片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)愛犬の目線・顧客の目線
『GREEN DOG 代官山』佐久間敏雅

(2012.02.17)

とにかく「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない 「楽観人」、それが「NGOな人々」”Non-GAMAN-Optimist”です。NGOな人々へのインタビュー第13回は、ペット業界初となる愛犬のための総合サービスショップ『GREEN DOG 代官山』の佐久間敏雅社長です。

愛犬家たちの間で話題、
『GREEN DOG 代官山』

昨年12月、代官山に「文化の森」をコンセプトにした大人のための生活提案施設が登場した。この生活提案施設内に、ペット業界初となる愛犬のための総合サービスショップ『GREEN DOG 代官山』がオープンした。このショップの提案する、愛犬の心と体の健康のための商品やサービスが、今、地元を中心とした愛犬家たちの間で話題になっている。オープン前のタイミングで、『GREEN DOG 代官山』を運営する株式会社カラーズの佐久間敏雅社長から、この施設の狙いなどについてお話を伺う機会を頂いた。

株式会社カラーズ 社長
■佐久間敏雅 プロフィール

1992年東京大学法学部卒業。P&G社のブランドマネージャーを経て現職。神戸で阪神大震災を経験。震災で受けたストレスを和らげたいと、26歳で初めてのペットとなるゴールデンレトリバーを飼い始める。子犬のしつけに悩み“育児”ノイローゼとなるが、獣医師のアドバイスで解放される。その経験から、愛犬家をトータルでサポートするサービスを志し、30歳のときに株式会社カラーズ設立。現在の愛犬は2代目で、動物保護団体・ARKから迎えた4歳のメス・フィジー。All photos / 井澤一憲

ゴールデンレトリバーに一目惚れ。
でも、躾に一苦労。
ー『GREEN DOG 代官山』はどういう場所ですか?

佐久間 現在、日本では、推計1200万頭の犬が飼育されています。すでに犬は家族の一員(=コンパニオンアニマル)として定着しました。しかし、愛犬と人との共生はまだまだ不十分です。飼い主の多くが様々な問題を感じています。サービスの多角化に伴い、動物病院を併設するペットショップや、ドッグフードを扱う動物病院も生まれましたが、愛犬に関するすべての悩みに総合的に相談に乗ってくれる施設はこれまでありませんでした。

『GREEN DOG 代官山』では、コンシェルジュ、動物病院、フードやグッズの物販、グルーミング、ドッグスパ、ホテル、ドッグガーデン、しつけ教室やセミナーなどの多彩なコンテンツを備えています。 スタッフのほとんどが、ホリスティックケア・カウンセラーの資格を持った専門家です。電子カルテで情報を共有し連携を図り、飼い主の悩みを解決します。さまざまなモノ・コト・サービスで飼い主と愛犬の悩みを解決する。「GREEN DOG代官山」というのは「犬と暮らす喜び」を発見できるそういう場所です。

ー愛犬に特化したサービスを始めたきっかけは?

佐久間 実家が豆腐屋をやっておりまして、家業として食品を扱っていたのでずっとペットを飼えない環境で育ちました。子供のころはどちらかというと犬のことは怖くて好きではありませんでした。だから自分で犬を飼うというのは全く考えたこともなかったです。’95年に阪神大震災を経験し、身近な人たちが精神的にダメージを受けました。

ある時、近所のペットショップのチラシを目にしました。「ゴールデンレトリバーの子犬が8匹入りました」というチラシだったと思います。そのチラシの子犬たちの表情が「是非見に来てください!」と言っているような気がしたのです。せめて見に行くだけでも見に行ってみようと思って実際に行ってみました。ところが、実際に見て触れあってみると、何ていいますかすごく可愛らしくて、お恥ずかしい話なのですが、その時の勢いで買って帰ってしまったのです。

子犬を一から育てるというのは、本当に大変なことだと後から思い知らされました。本当に色々なことに困りました。最初に困ったのがトイレの躾でした。朝起きたら至る所にうんちやおしっこをしていました。朝、それを片付けて会社に行くと、仕事が終わって帰ってみたら、また同じように乱れている。もう家の中は、ぐちゃぐちゃになり、毎日がその繰り返しでした。

犬の目線を学んで
育犬ノイローゼの危険を脱する、

ーどのような方法で躾を試みたのですか?

