片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)東京五輪とホームレスの「光と影」
「排除」か? 「包摂」か? (後編)

(2013.11.18)

右から大西連さん、イケダハヤトさん、中空麻奈さん、そして片岡英彦さん。photos / 井上 昌明

「NGOな人々」”Non-GAMAN-Optimist”とは「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない「楽観人」のこと。第37回目は、36回目に引き続き「東京オリピックはホームレスを包摂するか? 」というテーマで、東京五輪とホームレス問題との「光と影」について、専門の異なる3名の識者の方々の鼎談をお送ります。“ホームレス”(貧困層)を、五輪から「排除」することなく「包摂」することができるのか。前回の続きの「後編」となります。

鼎談者プロフィール
■中空麻奈 プロフィール

中空麻奈 (なかぞら・まな) 1991年、慶應義塾大学経済学部卒業。(株)野村総合研究所に入社し、郵政省郵政研究所出向。1997年野村アセットマネジメント(株)に転籍、クレジットアナリストとして金融セクター、ソブリンを担当、以降クレジットアナリシスに従事。2000年モルガンスタンレー証券(株)に移籍、事業会社セクターを担当。2004年JPモルガン証券(株)に移籍、クレジット調査部長として全セクターをカバレッジとした。2008年よりBNPパリバ証券クレジット調査部長。『日経ヴェリタス』2010年より三年連続で債券アナリスト・エコノミストランキング、クレジットアナリススト第1位。著書『早わかりサブプライム不況』(朝日新書)

photos / 井上 昌明
■イケダハヤト プロフィール

イケダハヤト(いけだ・はやと 1986年 神奈川生まれ)ITジャーナリスト・ブロガー・講演家・ライター・コンサルタント・ソーシャルメディアマーケター(自称)。早稲田大学政治経済学部卒。2009年、新卒で半導体メーカーに就職し、1年ほどで退社。その後ITベンチャーに転職し、ソーシャルメディア活用についてのコンサルティング事業に携わる。2011年4月、NPO支援、ライター活動により多くの時間を割きたくなり、フリーランスに転向。「テントセン」という名前でNPOマーケティングを支援するプロボノ集団など結成。2012年11月、単著『年収150万円で僕らは自由に生きていく』を出版。

■大西連 プロフィール

大西連(おおにし・れん)1987年東京生まれ。新宿での炊き出しと夜回りの活動から始まり、現在はNPO法人自立生活サポートセンター・もやい にて、主に生活困窮された方への相談に携わる。関心領域は「貧困」「自殺」「社会的包摂」など。また、認定NPO法人『世界の医療団』ではホームレスの医療支援を行うプロジェクト『東京プロジェクト』にも携わる。『シノドスジャーナル』では、ホームレス支援、格差問題などに関するコラムも執筆。

中空:お二人に伺いたいのですが、「すごく努力をした人が報われて渋谷広尾に住む。すごくいい生活」と、「そんなに努力しないけどある程度の生活は保障されていて生きていける。その代わり、すごく才能があっても報われないという世界」どちらが望ましいと思いますか。

イケダ:非常に難しいですね。感覚的には、あまり不幸がない状況でしたら前者が当然いいと思います。しかしそれは現実的にはありえないので、困窮者が支援を必要だとするならば、僕らがある程度我慢しなければいけない。弱者のために再分配する必要はあると思います。社会的な強者の人たちはちゃんと自覚して、市民としての責務を果たさないといけない。我慢してちゃんと税金払えよと。僕も同世代に比べたら収入もあるし払わなければいけないと思っています。

大西:透明性、税金がどう使われるのか、政策の決定プロセス、所得格差をいかに是正するのか、どう参画できるのか。そこがきちんと見えていれば、より質のいい競争、社会全体のボトムアップになると思います。ただ、たくさん頑張って努力した人が所得を得られたほうがいいという面もあるので、バランスが難しいです。そういう機会を得られない人、病気、障がいの人、彼らは単純な競争原理の中では高所得を得ること、勝ち残っていくことが難しい場合が多いので、最低限の保障がないと、自由な競争は担保されません。


イケダさん、大西さんより少し上の世代になる中空さんが問う。「すごく努力をした人が報われてる生活と、そんなに努力しないけどある程度の生活は保障されていて生きていける世界、どちらが望ましいと思いますか。」

