片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)情報リテラシーが若者を救う
IISIA代表・原田武夫

(2012.07.27)

「NGOな人々」”Non-GAMAN-Optimistとは「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない 「楽観人」。NGOな人々へのインタビュー第19回目は、“覇術ではなく王道を”と「情報リテラシー」の教育等を目的とした大学生・大学院生向けスクール『グローバル人財プレップ・スクール』を社会貢献事業として無償で行う株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役 CEOの原田武夫さんです。

■原田武夫プロフィール

(はらだ・たけお)東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に外務公務員Ⅰ種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。現在、株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の代表取締役(CEO)を務める。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いの下、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で展開する。また、学生を対象に次世代人材の育成を目的とする『グローバル人財プレップ・スクール』(前身は「IISIAプレップ・スクール」)を無償で開講し、そのOB/OG達は主要官庁及び民間有力企業に多数採用されている。最新著作『教科書やニュースではわからない 最もリアルなアメリカ入門』

株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所CEO、原田武夫さん。photo / 井澤一憲

『教科書やニュースではわからない 最もリアルなアメリカ入門』(かんき出版)1,575円

情報リテラシーとは?

原田:ずいぶんと綺麗なオフィスですね。

片岡:僕はNGOの正職員ですから「ノマド」というつもりは全くないのですが、フルタイムではないので、比較的にここのレンタルオフィスによくいます。急にインタビュールームが必要な時などに会議室を使えるので助かっています。

原田:なるほど。

片岡:では、まず「情報リテラシー」の話から、いつものくつろいだ感じでお願いします。多くの人は「情報リテラシー」と言われてもピンと来ないと思います。「情報リテラシー」とはどういうことなのかを教えてください。「情報を活用すること」なのか、或いは「情報を収集すること」を指しているのか、「使いこなすこと」なのか、それとも……。

原田:「情報リテラシー」というのは簡単に言うと「自分にとって本当に役立つ情報を選び取る力」です。世の中には無駄な情報が沢山あります。その雑音というかノイズをどうやって減らすか。次に「これは正しい情報、いい情報だ」というのが来たら素早く捕まえる能力。この2つです。

片岡:まず「ノイズ」を減らしてからでないと、「これだ!」という価値のある情報は得られないということですね。

原田:1995年にウィンドウズ95が誕生しました。この頃から今までの間に日本人を取り巻く情報の量は総務省の統計では、少なくとも400倍~600倍になっています。それに対して平均的な日本人の情報所有量というのは4倍にしかなっていません。全ての情報を使いこなすことは、そもそも無理な話なのです(笑)。

短時間に「捌く」こと。

片岡:情報との距離感のとり方が大切?

原田:特に現在の金融資本主義が隆盛になってから、土日も世界は動いています。情報を取捨選択する一方で、例えば選挙結果などは土日もしっかり掴まないと月曜日の朝には臨めません。土日はゆっくり休んでいればいいなどと思っていてはダメなのです。

片岡:原田さんは元々外交官だったわけですが、外交官にとっての「情報リテラシー」と、学生や企業のオーナーの方とかにとっての「情報リテラシー」というのは何が違いますか?

原田:僕が今この「情報リテラシー」という分野を専門にしていられるのは外交官をやっていた時の経験があるからです。今でこそパソコンが中心になっていますが、当時はまだ、大使館と本省(外務省)との正式なやりとりは電報でした。その電報を毎日読まないと、当然ですが、どんどん溜まっていきます。これを「捌(さば)く力」という能力を12年間の外務省勤務の間に身に付けました。まずどこを読めばいいのか、知らず知らずのうちに身に付いたのです。

片岡:いわゆる「流し読み」とは違うのですか?

原田:沢山の生のデータがあると、人は全部を読み込もうとしてしまいます。ところが、そんなことをしていると間違いなく日が暮れます。こうした場合、まず必要な情報とそうでない情報とを短時間に「捌く」ということから始める必要があるのです。

片岡:「捌く」ということを経験したことのない学生には具体的に何から教えますか?

原田:最初に2つのことを教えます。まずは「毎日同じメディアを同じ時間帯に見て下さい」ということです。朝7時なら毎朝7時に必ず見る。これは「定点観測」です。主要紙だけでもいいですし、インターネットでも良いのです。そして次に、情報を「比較」してみてください。例えば、「消費税増税の法案が通らなくなって選挙になるかもしれない」と多くのメディアが報道する中で、逆にあるメディアに「必ず法案は通る」と書いてあったとします。するとそれは「特ダネ」である可能性が高いのです。比較してみて他とは違う情報こそがまずは大切だと教えています。

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片岡:今はCSR事業(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)として無償で学生に情報リテラシー教育をされていますが、学生に対象をフォーカスしているのはどうしてですか?

