片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)「21世紀はショートフィルムの時代」
別所哲也さん

(2013.06.05)

「NGOな人々」”Non-GAMAN-Optimist”とは、「ガマン」していられず、チャレンジをし続け決して諦めない「楽観人」のこと。NGOな人々へのインタビュー第28回目のゲストは、俳優であり ショートショート フィルムフェスティバル &アジアの代表を務める、別所哲也さんです。

■別所哲也 プロフィール
(べっしょ・てつや)俳優、ショートショート フィルムフェスティバル& アジア代表。慶應義塾大学法学部卒。90年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)会員となる。以降、映画・TV・舞台・ラジオ等で幅広く活躍中。2010年4月、第1回岩谷時子賞奨励賞授賞。99年より、日本発の国際短篇映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」を主宰。2004年には、米国アカデミー賞公認映画祭に認定され、現在、アジア最大級の規模を誇る。これまでの映画祭への取り組みから、文化庁長官表彰を受賞し、観光庁「VISIT
JAPAN大使」、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員、カタールフレンド基金親善大使、横浜市専門委員、映画倫理委員会委員に就任。8月23日~9月2日まで、新国立劇場・中劇場にて、舞台「激動」に川島浪速役で出演。
photos / 井澤一憲

 

   
●『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2013』
2013年6月16日まで、東京・横浜にて開催中。米国アカデミー賞公認・アジア最大級の映画祭。今年は世界120以上の国と地域から集まった約50,00本の作品の中から、特別上映作品を含めた選りすぐりの約200作品を上映。グランプリ作品は次年度の米国アカデミー賞短編部門のノミネート選考対象作品となる。
SSFF & ASIA ホームページ: http://www.shortshorts.org/2013/

ショートフィルムとは?
片岡:今回、別所さんには『ショートショート フィルムフェスティバル
& アジア(SSFF & ASIA)』の代表としてお越し頂いたわけですが、まず“ショートフィルム”と呼ばれる映像作品の文化について、そして、別所さんがショートフィルムの世界に深く携わっておられるということについて、一般の方々にはまだ詳しく知られていないような気がしています。まず、別所さんが“ショートフィルム”に興味を持たれたきっかけとは?

別所:もともと僕はハリウッド映画でデビューをさせて貰って、アメリカで映像デビューしてから日本に戻ってきたのですが、当時から現地では“ショートフィルム”って独特の存在だなとは感じていました。色んな映画会社が試写(スクリーニング)を行っていたり、国際短編映画祭も開かれていたり、という情報を聞いてはいましたが、実際、ショートフィルムを観る機会は全然なくて。

その後、日本とアメリカを行ったり来たりしながら活動をするようになって、アカデミー賞にも短編映画部門がありますし、渡米するたびに現地で知り合った映画関係者からショートフィルムのスクリーニングへ誘われますし、一体どういうものなかなぁと思って。それで、1997年に3か月ほどロサンゼルスに滞在した時、友人が監督した作品を観たのが初めてのショートフィルム体験でした。そこからグッとハマっていくことになります。

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片岡:あまり予備知識のない読者のために、初歩的な質問ですみませんが、“ショートフィルム”の定義といいますか、「長編映画」や「テレビドラマ」などと比べると、どんな違いがあるのでしょう?魅力の違いなどはありますか?
別所:解りやすいところでいうと、「上映時間が短い」こと。SSFF & ASIAの応募規定だと上映時間は25分以内。90分の長編映画やテレビドラマよりもさらに短い時間です。その限られた時間の中で、最大限のアートや表現を詰め込んで伝えることができる、というのがショートフィルム最大の魅力だと考えています。

それと同時に……少し難しい言い方になってしまいますが“映像未来地図”でもあると思うのです。これから世界に名だたる監督として映画界を背負って立つであろう若い映像クリエイターも、はじめの一歩はショートフィルムからスタートするわけで、画家で言うとデッサン、音楽家で言うとデモテープ、宝石で言えば原石のような、いち早くその才能を観ることが出来る、そんな面白さがあります。


5/30(木)オープニングセレモニーにて。左から別所哲也(SSFF & ASIA代表)、特別賞受賞の河瀬直美さん(映画監督)、話題賞受賞の中尾明慶さん(俳優)、プレゼンターの石井竜也さん、司会のLiLiCoさん。

21世紀はショートフィルムの時代。

片岡:こういう言い方が合っているか解りませんが、いきなりテレビの長編ドラマや大作の映画を作るのはコストも時間も労力も相当かかりますから、「試作」って難しいですよね。ショートフィルムからのスタートというのは色んな条件から見てフィットしやすいという側面はありますか?