中空:若い人たちの最近の風潮として、夢がない、多くを望まない、60点もらえればいいというのがあります。夢を実現した象徴的な例として、「イチロー」ってかっこいいと私は思いますし、あそこまで突き抜けると「お前お金もらいすぎだ」という人はいないですよね。彼のように努力する人は報われる世界でないと、私は日本がどこかで滅びてしまうと思います。そういうことが認め合える世界でなければいけないと思いますし、お金を持っている人は払って当たり前という世界は逆に怖い(笑)。とはいえ、貧困な人に目がいかない世界も怖い。両方の「怖さ」をお二人はどちらも見ているから「おかしい」と言えるのだと思います。若い人たちに対して、頑張った人が報われる、やっぱり日本っていいなと思うためには、頑張った結果と成果を認めてあげないとダメだと思います。

最低賃金が生活保護よりも下にある、この現象はお二人の活動にもネックになっていると思います。それなら働かずにそっち(生活保護)に行ったほうが楽ですから。日本の現状を考えると、1千兆円という政府の借金はそのまま若い人達の借金になります。日本を捨てないということを大前提にすると、「みんなの借金」をなんとかしなければなりません。矛盾だらけの仕組みは高度成長期の仕組みがそのまま突っ走っているからだと私は思います。どこをどういうふうに是正することが一番だと思いますか?

イケダ:僕は具体的な案は持っていないのですが、なんでもお金で解決しようとする発想は、どん詰まりになると思います。それをするから借金しなければいけないという話になるんです。

住宅政策はストック化していくので社会が成熟化していけばそれ以上には多くのお金はかからない。しっかりした住宅政策が浸透していけば、ロングタームで見ればお金がかからない社会となります。これは実験的な話ですが、僕の知人の家入一真さんは、Twitterでフォロアーが6万人いる方で、「土地をください」とツイートしたら、本当に熊本に100万坪の土地、山をもらったんです。それで次に「熊本に集まれ」と言って30位人を集めて「村作るぞ」となって打合せしてU-streamで配信したそうです。

ドラスティックですが、お金に頼らない、人からあるものを使って自分たちの経済圏を作る、足るを知る。与えられるのではなく、自分たちで場所を作る。理想主義的でうまくいくかはわかりませんが、すべてお金で解決するのは難しいので、人のつながりの中でちょっと助けてもらえればいいということだと思います。

都知事が仰っていましたが、高齢者の人と若者が一緒に住んでシェアハウスにすれば、コストは下げられて生活水準が上がる。そういった発想を模索する必要があると思います。民間NPOなり新しい事業モデルを国が認めて支援する。場合によっては出口政策として国が買収、評価をしていけば、投資家がお金を出すことで、新しいものを生み出していくことができると思います。

***

片岡:大西さんは、最低賃金についてはどう思われますか。

大西:この話はすごく難しいです。生活保護とも関連性がありますが、ナショナルミニマムは最低限のラインなので、下げ出すとキリがない。憲法25条の「生存権」の問題もあります。社会保険も同じで、2009年ILOデータだと失業保険を受けられるのは雇用者の中の23%と言われています。このように労働者で社会保険に入れていない人も多く、非正規労働の拡大など、経済状況の変化による「働き方・働かせ方」の変化に対して、社会保障のモデルがついてきていません。

国、企業、個人のバランスを考えなければいけません。グローバルな競争の中で企業も厳しい環境にあります。国も借金があります。それでも、国、企業、個人がそれぞれ負担をして最低限のラインは作らなければなりません。とはいえ、今ある既存のモノが生かされていない、使われていないことはたくさんあります。マッチングは大事です。ここ最近、NPOや社会的なことを仕事にする人が徐々に増えてきました。先ほどの例のように、社会的起業家でアクションを起こしたいけど何も持っていない人と、土地を持っていていらないという方の「マッチング」が結果的にビジネスになる、産業になる、マーケットになる、そしてコミュニティーになる。そういった、国や企業、個人とも違った「新しい力」は面白いし、どんどん求められていくと思います。

オリンピック的な街づくりはハードな街づくり。高速新幹線、リニア、これは体育会系なノリ、マッチョな部分です。一方で、中身をどうするか、今あるものをどう活かしていくかというのは、ソフトな、文化的なノリ(笑)。 日が当たる部分と当たらない部分、そこをマッチングできるのは新しい力、新しい世代、新しい感覚とエネルギーだと思います。ただ、そこは財政的な基盤が弱いんです。

