21世紀のビジネス最前線 デジタルマーケティング編進化するソーシャルマーケティング。
多様化した消費者と繋がるには?

(2012.01.23)

世界最大級のデジタルマーケティングイベント「ad tech Tokyo 2011」ルポの第2弾。企業によるソーシャルメディア活用を論じた「デジタルがもたらすブランドへのベネフィットとは?」、大盛況を博したセッション「ソーシャルメディアの本質は?」より。急成長を見せているソーシャルメディアの現状、今後の可能性の模索をテーマにお届けする。

加熱するソーシャルメディア

2010年はTwitter、2011年はFaceBookが爆発的に利用者を増やした。ソーシャルメディアはここ数年で急成長を見せており、人々の生活に大きな影響を与えようとしている。今や日本のソーシャルメディアの普及率は45%(ITC総研調べ2011/12現在)、利用者数にして4289万人に達したとされ、 特に3.11東日本大震災時におけるソーシャルメディアでの情報のやりとりを考えても、生活者にとってソーシャルメディアはより重要な存在になりつつあると言える。

「ad:tech2011 tokyo」でも昨年度以上にソーシャルメディアに注目が集まり、現状や可能性、そしてリスクといった議題でセッションが行われた。特に「ソーシャルメディアの本質は?」のセッションでは立ち見客の姿が。会場の様子からもソーシャルメディアは今やマーケティングツールとして無視できない存在になっていることが感じられる。そんな新しい時代の潮流を象徴するソーシャルメディアだが、ビジネスの観点ではまだ不透明な部分が多い。

広告効果をはじめ、消費者と企業との関係構築において従来のマス広告ほどの影響力があるかどうかについては疑問が残る。この点に関しては冷静な視点でソーシャルメディアを捉える必要があるだろう。以下ad:tech2011のセッションをいくつか取り上げ、より現場に近い目線でソーシャルメディアの現状、今後の可能性を模索する。

日本のソーシャルメディアの普及率は45%(出典:ITC総研 2011年12月)
●”マーケティングテクノロジー新潮流 デジタルがもたらすブランドへのベネフィットとは?”
カンファレンス登壇者

日本ロレアル
コンシューマー プロダクツ事業本部
メイベリン ニューヨーク事業部
広報広告部 マネージャー
溝渕順子

メルセデス・ベンツ

商品企画・マーケティング部
メディア・コミュニケーション課 マネージャー
禰宜田 謙一

ジョンソン マーケティングディレクター
大泉裕樹

インテグレート
 代表取締役 CEO
藤田康人

写真左から、日本ロレアル 溝渕氏、ジョンソン 大泉氏、メルセデス・ベンツ日本 禰宜田氏、株式会社インテグレート 藤田康人氏
多くの企業が補完的な位置付けとして利用

企業によるソーシャルメディア活用の現状として、ad:tech2011のセッションからメイベリン ニューヨーク、メルセデス・ベンツ、ジョンソンの事例を紹介したい。3社の中でソーシャルメディアを活用しているのはメイベリンだけである。

メイベリンのターゲット層は10代〜20代の女性であり、ターゲット間での利用率の高さから、ソーシャルメディアを活用することが効果的と捉えた。タレントを起用したイベントではTwitterやFaceBookを連動させてキャンペーンを行い、従来の広告バナーではなくソーシャルメディアと組み合わせた広告を流している。一方、ジョンソンとメルセデス・ベンツに関してはターゲット層や製品の違いからソーシャルメディアを現状活用していない。必要であればターゲットに合わせメディアミックスは必要だろうという考えを示した。

3社共に完全なるデジタルへの移行は考えておらず、ターゲット層に応じてソーシャルメディアと他の媒体を組み合わせる方針のようだ。この3社の他にも多くの企業がソーシャルメディアを従来のプロモーションに対する補完的な位置付けとして利用するという姿勢を見せた。

メイベリンのソーシャルメディアを用いたキャンペーン「BE A QUEEN」
●”ソーシャルメディアの本質は?2011〜マーケティング活用における成功と失敗〜”
カンファレンス登壇者

