メディア・パブ調査報道NPOのプロジェクト、租税
回避地利用の有名人や企業名を公表。

(2013.04.13)


 

1週間ほど前から世界の主要新聞によって、租税回避地(タックスヘイブン)のペーパーカンパニーを活用している有名人や企業名などが次々と暴露され始めている。

下の写真は、2013年4月7日のワシントン・ポスト紙の記事例である。A1(1面)とA12面、A14面を使って、大々的に報道していた(写真はA12 面)。朝日新聞も4月5日に大きく紙面を割いて、「金持ち天国 タックスへイブン」の見出の記事を掲げていた。そのほか、英ガーディアン紙、英BBC、仏 ルモンド紙などの有力メディアも一斉に伝えている。

これらは、各報道機関の単独スクープではない。米国の調査報道NPO(非営利)であるCIR(Center for Investigsative Reporting)の国際報道部門ICIJ(The International Consortium of Investigative Journalists)が仕掛けたプロジェクトの成果である。

ICIJは、タックスヘイブン関連の膨大な秘密ファイルの分析を1年少し前から開始していた。その秘密ファイルはオーストラリアの調査報道ジャーナリストGerald Ryle氏(現在はICIJのディレクター)が取材過程で入手したもので、 英領バージン諸島などの租税回避地に設立されたペーパーカンパニーにおける取引内容などが大量に収められている。

ただ、ファイルデータ 量が260Gバイトとあまりにも膨大すぎた。2010年に世界中を震撼させたWikileaksで流出した米国の軍や外交の秘密文書のファイルデータ量が 2Gバイト弱であったのだが、それと比べてもいかに今回の秘密ファイルが巨大かがわかる。このファイルを分析すれば、12万社を超えるペーパーカンパニー や、租税回避地で脱税やマネーロンダリングを行っている実態が明らかになるのかもしれない。だが、ファイル数も250万件と膨大なうえに、ファイル形式も バラバラで非常に込み入っているだけに、ICIJだけではとても手に負えない。そこで、世界中の報道機関や記者と協力して、取材し分析することになった。 46カ国の記者86人が参加している。

またNUIXソフトウエアを無料で使わせてもらい、複雑で多様な秘密ファイルを英国人プログラマーによって検索可能なデータベースにしてもらった。その結果、分析作業がかなり効率よくできるようになったようだ。

この国際協力プロジェクトの成果が4月3日から4月15日まで、ICIJのサイトや協力している報道機関などを中心に、一斉に報道されているのだ。ICIJのサイトに飛ぶと、秘密ファイルに記録されている政治家、独裁者、経営者、あるいはその親族の顔写真が目に入る。この国際プロジェクトの成果をアピールするかのように、とりあえず話題になりそうな29カ国の富裕者をまな板に乗せたのだろう。

でもこのプロジェクトの調査は、これから1年近く続けられる。今後次々と、租税回避地を利用した個人名や企業名が公表されるはずだ。例えば米国の個人の場 合、約4000人が秘密ファイルからリストアップされているようだが、そのうちの少なくとも30人は不正取引などで訴えられると見ている。いくつかの金融 スキャンダルが明らかになるのかもしれない。

朝日新聞もICIJと提携して、この国際プロジェクトに参加している。4月5日の新聞記事では、秘密ファイルにオリンパス事件の関係者が出ていることを伝えていた。さらに9日には、丸紅や東北電力が租税回避地の取引に関係していることを紹介している。朝日新聞デジタルでもタイムラインで、これからの調査成果を伝えていくようだ。

(2013年04月10日)

参考
・Secret Files Expose Offshore’s Global Impact(ICIJ)
・HIGHLIGHTS OF OFFSHORE LEAKS SO FAR(ICIJ)
・Who Uses the Offshore World(ICIJ)
・The ‘Offshore Leaks’ data detectives(DW)
・Piercing the secrecy of offshore tax havens(Washington Post)
・ 租税回避地での有名人脱税告発が波紋(朝鮮日報日本語版)
・Marubeni, Tohoku Electric involved in offshore deals through tax havens(Asahi Shimbun)
・流出文書に東北電系など公益企業名も タックスヘイブン(朝日新聞デジタル)
・Intercontinental collaboration: How 86 journalists in 46 countries can work on a single investigation(The Nieman Journalism Lab)

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