中空:大西さんたちの活動の原資はどこからきていますか。

大西:NPO団体は、基本は寄付なので財政基盤は脆弱です。来年その人たちが同じだけの額を寄付してくれるかはわかりません。ですから、寄付者に対して活動をオープンにし、チャレンジしていかないと寄付してもらえない。一方で、そのことは私たちのモチベーションにもなります。

おもしろいビジネスアイデアがあるけれどもお金がない場合も、マッチングできれば見つかるかもしれない。そういうのをうまくつなげていければ、公共事業や経済給付などなど、ハードな部分は国や企業、自治体の仕事。実際にそこで生きている人の対人援助など、ソフトな部分は新しい力、NGO・NPOの力で支えていくというのが絶対的に必要になると思います。

そこをいかに国や個人を含めた寄付などの新しい仕組みが支えていけるか。公的なところはお金がないけれども、こういうところにお金をかけていけば将来的にはコストがかからないわけです。イニシャルコストはかかりますが、一旦始まればランニングコストは多くはかからず、独立採算できる事業もたくさんあると思います。

◆持続的な支援のために

片岡:イケダさんと大西さんの共通部分は、「今そこで困っている人に対しては救済処置が必要」と考え、一方「継続していくためには事業化が必要」、「そこで回すそのためにどうしたらいいかという仕組みが日本はまだ出来ていない」というところですね。そこをマイクロクレジットなのか、あるいは寄付文化の定着なのか、あるいは、第三、第四の、その他の「ウルトラC」(笑)で賄っていければというところだと思います。

そこで中空さんに伺いますが、格差問題が解決されるような形の活動を事業化していく上で、五輪に対しては7年後に確実に公共事業があり、4千億が投入されるとも言われていますが、こういった部分を共存共栄させてハードな面とソフトな面を作ることはできるのでしょうか。

中空:間違いなくできると思います。でも恐らく、そういう発想が今のところないんですよね。例えばリニアの資金繰りは確実にキャッシュフローが算出できるんです。事業化してお金が回るという確実性がないと、そこにお金をつけましょうという人はなかなか出てこない。寄付をする人たちはご奇特で偉いと思うのですが、その方たちが未来永劫お金を出すという保証はないので、できれば個人ではなく法人格に入ってもらいたいですよね。そのために国はそれなりの節税メリットや、プラスしてキャッシュフローが生み出せる形を作っていく。その形をビジネス化する。その全体像を描ける人がどれだけいるかと考えると、イケダさん、大西さんのお二人は描けると思うので、バンバン書いていただきたいと思います。

今の段階だと、ソーシャルウェルフェア(社会福祉)は経済的な話と違う。「これは必要、だけど別口にね」という部分がどうしてもあります。経済成長をしていくことのほうが、どうしても体育会系で明るいんですよね(笑)。きちんとした仕組み作りはとても大事だけど忘れられがちで、目立たない。でも基盤はしっかりしなくてはいけないと思いますし、「社会福祉」と「経済活動」結びつけるためにはキャッシュフローの青写真を描きましょうということしかないと思います。

イギリスは医療制度も違っていて、国民みんなが行ける病院(NHS)があります。一方でお金がある人だけが行かれるような「高級な」病院もあります。みんなが無料で行かれる病院を確約する。これはこれで安心感でもあるのですが、一方でお金がある人しか良い病院には行けません。そういう意味では「不平等」も生んでいます。でも、公的な住宅を建てたらいいよという意見は公的な病院を置くという発想に似ていると思います。確実に行けるという受け皿、土台が築ければ、イギリスの例も参考にしてもいいのではないかと思います。

ただ、私は古いバブル(時代の)人間なので(笑)、「働いてこそのお金」であって欲しいとは思います。お金は、「誰かに与えられる」より「稼ぐ」のがどれだけいいことかということを、みんながもっと知るべきだと思いますし、教えられなかったのは日本の大人たちの失敗だと思います。最低賃金より生活保護の方が高い、だから最低賃金はもらわない方がいいという人達が増えないような「枠組み」だけは作らなくてはいけないと思います。