原田:第一に、我が国における就職難という問題があります。国を構成しているのは「人」です。人が育っていかないといけません。日本は少子高齢化だから、先が真っ暗だと皆さん嘆いていますが、実はそうではないと思っています。しっかりと若者を教育していないのです。今、若者にとって一番欠けている教育こそが「情報リテラシー」だと思います。

学生はみんな細かいことは良く知っています。ところが広く世界全体を見て、「世の中はこれからどうなっていくと思いますか?」と聞くと「うーん…」となってしまう人が多いのも事実です。要らない情報に埋もれてしまうのではなく、いかに必要な情報を得て、その情報から未来がどうなっていくかを自ら考える。こうした能力を若いうちに育ててあげたいと思っています。世の中全体が一層多様な社会になっていきます。だからこそこうした教育を今やるべきです。

前身の「IISIAプレップ・スクール」での講義風景。
今の学生は、判断しない。

片岡:学生の反応はどうですか?

原田:学生を見ていて面白いのは、毎年、学生が違うことです(笑)。

片岡:まあ、そうでしょうね(笑)。

原田:始めたばかりの2005年、2006年くらいは「どうやったら僕らはホリエモンみたいになれますか?」というようなことを本気で学生たちが言っていました。その後、そういう質問をする人もいなくなり、「どうやったら役人になれるのですか?」と聞くようになりました。さらに「仕分け」が始まると、「大きい会社が良い」などと言い出しました。ところが、最近は大きい会社も何となく危ないですから(笑)。

片岡:今の学生はどんな感じですか?

原田:今どうなっているかと言うと「うーん、判断はしません」というような感じです(笑)。

片岡:「判断しない」ですか??

原田:結局、大人が激しい社会変動の中で、自分のために一生懸命に、生きなくちゃいけません。そんな中で学生たちは「一体どうすりゃいいの?」と。

片岡:「余裕が無い」のですかね。

原田:全く無いです。

片岡:最近、よくテレビに出ている安藤美冬さんという「ノマド」で注目されている女性がいますが、あんな感じに、「雇われない」という生き方が、若い世代のヒーローというかヒロインのようになっていくのでしょうかね。

原田:まあ、そうでしょうね。「判断をしない」ということが、一番、最適な「解」になりつつあります。つまりは「漂う」ということでしょうか。

片岡:それは、せいぜい「モラトリアム」で、いつかは何らかの判断をせざるをえないですよね。永遠に「判断しない」というわけにもいかない。

原田:いやあ、その通りなのですよ。ところが、そういうところに東日本大震災が起こりました。何となく「繋がる」こととか「絆」とか学生が言い始めている。でも、厳しいことを言うようですが、それで一生食っていけるわけではないのです。「繋がっている」のではなくて、それは「漂っている」だけだろうと。みんなで手を繋いで「絆」だと言っているだけじゃないかという厳しい思いが率直にあります。そこの部分をどうやって我々がモティベートしていくかということがチャレンジです。それが日本の一番の課題です。

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片岡:軽い気持ちでボランティアに行っちゃう学生って実際に多いのですか?

原田:ボランティアに行くことが問題なのではなく、そのボランティアというものが社会全体の中でどういう位置付けにあるのかといった視点や発想がなく、「ただちょっと行って良いことをやった」「繋がった」など、多くの場合がそんな風に終わってしまうのです。

片岡:「自己実現(満足?)」が目的になっているということですね。

原田:「自己実現」という意味では、東京の学生はまだ良いのです。我々がこの『グローバル人財プレップ・スクール』を、この6月から福岡と名古屋でも始めましたが、地方の学生はもっと大変です。大人たちは地方で生き残るために自分たちのことで精一杯で、学生のことはもういいやと最初から投げ出している感があります。東京に行けるぐらいの色々な意味で余裕がある学生はまだいいのですが、そうでない学生はまずは地元に残ります。ところが、地元では「グローバル人材」が必要だと言って、学生が海外留学に出て行ってしまう。一体、この地域に残った学生たちはどうするのだ……と。

大人にも情報リテラシーを。

片岡: 今回、名古屋と福岡でスクールを始められたということですが、東京以外の都市のボトムアップということですか?

原田:もちろんそれは非常に重要です。福岡や名古屋でも、大体、日本の地方大学は国立大学に一番良い講座があり、すぐ隣に◯◯工業大学というのがあります。そして、私立大学が続くのですが、この偏差値の差が激しすぎるのです。ただこの偏差値が低い方の大学の学生の学力が本当に低いのかというと、決してそうではないのです。本当に1点差とかで国立大学などに入れなかっただけです。この学生たちに、次のチャンスも与えられないのです。学生たちの質はすごく良いわけです。我々の『グローバル人財プレップ・スクール』にくると本当に目を輝かせて話を聴いています。ダメなのは大人なんじゃないかと危機感を感じています。

片岡:その大人に対してはどういうアプローチを?