別所:そうですね、アメリカでは「スナックサイズムービー」とも呼ばれていたりしますから、作り手としてもアイディアを気軽に試せますし、観る側としても肩に力を抜いて楽しめるサイズではあります。最近では“Desktop
FilmMaking(デスクトップフィルムメイキング)”と呼ばれるように、誰でもスマートフォンやカメラで動画を撮って、パソコンなどの映像編集の道具を持つ時代になって、インターネットで作品を上映することが出来るようになっていますから、より“21世紀はショートフィルムの時代”と言えるのかもしれないですね。


横浜みなとみらいのショートフィルム専門映画館。1プログラム60分の中で4~6本上映。映画祭終了後も世界中から集まった選りすぐりの作品を楽しめる。

主宰者としてやらなくてはいけないことは全部やりました。

片岡:確かにインターネットの存在で、作品の公開はしやすくなりましたね。

別所:ショートフィルムに関心を持って、この文化を国内でも普及させたいと思って映画祭を始めたのが1999年、今年で15年目になりますけれど、当時ショートフィルムと言ってもピンと来なかった頃から比べれば、今は当たり前のようにインターネットで作品を観ることも出来ますし、ショートフィルムと言えばみんながパッと思い浮かぶような存在になりつつある。だからこそクオリティとか、映画ってなんだろうとか、シネマチックとは何だろうとか、皆さんそれぞれの考え方が出てきているんじゃないかなぁと思います。

片岡:若い映像クリエイターにとっては、ショートフィルム作品を公開していくことが名刺代わりになっていたりするのでしょうか。

別所:もちろん。ショートフィルムは若手映像作家の登竜門と言われていますから、パスポートとして持っているようなものです。デザイナーがポートフォリオを作るように、長編映画のパイロット版を短いサイズにブリーフィングすることもあります。ただ、今は圧倒的にネット社会の時代、WEBメディアや電子書籍の時代ですから、ショートフィルムのサイズ感で映像クリエイターの活躍する場所が飛躍的に増えています。『Newsweek』は紙媒体から撤退し、完全に電子版へと移行しましたが、例えば新聞の4コマ漫画だったエリアがショートフィルムに取って替わって、そこにスポンサーがつくような時代なのではないかと思います。


「主宰者としてやらなくてはいけないことは全部やりましたまずは手近な道具を使ってトライしてみて欲しいし、どんどん作品を発信して欲しい。そして、ショートフィルム作品にたくさん目を通してみてください。」と語る別所哲也さん。

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片岡:いまスポンサーというお話が出ましたが、15年前にフェスティバルを始められた時は、まだ国内でショートフィルムの認知度もままならない中、あらゆる段取りを組まれたわけですよね。スポンサーも集めなくてはいけない、作品も集めなくてはいけない…かなりご苦労されたのではと思いますが。

別所:もう苦労したところって、全部ですよ(笑) これまで俳優しかやったことのない人間が映画祭をやるといっても、1から10まで何も解らないわけですよ。会場押さえの申請書類書きから始まって、準備の必要な機材を改めて確認しながら、あぁこんなに自分はこれだけ映画に携わっていながら映写機の事すら何も知らないものかとも思いましたし。海外作品集めの企画書や契約書を日本語版と英語版で作って交渉したり、信用のために米国で法人格を作ったり、もうとにかく主宰者としてやらなくてはいけないことは全部やりましたから。