***

片岡:ホームレス支援を続ける上で、「救済か」「事業か」という大きな問題があります。持続性という意味で、現場の視点ではどのように思いますか。

大西:生活保護で働ける年齢の方は多くはありません。高齢者世帯が半分くらい、3割が傷病障がい者、1割が母子世帯。また、働ける世帯の人たちも働いているだけじゃお金が少なくて受給している人が多いのです。もちろん、少子高齢化なので働ける人には働いてもらわなければいけないというのは確かです。

僕も初めてお給料をもらったときはすごく嬉しかったです。ですから、働き続けられる環境を作るのは大事です。社会の安定性、持続可能性の問題にもなってくる。いかに安心して働ける環境を作るか。安全に継続的に産業を支えられるか、市場を支えられるかということを意識する時に、日陰にウェルフェア的なもの、権利擁護的なもの、福祉的なものが置かれがちなのですが、そこに光を当てないと安定性が保てなくなると思います。

最低賃金664円(沖縄、九州、東北)というのは安すぎると思います。企業はきついかもしれませんが、600円は安い。最低賃金で生活できないというのは問題です。特にインフレで物価が上がって消費税があがってということになると、最低賃金で働いている人が生活できない、消費できないということになります。そこは社会の前提として生活保護より上であるべきだと思います。一方で、ここから以下には下げない、という約束事が安心感に繋がります。年金も最低限のものが必要です。

***

片岡:「必要最低限」という言葉の定義は経済学上、一番難しいです。

中空:こういう制度ができると、残念ながら漏れちゃう人や悪用する人が出てきますね。極端に悪用というわけではなくても、所得によって医療費がタダになる人とならない人がいます。うちは共働きなので当然医療費は払ってきました。子供が小さかった時、滑り台から落ちてMRIを撮るか、となった時、タダで行ける人は当然病院に行きますが、うちの場合は「1+1は? 」「2」「大丈夫!」でMRIを我慢していました(笑)。結局、制度で線引きができてくるとたまたま線引きの下で貰えない人も出てくるというのがあります。

制度があるから差が出る人もいる。生活保護をもらっていながら給食代を払わないで自分の洋服を買うお母さんも世の中にはいる。それって全体ではないけれども、必ず出てくるんです。どこを基軸に置くかがすごく重要です。悪用する人が増えると税金払いたくなくなります。お金をたくさんもらって税金を払っている人は日本を捨てて海外に行ってしまう。いわゆる「新富裕層」という人たちがどんどん海外に流出しています。それは絶対間違っていると思うのです。制度ができると歪みがおきるというのは同時に考えていかなければいけないと思います。

イケダ:僕もそのことは常に考えています。最終的には「倫理」の問題になるかと思います。うちは医療費タダな世帯なのですが、妻はタダだから逆に滅多に行きません。それってすごいなと思うし、尊敬しています。僕はタダだから行っちゃうと思うし、それは属人的な、内面的な話じゃないですか。収入の差は世帯であると思うけれども、ボクと同じ世帯の妻と感覚が違うというのは、これはもう人間の「善性」の部分、「倫理観」でしかないと思います。ですからこのことは、ロングタームで、人間の「善性」をちゃんと磨くこと、教えること、実践していくことが結局重要なんだと思います。

中空:時間がかかるけど大賛成です。蚊に刺されただけでも病院にいく人もいます。浪費です。でも権利だから否定もできない。逆にその仕組みってお医者さんにとってもいいことなんです。レセプト(医療報酬・診療報酬)だってうまく回る。でも損しているのは日本国民です。それを人間の倫理観だけで抑えられるかは難しい問題ですね。

大西:生活保護でもその話が出てきますね。不正受給対策というのが一番に出てきます。しかし、不正受給は全体の約0.5%、人数で言うと200人にひとりくらい。中身も必ずしも悪質ではないんですが、一定数いるのは事実です。しかし一方、被災地の仮設住宅の調査などでは、医療費がかからないのに我慢しちゃうおばあちゃんもいたりと、必要な支援が届いていない実情もあります。バランスは難しいです。
それと、税金が複雑過ぎます。マイナンバーができたわけだから、もう少しスリム化ができないのかと思います。今後はいかに個人化していくか。控除の形は複雑で、家族の形も変わってきているから、控除から給付へとかそういうこと考えないと、日本の財政も大変なことになると意識しています。確定申告をしていてつくづく事務コスト(行政コスト)高すぎだろ、と思います(笑)

