21世紀のビジネス最前線 ゲーム業界 その4市場の細分化が進むゲーム業界
ゲームメーカーの次なる戦略とは?

(2011.11.21)

株式会社バンダイナムコゲームス
(NAMCO BANDAI Games Inc.)
上席執行役員 浅沼 誠氏

バンダイナムコゲームスはこれまで『太鼓の達人』『テイルズ オブ イノセンス』などのヒット作品を送り出してきた。パッケージゲームとソーシャルゲームの違い、ヒットの確率を上げるために必要な視点について語った。


株式会社バンダイナムコゲームス 上席執行役員 浅沼 誠氏
スマートフォン、タブレットの登場をはじめ
多様化が進むゲーム端末 。
市場の中で住み分けが進む見通し。

ゲームメーカーと呼ばれる我々のような業界では、事業の中心はパッケージゲームです。一部で言われているように本当にパッケージゲームがなくなっていくかというと、私は必ずしもそうではないと思います。たとえば9月に発売した『テイルズオブエクシリア』は、PS3フォーマットで7800円と値段も決して安くはないにもかかわらず、発売から一週目で約50万本売れました。パッケージゲームにはまだまだパワーがあるとも考えられるし、一概に全部ダメになっていく訳ではないと思います。

ただ、確実に言えることは、ユーザーの選択肢が増えてきたということです。30年ほど前は、個人の家で遊べるデジタルなゲームを楽しむデバイスと言えばパソコンくらいしかありませんでした。そこから『ファミリーコンピュータ』が出てきた。その後『セガサターン』や『PlayStation®』とだんだん選択肢が増えていき、一気に市場が広がっていきました。そうしてしばらくしたら携帯電話が出てきた。現在はiPhoneやAndroidといったスマートフォン、さらにiPadをはじめとしたタブレット端末が普及しはじめています。普通のパソコン自体でさえ、昔はちょっとしたものでも20万、30万円としたのが、今では随分ハードルが下がってきましたよね。

各々のプラットフォームでコンテンツが提供されているので、簡単に言うとユーザーの選択肢が大きく広がったと言えます。ユーザーは幅広い選択肢から選ぶことに慣れていくので、将来的に本当にだめなものは淘汰される可能性がありますが、今だいたい残っているプラットフォームは、色々な意味でこのまま継続していくのではないかと思っています。

ビジネスモデルは手探り段階。
ゲームメーカーは
幅広いプラットフォーム展開で収益確保をねらう。

今、ソーシャルゲームを中心に、アイテム課金制のゲームが流行っていますが、この方法がゲーム業界におけるスタンダードになっていくかはまだわからないといったところです。

たとえば『PlayStation®』など従来のプラットフォーム、パソコン、iPhone、iPadのゲームなど、ユーザーの選択肢は横に広がっている。個別にみると従来存在したパイが減少しているように見えるのですが、20時間、30時間とゲームで遊ぶヘビー・ユーザーが今でもたくさんいるので従来のパイが最終的にゼロになることはないと思います。プラットフォームごと、ジャンルごとに成長したり、また少しへこんでいったりをこれからも繰り返していくのではないでしょうか。

ー市場の細分化によってプラットフォームごとのユーザーが先細りしている中、ゲームの開発費を回収するのはなかなか難しいのではないかと思うのですが。

そうですね、いわゆる投資効率といえばいいのでしょうか、かけるお金と返ってくるお金の割合は随分変わってきていると思います。どうしてもプラットフォーム、ハード側が進化していくと、ハードの性能を十分に生かしたソフトを開発したいですよね。たとえば『ニンテンドーDS®』では、画面が2個になり、3Dと進化してきた。当然ながら開発費は上がっていきます。そうなってくると、企業は資産を活用して、タブレット式のもので同じゲームをつくるとか、iPhoneのゲームを作るなど、工夫していかなくてはならないと思います。

幅広いプラットフォームに進出する
バンダイナムコゲームス。
ソーシャルゲームの手応えを聞く。

プラットフォームにこだわらず、ユーザーの需要がある場所に対してはコンテンツを提供していきたいと思っています。弊社はいくつかののレーベルで製品を販売していますが、例えば<バンダイ>レーベルは、『ガンダム』や『ドラゴンボール』といったキャラクターのゲームが中心です。そうしたキャラクターには根強いファンがいるので、今でも多くのプラットフォームから発売しています。そして今やDeNAやGREEといったSNSの会員はそれぞれ2000万人を超えており「なんで『ガンダム』のソーシャルゲームがないんだ」という声も聞こえてきました。弊社も、人が集まっているプラットフォームにはゲームを提供していきたいと考えていて、ある程度の規模のユーザーがいて、ビジネスモデルを構築できるのであれば、しっかりとコンテンツを提供していこうというスタンスです。

ーソーシャルゲームと従来のゲームは、ゲームの作り方や課金の仕方が全然違うと思いますが、抵抗はありませんでしたか?

長年ゲームをやってきたような人は、もともとSNS自体やっていなかったと思うのです。私もやっていませんでした。しかし、もっと若い世代、物心ついた時から携帯電話が存在している世代は、何の抵抗感もなくソーシャルゲームで遊び始めている。そんな中、ソーシャルゲームの課金システムが成功するのかどうかというところについては、取り組んでみないとわからないというのが正直なところでした。私自身、抵抗はそんなになかったのですが「なんでそんなことやるの、ゲームは有料じゃないの?」「無料なんかで配って大丈夫?」という声も社内でも随分あがっていました。最終的に結果は出ましたが。

ヒットの確率を上げるために必要な視点とは?

ー新しい商品をひとつ作る際、パッケージゲームは何年もかけてじっくり作り込むと聞きます。ユーザーの消費サイクルが年々短くなっているなか、その趣味嗜好にあったゲームを提供するのは大変ではないですか。

たとえば『PlayStation3®』はハイスペックのゲーム機なので、性能を生かしたゲームを提供するためには時間とお金もかかってきます。1つのゲームを作るのに長いものだと5年もかけるものもあります。そこまでくると、さきほど私が言ったこととは逆になりますが、「ユーザーは何がほしいのか」じゃなくて「これは今まで見たこともない最高のゲームですよ」というアプローチも必要になってきます。しかしそのバランスを取るのは難しいですね。入念なリサーチをしてマーケティングしようとすると、やはりユーザーは過去作品の印象が強く、今までのヒット作での経験をもとにした答えが返ってくる。その結果「え、結局過去のヒット作を作ればいいの?」という話になってしまいます。ではなく、過去のヒット作を上回る新しいゲームを作るというところが1つの課題です。いまではゲームのライフサイクルも変化しているので、「そのときに何がウケる」という発想ではなく「いつの時代でもきっとこれだったらウケるだろう」という発想でゲームの内容を考えています。なかなか簡単にはできないのですが、少なくともそこを目指さないと同じようなゲームばかりになってしまう。だからユーザーのニーズに応えるコンテンツと今までユーザーが体験したことのないような新しいコンテンツの提案という2つのアプローチを常に考えているような気がしますね。