片岡:1から10まで。

別所:そうです。だから準備に1年かかっちゃったんですけどね。日本に戻って来ても、開催するにはどれくらいの資金が必要か見積もり建てをして、スポンサーを探すためのセールスシートを書いて、開始当時はフィルムでしたから受け入れた作品の税関手続きをしたりとか、字幕をつけるために字幕業者を探したりとか、一通り全部やりました。なので、どれだけ映画祭のサイズが大きくなっても、基本的に運営には何が必要なのかが自分の頭でわかります。まぁなんでしょうね、もし今度、映画祭の主宰者の役が来たら、完璧に演じる自信ありますね(笑) もはや、ライフワークになっていますから。

ストーリーテラー不在の国。

片岡:別所さんというと、僕はミュージカルなどを最前列でよく拝見したこともあって、役者さんとしてのイメージが大変強いのですが、主宰者をやってみようと思われた理由はなんだったのでしょう?

別所:ありがとうございます!おっしゃる通り、確かにそう見られるとは思うんですよね。例えば、すごく美味しい食べ物に出会ったり、すごく感動した本に出会ったり、素敵なロケーションに出会ったら、大切な仲間に教えたくなっちゃう気持ちってありませんか?「ね、素敵でしょう?」って一緒に言いたくなるんですよね。どんな反応があるかワクワクする気持ち。

アーティストやエンターテインメントに関わっている人間って、人と人との繋がりを感じたいというか、自分の知った情報を仲間にシェアしてリアクションを知りたいという願望があると思うんです。どう受け止めて感じてくれるのか知りたいという本性を持っていると思うんですね。なので、僕はショートフィルムから得た感動を周りにシェアしたかった。話しただけでは伝わらないかもしれないので、持ってきたわけです。

片岡:なるほど。

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別所:もう1つ他に理由があって、アメリカで映画に出ている時、向こうの方々によく言われたことですけど、「日本人はモノ作りはするけれど、物語が聞こえてこないね」と。どんなプロダクトも素晴らしいんだけど、どんな人がどういう想いで作ったのかが伝わってこない。それにまつわる想いもきっとあるんだろうけれど、それを語るstory
tellerが居ないということなんですよね。

それから、日本人はランキングビジネスとか、アーカイブビジネスとか、オークションビジネスといった、自分が造ったものじゃないものに価値を付けて、磨いたりリバリューするっていうことをもっと積極的に行わなければならないと思うんです。「どうして日本人は「表現をする」という才能を使って評価してもらえる立場に立とうとしないのだ? と。

片岡:たしかに。

別所:変な話、人々は何が好きで、何が嫌いか、映画祭はそういった評価を受ける場でもあるわけです。日本ではあまり馴染みはないかもしれませんが、欧米では他者のパフォーマンスに対しての価値付けは当たり前に行われていることで、先生にも点数をつけるし、自分は何が好きで、何に価値があると思うかハッキリと示します。

そのように「価値と向き合う」場が日本にあってもいいのではないかと思ったんですね。偏差値を付けるとか順位を付けるとかではなくて、何が自分にとって感動するものなのか? 価値を感じるのか? それを感じる機会をぜひやってみたいと。

片岡:なるほど。日本ではあまりお目にかかれない機会ではありますね。

別所:国内でも芥川賞とか直木賞とか色々アワードはありますけれど、何故か海外で評価されると、今まで何も言ってなかった人が急に「ハリウッド映画からの凱旋で~」とか「や~パリコレから帰ってきた人ですからねぇ」とか持ち上げ始めたりするじゃないですか。

片岡:それはありますね(笑)

別所:でも本来は、海外で認められる、認められないとかじゃなくて、誰かに価値づけされてから慌てて「やっぱりね」って手のひらを返すっていうのは変な話ですよね。僕も、アメリカでデビューした経緯があって、不思議に思っていたことなんです。

ショートフィルム後進国、日本。

片岡:日本より海外の方が普及している感じはありますが、ちなみにどの地域が一番活発だとか、ショートフィルムに地域性はあるのでしょうか?