中空:大賛成です。今の形に合わせなければいけないと思います。

大西:制度をアップデートしないといけないですよね。

◆東京五輪に向けて描くグランドピクチャ

片岡:五輪とホームレスに話を戻します。先程中空さんが、「二人ならグランドピクチャかけるんではないか」とおっしゃいました。大西さんはホームレスの支援活動をされています。イケダさんはNPOのコンサル支援をマーケティングのプロの立場でされています。グランドピクチャを描くことはできますか。

イケダ:まず思うのは、今回の東京五輪のビジョンが「イケていない」ということです。サイトを見ても今ひとつわからないんです。

大会ビジョン

1.アスリートが存分に力を発揮できる最高の大会
2.世界の多くの国や選手の参加を支援し、国内外で一体感の共有が図られる大会
3.成長し続けるアジア市場をしっかりと取り込んだ大会
4.世界の人々に日本や日本人の良さを感じてもらう大会
5.最新技術と若い創造力を結集した大会
6.東京の都市としての魅力を最大限活用した大会

すごく当たり障りのないことしか書いてなくて、「日本」や「東京」を、他の国に入れ替えても一緒です。それがそもそも問題だと思いました。じゃあどういうビジョンがいいかというと、僕が考えるビジョンは、「排除から包摂へ」弱者が活躍できる場というのをビジョンとして掲げたいです。

外国から人がきて、会場にはボランティアが10万人、というとそれはある種日本の誇りになります。都市の五輪ができていなかったこと。その過程ではソーシャルビジネスとして企業化に国の政策としてお金をつけていきます。今までできていなかったこと、「排除から包摂へ」というビジョンを掲げて具体的にはそこから広がっていくのがいいのではないでしょうか。

片岡:大西さんはいかがですか。

大西:ビジョンがよくわからないというのは僕も思いました。ダイバシティ(Diversity:多様性)の部分を出すとおもしろかったのではないかと思います。例えばセクシャリティで言うと、男性・女性という括りだけで、セクシャルマイノリティの方の存在を忘れてないかなって。海外では例えば、サッカー(フットサル)のホームレスワールドカップという取り組みがあったりと、興味深い取り組みがたくさんあります。(ホームレスワールドカップは日本リームも出場したことがあります)

表のマッチョなマジョリティのオリンピックに対して、ソフトなマイノリティのオリンピックとしてそういうものをやればいいかなと思います。僕は元々日本的な多様性、宗教観だったりサブカルの部分も日本の良さだと思っています。そういうダイバシティのところに目線がいくと、視野も広がり街の奥行も出てくると思います。

自分がやっている活動でいうと、7年間で支援活動の強固な地盤を持てるかというと今の段階ではわかりません。一方で、アメリカでは大学の就職先の人気ランキング上位に入るNPOもあります。そういう社会をちょっとずつ作っていけたらなと思います。国がNPOに対して「新しい公共」という形でもっと門戸を広げて、産業マーケットを作るためにお金をつけたほうがいいと思います。それと如何にITやSNSとつなげるか、マッチングを作っていければなと思います。7年後はわかりませんが、それができるくらいに培っていけたら社会全体が少しずつアップデートされていくと思います。

片岡:中空さんにお聞きします。グランドピクチャを描いてシナリオを作ったとして、多分、一番困るのはお金です。どうすればNPOなどに「お金」がつきますか。

中空:きれいごとではできないですよね。お金は必要です。資本金を国から入れてもらってそれをテコに自分のキャッシュフローで回れば、レバレッジかけられて銀行も貸してくれるようになって、数倍使えるようになります。そうすると規模も大きくなります。人はいるので如何に活用するかはやりようだと思います。日本人の場合国がお金を出しているとそこには、必ず「乗る人」は出てきます。全然なにもなしのNPOは「胡散臭い」と思われがちなので、お金を出す法人は少ないと思わなければいけません。そうなったときに言いたいのは、今度はそこにお役所の公務員が「天下り」するようになってしまってはいけないということですね。


今回の東京五輪のビジョンはイケていないというイケダさん、大西さん。イケダさんは弱者が活躍できる場つくりというビジョンを提案。大西さんは日本のダイバシティ(Diversity:多様性)に着目しては、という。