佐久間 躾の方法も自分なりに勉強しようと思い、色々な本を買って調べたり、当時、普及し始めていたインターネットの検索機能を使って色々調べたりしました。でも書いてあることは全くバラバラだったのです。例えばトイレの躾ひとつとっても、失敗したら怒りなさいと書いてあるものもあれば、絶対怒ったらいけない、怒ったらおしっこをしなくなるからと書いてあるものもありました。一体何を信じたらいいのかわからなくなり、半ば育児ノイローゼになりました。どうしようもなくって、もう人にあげてしまおうかなと考えるまで追い込まれました。そんな時、たまたまイエローページをめくっていたら、動物病院の無料相談の案内が掲載されていて最後の頼みだと思い電話してみました。

そこの獣医の先生は犬の躾に関して著名な方でした。私にとっては目から鱗が落ちるような話ばかりでした。一番大きかったのは「犬と人間は違う動物だ」ということを教えられたことです。「違う動物だからこそ、まず犬の事ことを理解しないといけない。」「まず犬の事を理解して、『犬の目線』でみたらどうだろうか」ということでした。すると躾もきっとうまくいきますよと言われ実践してみたところ、なんと3日でトイレを覚えたのです。それまで1ヶ月半くらい何をやってもうまくいかなかったのが、まるで嘘のようでした。

ー「犬の目線」とは?

佐久間 例えば、それまでは床の上にトイレシートを敷いていました。その先生がおっしゃったのは、「あなたたちは人間の目線から見ているからここがトイレだとわかるけれど、犬の目線で見たらどこが境なのかぜんぜんわからない。だから段差をつけてあげなさい」でした。とても単純なのですが、なるほどと思い、トイレを1段高くしてその上にトイレシートを敷きました。こうして犬の目線について勉強していくと、犬とのコミュニケーションも良くなっていきました。何よりも犬と一緒にいて楽しいし、犬のことを素晴らしい動物だと心から感じられるようになりました。

ペットに関する情報は、誰を、
何を信じたらよいのか?

ーフードでは特にナチュラルフードにこだわっているようですが。

佐久間 ある日、うちの犬が病気をしました。皮膚に湿疹ができ、とても痒がっていました。病院に連れて行ったのですが全く原因がわからなかったのです。「痒がっているようだから痒み止めを出しましょう」と言われ、お薬をもらいました。それで一時的にはよくなったのです。でもしばらく経つとまた同じ湿疹ができてくる。この繰り返しでした。病院もいくつか変えてみたのですが、同じ診断をされて少しも良くならない。

そのうち全身の毛がなくなるほど湿疹だらけになり、何をやってもうまくいかないので諦めかけていた時、ある人から「食べ物が原因じゃないか」と言われました。自分では、そこそこ高くて良い食べ物を食べさせていると思っていたのです。「違う食べ物に変えてみなさい」と言われ、思い切って変えてみました。すると1ヶ月ぐらいでどんどん症状がよくなり、皮膚もきれいになって、毛も生えそろいました。それが、今、我々が多く販売しているナチュラルフードと呼ばれるものだったのです。

お医者さんの言うことを信じるのか、ドッグラバーの口コミを信じるのか? 自分たちが何を信じていいか分からない、ということをその時に強く感じました。躾のことも食事のこともそうです。ペットに関する情報はたくさん溢れていますが、一体、何を信じていいのかがわからない。これは飼い主にとってとても困った状況だと思いました。

実際、自分と同じように躾のことで困ってしまって、最終的に自分では飼えなくなって手放してしまい、最悪の場合、殺処分になるケースも多くあるということを知りショックを受けました。日本で数十万頭もの犬猫が殺されているという事実を知り、これは構造的な問題で絶対におかしいと感じました。その時に、何とかしたいという思いが芽生えてきたのです。

起業への思いと、ペットへの
思いが重なって、業界参入を決意。

ーその時の思いを「ドッグ」事業として展開することを決心されたのですね?