別所:すぐ近くだと韓国。国策でどんどん作られています。大学や教育機関を含めて圧倒的な数を作っているのはアメリカ・カナダ、ヨーロッパ、南米やオーストラリアやニュージーランドでも作られています。僕らの知らないところで映画ってものすごく沢山作られているんです(笑) だから、日本だけですよ。ショートフィルムっていうものの作品数がまだ少なく、ここ20年位の歴史が浅い国って。

片岡:インドとかは、どうなんでしょう?

別所:インド・フィリピンって長編映画製作の土壌が厚いといいますか、まだ日本映画の全盛期50年代60年代の頃のような雰囲気ですね。テレビ映画も含めてどんどん長編が作られているので、短編を作るという文化はあんまりないです。ネットの影響で徐々に短編も作られてはいますが、それでもまだ数としては少ない。

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片岡:なるほど…例えば、今回のフェスティバルにも多くスポンサーがついていますが、純粋なコンテンツ以外に、クライアントオリエンテッドな作品も海外では増えているのでしょうか?クライアントにとっての魅力はどんなところになるのでしょう?

別所: Branded Entertainment(ブランデットエンターテインメント)とか様々な言い方がされて久しいですが、初めてそれを大がかりに展開したのは大手車メーカーによるショートフィルムを使ったプロジェクトです。

大物アーティストをキャスティングしたショートフィルムのオムニバス作品がネット限定で公開されました。最近では、ファッションブランドや雑誌社も積極的に公式動画チャンネルを持ってショートフィルムを公開するようになってきていますよね。品質や安心を伝えるだけでなく、顧客へのエンターテイメントとして、ビジュアルコンテンツ上で様々な情報のプレイスメントを行うのは大変有効だと思います。これを僕はVisual Vehicle(ビジュアルビークル)と呼んでいますが、ショートフィルムはブランドメッセージやプロダクトイメージなど感性に訴えかけるコンテンツに大変適している。多くの企業のトップ、マーケティング、広報のトップはきっとその可能性に気付いていると思います。

片岡:あと、これは質問するか迷ったのですが、例えば劇団や芸術といったクリエイターはあまりクライアントの意図が入ったものを作りたがらないようなイメージもあるのですが。

別所:それは、僕は両方あっていいと思っているんです。どんなエンターテイメントでも起きる問題だと思いますけれど、非常に純度の高い純文学のような作品もあれば、コマーシャル寄りの、インダストリアルデザインに近い作品もあるでしょう。そのどちらも守備範囲だと思っています。ただ、根幹にあるものは人と感性でつながりたいということであって、最終的には同じだと思います。

片岡:ベースは一緒ということですね。

別所:僕は俳優として演じるというモチベーションも、映画祭の主宰者としてのモチベーションも一緒なんです。みんなが喜んでくれたら、それがうれしい(笑)

ショートフィルム×ソーシャル。

片岡:この15年ショートフィルムを通じて見えてきた景色は、当初より随分変わっていることもあると思いますが、これから先10年、20年、ショートフィルムの未来形ってどのようにお考えですか?

別所:そうですね、映画の世界もみんなが道具を持てる時代になりました。誰でもタブレットやスマートフォンで気軽に動画が撮れて、一眼レフでも動画が撮れるような時代になって。動画は撮れるんだけど、じゃぁほんとにその時代を切り取ったり映し出したり、メッセージ性のある物語を作れるかっていうと、それには専門性の高いテクニックや、高い教養や、根本的に努力して磨かれる才能が必要です。20世紀の後半に花開いた、たかだか100年しかないビジュアルコンテンツ文化ですから、この先の未来は、更に高いクオリティ、真の職人が求められていくだろうとは思います。

それに、ネットの時代にはもうなりましたけれど、真偽の定かもない玉石混交に埋もれた作品の山から、才能の原石をセレクトする力、良い作品を見立てるお目利き役の存在は益々重要になってくるでしょうね。とはいえ、何が本物で、何が偽物かは、それぞれの価値観やコミュニティによっても大きく違って来るのでしょうけど。

片岡:「FILM AID(フィルムエイド)」の活動を通じての社会貢献活動もされているとのことですが。何かきっかけがあったのですか?

