェイスブックユーザーはニュースフィードや友人のウォールで見た商品を購入した割合は33%であった。ユーザー数が圧倒的に多いフェイスブックと比べると量的に少ないけれど、ピンタレストから来るユーザーがオンラインストアの優良顧客であることは確かなようだ。
では、どのようにすればピンタレストからより多くの顧客をオンラインストア(小売店サイト)に呼び込むことができるのだろうか。困ったことに、ピンタレストではフェイスブックやツイッターに比べ、直接的なプロモーションがやりづらい。一般に小売店のような商用(企業名)アカウントでは人気の個人アカウントのように多くのフォロワーを獲得できていないからだ(以下のグラフを参照)。
そこで、ピンタレスト活用で成功したと主張するShopifyの事例がどうなっているかを探ってみた。ShopifyはEコマース・プラットフォーム提供会社で、同社サービス利用のオンラインストアを世界で2万5000店以上も抱えている。膨大な数の商品写真が揃っているので、うまく整理して訴求すれば、多くのピンテレストユーザーを加盟オンラインストアに誘導できるように思える。そこで同社はピンタレストの商用アカウントを取り、ハブ的な画像ボードを用意した。でもピンタレストの規約でセルフプロモーションは原則として禁止されている。販促活動に制約があることもあってか、Shopifyのピンタレストボード(商用アカウント)にはわずか506人しかフォローしていない。貼り付けている画像総数も708点と多くない。画像ボードの中にCool Products on Shopifyとタイトル付したテーマボードを設けているが、やはりフォロワー数が425人と少ない。このボードには加盟オンラインストアからお薦め商品の写真を選んでボードに貼り付けているのだが、どの画像もほとんどrepinされていない。売りたい加盟店の商品写真を載せているだけで、キュレートされた写真ではないということか。要するにShopifyがクールと薦める商品が、ピンタレストユーザーにとっては必ずしもクールでないということだろう。
Shopify自身も、同社アカウントのハブ的な画像ボードを介して加盟オンラインストアに多くのユーザーを誘導できるとは考えていなかったのではなかろうか。Shopifyはオンラインストアに対してピンテレストガイドを提示し、ピンタレスト対策を支援している。ストアサイトは当然のことだが、ユーザーが欲する魅力的な商品を販売し、訴求する魅力的な画像(写真)を掲載しなければならない。そして、その画像をピンタレストのボードにユーザーによってpinしてもらうために、写真の近くに「Pin it」ボタンを置くようにする。それに加えて、ストア自身もアカウントを取ってストア専用の画像ボードを設ける。ただしそのストアの画像ボードに、単にオンラインストアに掲載されている商品写真を貼り付ける(pinする)だけでは、単なるプロモーションボードと見なされ、フォローされたりrepinされることが少ないのではなかろうか。ストアの画像ボードの担当者には、できれば編集能力の高いキューレーターを配すべきだろう。ストアの画像ボードをフォローするユーザーを増やすには、ストーリー性のあるpin編集が必要である。
Shopifyシステム利用の各オンラインストアは、ピンタレストガイドに従って対策を講じることにより、着実にピンタレストからの参照トラフィックを増やしてきている。また高いコンバージョン率を実現するために、ピンタレストに対応したオンラインストアのデザインも施しているようだ。参照トラフィックのランディングページが、商品画像を掲載しているオンラインストア・ページになるだけに、これまでと違ったデザインが必要であろう。
もう一つの成功事例を見てみよう。エリートキュレーターの登板してもらい、参照トラフィックを増やしECサイトを繁盛させた事例である。それを実施したのは、高級リゾートブランドで服やアクセサリーなどを販売しているCalypso St Barthである。同社のオンラインストアは洗練された設計が施されており、ピンタレストにも対応しているので参考になる。
もちろん同社も、企業アカウントの画像ボード(Calypso St Barth)を設けている。15種のテーマ別ボードを作成し出来栄えも悪くないのだが、商用(企業)ボードのせいかフォロワー数は多くなかった。現時点では急増して5253人に膨れたが、3月ころまで1000人にも遠く届かなかった。15種の各テーマボードのフォロワー数も、最近ようやく平均して2000人近く集まるようになった。ところが驚くべきテーマボードが突如現れてきた。そのボードは何と50万人を超える膨大なフォロワー数を擁しているのだ。
上のCalypso St Barthのボードで2番目に掲げられているテーマボード(Island Photoshoot)に、50万人以上ものユーザーがフォローしているのである。その画像ボードを覗いてみよう。(下のスナップショットではフォロワー数が90万人強となっているが、先ほどチェックすると約54万人であった)
このテーマボードには現在145本の画像が貼り付けられているが、その多くが Calypso St Barthのオンラインストアに掲げられている商品写真である。凄いのは、このボード上の各画像が平均して100回から500回程度もrepinされ、ピンタレスト上で多く露出されることである。この画像ボードのお陰で、大量の参照トラフィックがCalypso St Barthのオンラインストアに誘導されたのは間違いない。
ではなぜこのような奇跡が起こるのか。それは、エリートキュレーターであるChristine Martinez氏と組んだからである。彼女はピンタレストで世界10番目に多いフォロワー数を抱えた人気キュレーターである。現在、105万人以上のユーザーが彼女のボード(Christine Martinez)をフォローしている。彼女自身の個人アカウントのボードには現在、以下のように44種のテーマボードが存在する。
Calypsoと契約した彼女は、カリブ海のリゾート地で1週間楽しみ、その地で彼女お気に入りのCalypsoのリゾートファッションの写真を多く撮り、その日々の行動を彼女のブログで伝えている。その時の写真を中心に、彼女がキューレートした画像ボードが「Island Photoshoot」であるのだ。彼女自身の個人アカウント内の44種のテーマボードの一つに加えられた。彼女の個人アカウントには100万人以上がフォローしているので、彼女の各テーマボードでも50万人以上がフォローすることも普通である。案の定、Island Photoshootにも50万人以上がフォローした。Island Photoshootの画像(あるいはrepinされた画像)を介して、初めてCalypso St Barthの商品を購入したユーザーもかなりいるはず。
Island Photoshootのテーマボードは、同じものがCalypso St Barthアカウントのテーマボードとしても置かれた。エリートキュレーターの効果で、Calypso St Barthアカウントのフォロワー数も春先の1000人弱から10日前に2500人、そして今日は5400人と急増している。Calypsoのリピーターとなるファンが数倍にも増えたことになる。
こうした人気の画像キュレーターと企業(ブランド)とが組んだピンタレスト対応プロジェクトは、これから増えそうである。先頭を切ったChristine Martinez氏は、現在はCalypsoとしか契約していないが、今後は別のブランド(企業)とも組んでいきたいという。
(2012年6月12日)
追記:
参考
・ピンタレストマーケティングの鍵握るエリートキュレーターが台頭(その1)(メディア・パブ)
・A Case Study in Marketing on Pinterest(ShePosts)
・Fashion Brand Leverages Pinterest Through Elite Pinner (Balluun)
・Pinterest Users Ready to Engage With, Purchase From Retailers(Marketing Charts)
・How stylist Christine Martinez pinned her way to a fabulous new career(The Daily Dot)
・Survey Finds Consumers Using Pinterest To Engage With Retailers More Than Facebook, Twitter(National Retail Federation)
・台頭するPinterest、ソーシャルメディアマーケティングに新風を(メディア・パブ)