佐久間 犬が好きな一人の人間として、何とかしたいという気持ちが強くなる一方で、僕自身は大学生の時から、いずれ自分で事業を始めたいという思いがあり、実際に何をやるかを考えてきてきました。自分の犬についての経験をビジネスとしても活かすことで、もっともっと自分にできることが広がっていくのではないかと思い、本格的に事業としての検討を始めました。

これから高齢化していく社会の中で、ペットというものはもっともっと人にとって必要な存在になってくる。一方でペット産業といいますか関連する産業はまだまだ未成熟ですし未発達な部分が多く残っています。新規のビジネスとして参入してもやっていけるのではないかと判断をしてこの業界で起業しようと思いました。

始めた当初はとにかくとてもしんどかったです。今でこそ『GREEN DOG』を経営の柱にしていますが、最初に始めたのは、今でいうところのSNSに近いネット上のコミュニティーサイトでした。

まずネット上で会員になっていただき、その方の飼う犬や猫の情報を登録してもらえば、誰が何を飼っているのかがわかります。登録情報に基づき、多くの情報がネット上に溢れている中で、飼い主にとって適切な情報を適切な形で提供する。また会員相互の交流を促進していくことで横のつながりも構築し、情報の流れも作りたいと思っていました。犬や猫などのペットを飼っている方々のネットコミュニティーを作り、ある程度会員が集まった段階で広告収入を得るイメージを抱いていました。2000年12月にはじめましたが、会員が2000名ほどで止まってしまい、結局、売上げは1円も立たないまま、全てを一から考え直すことになりました。

情報を配信するということだけではビジネスにならないのであれば、次に何をやるべきかと考えました。その結果、今度はフードに注目しました。当時ようやくEC(イーコマース)が発展しつつある時期でしたが、こだわりを持ったペット向きのフードを販売するサイトはほとんど見当たりませんでした。自分たちが本当に良いと思える商品を揃え、インターネット上で十分な情報をお客さまに提供しました。こうして始まったのが『GREEN DOG』でした。徐々にお客様にも付いて頂き、何とか事業として成長してきました。

ーペットフードにこだわるというのは具体的にはどういうことなのですか?

佐久間 自分が良いと思う商品のメーカーさんを1件1件訪ね、担当の方のお話を聞いて回りました。自分が本当に納得のいくまで商品について話をしていただきました。そして自分のこれまでの経験と知識と判断をベースに、販売する商品を丁寧に慎重に選んでいきました。こうした毎日を繰り返していく中で、自分たちの販売する商品にあるひとつのスタンダードというものが出来上がっていきました

ペットフードを中心に、
ECと実店舗を両立させる。

ーEC(イーコマース)の難しさとはどのようなところだと思いますか?

佐久間 ECを運営していると、商品の品数を広げたいという衝動につい駆られることがあります。これは僕だけでなくうちのスタッフの誰にも言えることなのですが、もっとこんな商品やってみたい、あんな商品も売ってみたいという思いが前のめりとなって出てくるものなのです。しかし、今現在うちが扱っている商品には、すでにいくつかのブランドがありますが、その既存ブランドでは本当に対応できない商品なのか? お客様のニーズが本当にその新しい商品を揃えることで満たされるのか? 今、すでに販売している商品で解決できる問題を、わざわざ別の商品を販売して解決することに意味があるのか? こうしたことを考え抜いて、本当に良い商品の販売へと絞り込んでいきます。

ーECと店舗の融合は難しくないですか?

佐久間 本当の意味での融合というのはとても難しいことです。お恥ずかしい話ですが、最初のうちは顧客データの共有もなかなかできていませんでした。というのは、店舗は店舗のビジネスとして回っています。ネットはネットのビジネスとして回っています。店のお客様は店のお客様で、ネットのお客様はネットのお客様でと、別々にお客様の情報の管理をしていたのです。ところが実際にお客様の動きを調べてみると、お客様自身がうまく『GREEN DOG』のネットと店舗を使い分けてくださっていることがわかってきました。

店舗でフード買う時もあれば、時間がないときにはネットでも買う。ちょっとした悩みとか相談にのってもらいたい時にはメールや電話も可能なのですが、それよりもリアルなお店に直接行ってスタッフと会話をした上で実際にサービスを受けて頂いています。お客様と我々との絆がしだいに強くなっていくのも次第に見えてきました。やがて積極的にこうした形を作っていこうと思い始めるようになりました。こうしたことが日本各地で当然のことのようにできるようになった時に、初めて僕の目指している本当の意味でのネット通販と店舗との融合ができるのではないかと思っています。

ストレスのない、ワンストップソリューションを目指す
「GREEN DOG代官山」

ー「GREEN DOG代官山」これから5年後のイメージはどのようなものでしょうか?