別所:もともとフェスティバルを始めた2年目から、海外から来日した監督たちと一緒に、原宿・表参道で、“スイーパーズ”という道路清掃活動を行っているんです。
これはアメリカから来た監督が、映画祭なのに何かチャリティやボランティアはやらないのかと指摘されてハッとしました。日本だとそういう活動を声高にやっても、本気でやっているの?なんて思われたりしがちですけど、海外では自分たちのやっている活動と社会とどう繋がるかを考えていらっしゃる方がすごく多くて。それ15年前ですよ?なんかドキっとしたんです。

実際世界の映画祭や、海外のどんな社会性のあるイベントを回っても、単にお金儲けをするだけじゃなくて、社会貢献活動は当たり前に行われていることなんですよね。

片岡:当然なんですね。

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別所:そうなんです。そういった活動にスポンサード頂くクライアントも同じ思いだと思います。大きくは3.11があって、コミュニティとどう繋がるかということが企業にとっても大きなテーマになりましたよね。ソーシャルな時代だとか流行り言葉もありますけど、そういうことではなくて、やっぱり僕たちが映画の真ん中にいるのは、映像で何か人の気持ちを変えたり、人の行動を起こしたり、感動した先の何かを信じているからで。僕はよく“Passion(パッション)、Mission(ミッション)、Action(アクション)”と言うのですが、どれだけ気持ちが動いても最後のAction(行動)がなくては意味がない。

今年は、『モエ・エ・シャンドン』の賛同によりシャンパンボトルに著名人の方々にサインをいただき、後日オークションにかけ集まった金額をすべてフィルムエイドアジアに寄付するという取り組みをはじめたんです。

フィルムエイドが映像を通じて、世界の社会貢献活動を支援したり、賛同する気持ちを伝えたり、オークションすることでそこに集まるお金を有効に使ったり。映像の力が世界を変えることも出来る、ということを一緒に伝えていけたらと思っています。


オークションにかけられる多くのセレブレティの方がサインした『モエ・エ・シャンドン』のチャリティボトル。集まった金額はすべて、Film Aid Asiaに寄付され、活動の資金となります。

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片岡:では最後に、このフェスティバルを通じて伝えたいメッセージを頂けますか?

別所:そうですね、一言では難しいですが、もしショートフィルム制作に少しでも興味があれば、まずは手近な道具を使ってトライしてみて欲しいし、どんどん作品を発信して欲しい。そして、ショートフィルム作品にたくさん目を通してみてください。ショートフィルムの魅力や、映像の持つ力をぜひ感じて欲しいと思います!


「実際、世界の映画祭や、海外のどんな社会性のあるイベントを回っても、単にお金儲けをするだけじゃなくて、社会貢献活動は当たり前に行われていることなんですよね。」という別所さんと。

あとがき

その昔、人が映像を撮って人に見せたいと思ったら、まず映画会社に入社して映画監督になるしかありませんでした。やがて、テレビが普及し、テレビ番組やCMを通じ動画に触れる機会は格段に増え、家庭用デジタルカメラの普及によって、動画の撮影や編集は自体は手軽に自宅でもできるようになりました。今では、パソコン上で動画をつなぎ、音入れから、編集効果、テロップ入れなども簡単にできます。

一方で、別所さんも仰っているように、その時代、その人、その事件などを、確かな視点で切り取り、メッセージ性のある「物語」を作れる映像制作の高い専門性や、幅広い教養、長い経験によって磨かれた才能は、今だ、良い意味での「発展途上」にあると思います。以前、ある講演会の質疑応答で「テレビの未来はどうなるのですか?なくなるのですか?」という質問を受けたことを思い出しました。私の答えはシンプルでした。

「それは『テレビ』の定義によります。『動画』の需要は今後、間違いなく増え、あらゆる技術も発展していきます。」とお答えしました。ある人が創った「映像」が、多くの人に正しく評価され、当たり前のように世界を超えて普及していくことが当たり前になる時代が近づいています。