片岡:最後に一言ずつ感想をお願いします。

大西:色々な話ができて面白かったです。7年後はあっという間に来ます。ホームレス問題をやっていると、この5年間で路上の状況が変わってきていることを肌で感じます。若い人が増えたり困難な人が増えたり。国の政策も毎年早いスピードで動いています。7年後の未来予測は難しいですが、お二人と話をしてここはこうしたらいいという話ができたので、こういう場を色々なところで持てたらいいと思います。世代間の話も重要、ですがそこを越えてどうやっていくかというのも考えたいと思います。

イケダ:おもしろかったです。まだまだ言いたいこともたくさんありました。僕は政策、仕組みよりも「物書き」で、人の心理、倫理の話が気になります。特に「最低賃金」「生活保護」の問題。2ちゃん等のネットを見ていても、「自己責任」に囚われている人が多いと思います。最低賃金で頑張って働いている人に、「弱者が弱者を叩く」ということがすごくよく見られるんですよね。富裕層と弱者も同じで、「俺は自己責任でのし上がってきたからお前らを助ける必要はない」。確かに自己責任だけど、現実にいうと自己責任ではない。「俺は俺」「お前が悪いのはお前のせいだ。」日本にはまだまだそれが根付いていると感じます。

本来、「自己責任」というのは「自分の責任を取る必要がないことでも引き取るのが自己責任」そういう度量があるのが「自己責任」だと思います。人をバカにしたり、人を蔑んだりという態度から脱却して、「あなたの責任を引き取って世の中を回していくものでしょう」、という市民社会の美徳、それを伝えていかないといけないなと思います。政策提言や仕組みづくりのサポート活動を行いながら、人の価値観の部分にリーチして火をつけられたらなと思います。

中空:頭のいい若者を紹介していただいてありがとうございます。オリンピックという光の部分をみんなが見ている中で、最初から「影」の方に目がいっているのがすごい。若い人ほど元気で明るい光の方に目がいくのが普通なので、こういった人たちがこれから先のグランドデザインを描いてくれたらいいなと思います。年金の方では、高度成長期に合わせた仕組みを持ち続けてちょっとずつ変えるからまた間違いが起こる。若い人たちと一緒に、「この制度おかしい」と声をあげて変えていけたらなと思いました。また、長い時間がかかる教育の話にしても今から始めないともっとかかるんです。

東京五輪をきかっけに様々のものの見直しを目指そうというプロジェクトが起きると良いと思いますし、NPO、NGOというのは、日本ではまだまだ「胡散臭く」見えてしまいがちだったり、欧米では「金持ちの余興」に取られてしまったりしますが、一方で著名な芸能人も自ら率先して活動をしていたりもします。イメージから変えるというのは大事だと思います。それを国が率先してやれば雰囲気が変わる、お金をつけられる人も参加すると思います。公的、最低限の保障に回るお金も増えるという期待感を込めて、今日は鼎談に参加させていただきました。

片岡:こうした東京五輪を巡る様々な意見交換の場が、専門分野を超えた方たちの間で盛り上がっていけばと思います。皆さんありがとうございました。予定通り、あえて結論は出さずに、これで終わります(笑)。

●インタビューを終えて

「東京五輪とホームレス支援」という非常にデリケート、かつ難しいテーマでの鼎談に臨んで頂いたお三方に、まずは感謝いたします。このテーマを扱うにあたり、私が最も留意したことは、この鼎談を単なる「五輪批判」にはならないようにするということでした。「東京五輪」の開催は多くの人に夢を与え、景気回復や震災復興ばかりでなく、長く日本人の心の底辺に淀んでいた、ある種の「閉塞感」のようなものを、前向きに変えていくひとつのきっかけになるもの期待し、あくまで「前向き」に捉えていきたいと思っていたからです。ただ、その一方で、冒頭のイケダさんの言葉にあるように、「それだけでは置き去られてしまう負の部分にも注意深く目を向けねば」という思いがありました。

「排除」か? 「包摂」か? という今回のタイトルの裏には、「当然、包摂していくべきである」という強い思いが当然あります。そして「無視」「排除」することに比べて「包摂」することの重要性と、難しさを改めて感じつつ、本鼎談を締めくくりたいと思います。