佐久間 今はまだ手探り状態なので、これからどうなっていくのかわからないところも多くあります。近々でいいますと、『GREEN DOG代官山』のような総合ペットショップを、国内の主要都市にいくつか作っていきたいと思っています。まだまだ知名度は低いのですが、まずは独自のイメージを築き、知名度をあげ、『GREEN DOG』の世界観をお客様に伝えていきたいと思います。

それから先は、代官山と同じような総合ショップを全国展開していってもいいでしょうし、既存のサービスの一部切り取って、例えばグルーミングだけの店舗展開などがあっても良いと思います。日常のサービスは地元密着型で、それ以外のサービス、例えば病院は最寄りの総合ショップにまで行っていただき、物販は主にネットを使っていただくなどのコンビネーションが、将来的にはできていくとさらに良いと考えています。

顧客に対して究極の安心感を提供していきたいと思います。とにかく『GREEN DOG 代官山』に行ったらなんとかなるよと。病院もある。グルーミングもできる。しかし、全てのサービスを自分たちでやることが必ずしもお客様にとってのサービスの質を向上させるとも限りません。自分たちではあえてサービスを提供しない分野もたくさんあります。

そのような内容のサービスは、コンシェルジェが提携先をご紹介することで解決策をご提案します。もちろん自分たちはどこの会社にお願いするか慎重に選び、質を保つという責任がありますが、今回、自分たちだけではカバーできない領域までもカバーし、『GREEN DOG』に行けばなんとかしてくれるよというワンストップソリューションを目指したいです。

ー最後にペットのことで悩むオーナーさんに対して一言

佐久間 ペットのことで悩んでいる方って本当に多いと思います。僕がまず思うのは、「肩の力を抜きましょう」ということです。今は情報も溢れています。商品だって溢れています。もちろんペットを飼うことへのこだわりはもってもらいたいですし、「良いものをあげたい」というその気持ちは素晴らしいのですが、こだわりすぎるといいますか、例えば「絶対手作りしかあげない」と最初から決めつけてしまうと、ご自身にとって本当に負担になります。飼い主さんにとっても一緒にいる犬にとっても決して幸せな関係にはならないと思います。

ですからそうしたこだわりの気持ちを大切にしつつも、「毎日手作りなんて、やっていられないから次のベストは何かな?」とか、「たまに手作りもするけど普段は質のいいドライフードを与えよう」とか、「ちょっとふりかけを試してみよう」とか、そういう「遊び心」というものも必要なのです。そんな犬との暮らし方、付き合い方が出来るようになったら、犬も人はもっと幸せに暮らしていけると思います

■インタビューを終えて

軍事目的で開発されたと言われているインターネットが民間ビジネスでも活用さ、世界の金融や物流ビジネスが根本から変わってから、ずいぶんと年月が経過したような気になりますが、爆発的なネットビジネスの普及は実はまだ10年程前のことです。その短い歴史は、インターネットで解決できること、解決できないことが、少しずつはっきりしてきた歴史でもあります。日々、ネットやSNSを使い込んでいますと、どうしてもその中で、日常の大抵のことが解決できてしまうと錯覚します。(実際、多くのことが解決してしまいます。)それでもなお解決されずに残るものは何か?「リアル」でないと本当に解決できないことは何なのか?最近、私自身が興味を持つテーマでもあります。

昨夜、身体を悪くしている身内から「明日、病院に行くのに足がない」と急に言われました。急に「明日」と言われても私も身動きがとれません。即座に検索エンジンで、「地域名」と「介護タクシー」と入力し検索しました。1秒もたたずに、その地域で営業する介護タクシーの会社名、介護タクシーの空き状況、料金などが確認でき、予約もできました。本当に便利な時代です。ただ本当に大切なのは、玄関から介護タクシーまでを誰が付き添うのかという「最後の5m」なのかもしれません。