メディア・パブデジタルシフトするNYタイムズ、
2011年に活路を見出したのか。

(2012.02.08)


 

デジタルシフトに生き残りを賭けるNYT社(The New York Times Company)。だが現実は厳しい。昨年(2011年)はデジタル有料化をバネに回復軌道に乗るはずだったが、景気後退もあって再び減収減益となった。

次の表は、2011年第4四半期(9月-12月)および2011年通年の決算である。2011年の売上高は2.9%減の23億2340万ドル、経常利益は75.8%減の5671万ドルで、純損益が約4000万ドルの赤字となった。


*NYT社(The New York Times Company)の2011年10-12月期および2011年(年間)決算:単位:1000ドル

 
新聞紙の読者離れと広告離れが進み、構造的な不況業種に陥っている米新聞業界。優等生であったNYT社も例外ではない。以下は、ここ10年近くの間の、同社の広告/販売/その他の売上高の推移である。総売上高の8割前後を占めていた広告売上高が急降下し、経営破綻寸前まで追い詰められたりした。

 
次は、営業利益(棒グラフ)と売上高、経費の推移である。数年前まで、30億ドル以上の売上高と5億ドル以上の営業利益を続けていたのに、2011年はそれぞれ23億ドルと5670万ドルにまで落ち込んでいる。2008年と2009年はリーマンショックに端を発する世界的な不況による広告の大不振で経営危機に追い込まれたのだが、人員削減やオフィス売却、さらにはメキシコの富豪に支援を仰いだりして、何とかしのいできた。その後の2010年は、徹底した経費削減とオンライン広告の再成長などもあって、営業利益も回復してきた。そして2011年はデジタルコンテンツ有料化をバネに回復軌道に乗ることが期待されていたのだが……。結果は減収減益で純損益が赤字に。地方紙(Regional Media Group)を売却したり、Boston Red Sox株の3000万ドル分の売却で食いつないでいくことになる。


(ソース:Business Insider)

上の二つのグラフを見ていても、NYTの長期低落のトレンドは2011年も続いたことになる。欧州の金融危機などによる広告売上高の下振れや、同社傘下のAbout Group(About.com)の大不振(Google検索エンジンのアルゴリズムの変更により来訪者が激減)もあって、2011年に再び長期低落の流れに振り戻されたのだ。

同社がいますぐ経営破綻することはないようだが、このままでは破綻は時間の問題となる。そこでデジタルシフトの成果に頼らざる得ない。2011年はその大きな第一歩として、本格的なデジタルコンテンツの有料化に踏み切った。NYTのデジタル有料購読者数は次のように着実に増えてはいる。

・2011年第2四半期:28万1000人
・2011年第3四半期:32万4000人
・2011年第4四半期:39万人

成果として、2011年の販売売上高(circulation)が前年比1.1%増とプラスに転じた。有料購読者数が積み上がっていった同年第4四半期には、前年同期比4.7%増となり効果も少しずつ目立ってきた。

一方で心配されたのは、デジタルコンテンツの有料化に伴いユニークユーザー数が減り、デジタル(オンライン)広告売上高が大きく落ちるかもしれないことであった。だが、毎月一定数の記事を無料で閲覧できる「メーター制」を採用したこともあって、ユニークユーザー数もほとんど減ることがなかった。そのため、News Media Groupの2011年デジタル広告売上高は前年比10%増の2億3350万ドルへとアップした。

ということで、NYTのデジタルコンテンツ有料化の滑り出しは成功したと言える。それでもNYTの台所事情が相変わらず厳しいのは、新聞紙広告売上高の落下が止まらないためだ。2011年の広告売上高が前年比6.1%減、2011年第4四半期が同7.1%減と落ち込んだ。今のデジタルシフトだけでは、まだ活路が開けたとはいえない。

そこでNYT社はお荷物の事業を売り払うことを考えている。News Media Groupには、旗艦のNYTimesとIHTが属する「The New York Times Media Group」、Boston Globeなどが属する「New England Media Group」、それに地方紙を抱えている「Regional Media Group」の3グループから成る。赤字を垂れ流している地方紙の売却に続いて、次はBoston Globeも売り払いたい。

NYTとIHTが属する「The New York Times Media Group」だけだと、売上高は下げ止まるだろう。以下のように2011年売上高は昨年並みを保っている。デジタル事業の成果もはっきりと表れる。

The New York Times Media Groupだけに限れば、2012年は2011年に比べ業績が良くなりそうだ。現在のデジタルコンテンツの有料購読者数の39万人でも、年間を通せば8600万ドルになるという予測も出ている(Ken Doctor氏の予測)。ただし、割引制度もあるし、正規の購読料を支払っている読者数は少ないとの意見も多い。でも、今年も新規の有料購読者数が増えるであろうから、販売売上高の15%近くをデジタル販売が占めそうである。一方、2012年のデジタル広告も10%成長が続けば、広告売上高の中でデジタル広告が占める割合が30%を大きく超えるはずだ。プリントからデジタルへの主役交代が近付いているのは確かである。

これまでデジタル売上の比率が低かったため、新聞紙広告の売上高がほぼ業績を左右していた。だがデジタルの売上比率が高まってくると、デジタル売上高が全体の収益に大きく影響するようになる。今年は米大統領選とロンドンオリンピックの2大イベントのお陰でプリント(新聞紙)広告売上が減らないとの予測も出ており、その希望的な予測が当たれば、デジタル売上の伸びが利益に直結し、デジタルシフトが加速化する年になるかもしれない。

(2012年02月07日)