ミクシィ
メディアビジネス本部 ビジネス推進2部部長

株式会社バスキュール号 取締役
新田剛史

サントリーホールディングス
広報部Eコミュニケーショングループ 課長
坂井 康文

エスワンオー
代表取締役社長 兼 最高経営責任者

SATISFACTION GUARANTEED PTE LTD CEO & Founder
佐藤 俊介

アライドアーキテクツ

中村 壮秀

写真左から、 アライドアーキテクツ株式会社中村 壮秀氏、株式会社ミクシィ 新田剛史氏、サントリーホールディングス株式会社 坂井 康文氏、株式会社エスワンオー佐藤 俊介氏
各ソーシャルメディアの性質が「いいね!」数に影響

セッションの一つである「ソーシャルメディアの本質は?」では、ソーシャルメディアマーケティングの現場の話を聞くことができた。mixiページを当初から利用しているサントリーの坂井氏によると、Facebookユーザーは30代~40代の男性ユーザーが多いのに対し、mixiユーザーは20代~30代の女性や若者ユーザーが多く、「いいね!」が非常につきやすいと分析。しかしSATISFACTION GUARANTEEDの佐藤氏は、「mixiページはブランドが強すぎる」と主張する。

mixiで多くの「いいね!」を獲得しているのはビックブランドがほとんどであり、比較的歴史が浅く、消費者に浸透していないブランドはmixiページではあまり「いいね!」がつかないのが現状と述べた。実際にSATISFACTION GUARANTEEDは、Facebook内で国産ファッションブランドの中で1位の「いいね!」数を獲得しているのにも関わらず、mixiページでは未だ小さな数字にとどまっている。同氏はmixiページとFaceBookページでは、同じ手法ではバイラルしないと述べ、ソーシャルメディアをひと括りで捉えることに警鐘を鳴らした。

また高額な運営費も課題の1つとして浮上してきた。佐藤氏は「ソーシャルメディアは安価にマーケティングが出来ると思っている人が多くいるようだが、実際にFaceBookの広告料は数年前の金額に比べると倍増している上に、様々な企業がソーシャルメディアを使い出していることを考えるとそう安い金額で出来るものではない。なにより投資する金額云々の話ではなく、運営する人的費用が非常に高い」と主張。ソーシャルメディアの活用にあたり、費用対効果のバランスを取ることの難しさが指摘された。

国産ファッションブランドの中で1位の「いいね!」数を獲得したsatisfaction guaranteed
●”One Brand, Two Countries~ソーシャルメディアマーケティング革命~”
カンファレンス登壇者

adidas US
Head of Digital Marketing
クリス・マーフィー

アディダスジャパン
ブランドマーケティング シニアマネージャー
津毛 一仁

写真左から、adidas US
クリス・マーフィー氏、アディダスジャパン
 津毛 一仁氏
adidasの戦略がソーシャルメディア活用のヒントに

多くの課題が指摘されるなか、今後の方向性として参考にしたいのはadidasの戦略である。adidasは2010年までソーシャルメディアに対するアプローチは行なっていたが、それぞれ独立した企画や展開をしており、顧客との関係性を保つという意味でそれらのキャンペーンは一時的であり、顧客と継続性のある関係を築くまでには至らなかったという。
そこで2011年から、adidasはより顧客との関係を継続的にするために様々な顧客に合わせTwitter、FaceBook、mixi、Ameba、GREEなどより多くのソーシャルチャネルで展開を始めた。

さらにTVメディア、PR、モバイル、イベント等、全方位でのキャンペーンを行っている。これには360度365日コミュニケーションが取れる体制を作ることで、いままで顧客が離れがちだったキャンペーンとキャンペーンの谷間を埋め、顧客をつなぎとめる狙いがある。何時でも顧客にアプローチできるチャネルとしてソーシャルメディアを活用していくことが、これからのソーシャルメディアの活用にあたり重要となっていくのではないだろうか。

adidasの目指す360度、365日のコミュニケーション