原田:例えば、私が参加している中小企業庁が助成金を出して54の企業でグローバル人材を育てるプロジェクトがあります。そういう場では「どうやったら海外に行けるだろうか?」と経営者の方たちはよく仰います。しかし、海外に進出したらしたで、外国人を雇わなきゃいけません。評価制度も変えないといけない。座っているだけで「いい人だから。」と言って何となく給料を貰えているような典型的な日本のサラリーマンは全部駄目だということになる。そういう現実があまり分かってらっしゃらないことが多いです。

これは「情報リテラシー」の問題ではないでしょうか。つまり、未来永劫円高は続かないということです。

今の感じですとまた数年後に円安に戻る可能性が極めて高いと僕は思っています。みんなでワーッと工場作ったのはいいのですが、今度は戻って来るとなると大変です(笑)。だからその辺のリテラシーというのを身につけておくべきだと。

今の日本のモノづくりの企業というのはちょうど事業承継の時期を迎えています。60代70代の方々が引退されて、その下の世代の方々に技術力とか支援とか人脈が継承されているかというと、必ずしも継承されていないのです。これをちゃんと行っていかないといけません。そういうことを大人に対しては訴えています。

今の社会は「組織 対 組織」から
「組織の中の個人 対 組織の中の個人」に。

片岡:ご自身の生き方として、日本の国内・国外どっちに目を向けるかというと、基本「国内」にいつも目を向けていますね。

原田:そうです。ベースはあくまで「国内」です。しかし、単に国内向けの教育事業をやっているのと違うのは、私はグローバルなプレイヤーでもありたいと思っているということです。『グローバル・エコノミック・シンポジウム』(GES)という国際フォーラムがあり、パネリストとして参加しています。

ここでは世界に向かって日本のことを発言する。あるいは日本を代表して発言するということを民間ベースで行いながら、その感覚をそのまま国内の教育に役立てています。このGESに出ることになったきっかけは、私がインターネットで見つけて「興味あるのですけれど、どうやったら参加できますか?」と尋ねたら「来る?」と言われたという、それだけのことなのです。

先ほど被災地の話が出ましたけれど、インターネットが繋がっている限り、全ての人に対してチャンスは等しくあると思います。一定の情報リテラシーがあって、一定のやる気さえあれば、誰にでもチャンスがある。国内にいながらでも、グローバルに活躍できます。

今の社会は、「組織 対 組織」の時代から、組織の中でも組織の中の「個人」、つまり「組織の中の個人 対 組織の中の個人」の関係が重要になってきています。その点に気付いてもらうのも我々の教育のもう1つの目標です。今の日本はとにかくやる気が無くなっています。学生たちに最初の授業で私がまず聞くのは、「これから日本ってどうなりますか?」です。「いや~。日本は駄目になります」ってみんな言います(笑)。「君らはこれから先4、50年生きて行くのにいいの??」と聞き返すと「……そうなのですけど……」と言うわけです。でも全てはそこから始まるのです。

引退なしの、大人になれない社会。

片岡:日本中が合言葉みたいに「これから日本は駄目になる」と言いますが、原田さんはそれを言わない。それは「願い」ですか?本当にそう思っていますか?

原田:いやいや、もちろん本気で思っています。駄目になる国の通貨は買いませんから。何で円高になっているのかを冷静に考えみてみようといつも言っています(笑)。 少子高齢化が進み、この国は「痩せ細って」いくと分かっているのに、円が買われているのです。これはスゴイことです。ヨーロッパ、アメリカ、もしくは中国、インドも含めて他国の景気が悪くなっていく中で、日本という国は、いろんな意味で「選ばれて」います。そして1300兆円の国富を抱えている。世界的にみると一つの「脅威」だと思います。

片岡:円高が全てじゃないですけれども、原田さんは日本の国力はまあ悪くはなって行かない大丈夫だという。私も、そこそこ、大丈夫じゃないかと思っています。でも若い人たちに聞くとみんな「日本はダメです」という。そのギャップは何なのでしょう? 私たち大人がダメなのですか?

原田:要はですね。その世代の方たちには怒られちゃうかもしれませんが、日本では60歳、70歳にならないと「大人」と見なされません。団塊の世代の方々が現役を辞めないのです。以前、『サイレント・クレヴァーズ―30代が日本を変える』という本を書いてバッシングを受けましたけれども(笑)。

結局、団塊世代が現役を辞めず、お金も仕事も握っています。沢山のオフィスビルの上の方にいる人たちはその世代の方たちです。日本は国全体としては資産を持っていて、それなりの力を持っていますが、そのウエイトが上の世代にかかっているのです。要は「引退しましょう」という話なのです。NPOで働くなど、より新しい方向に気持ちを向けてもらえばいいのです。溜まってしまっている人の「流動性のなさ」が問題になっています。

片岡:貰うものもらってないから「辞められない」のですか?

原田:いやいや貰っていますよ。すごく貰っているのです。ただ、今までとは「状況が変わって行く」という感覚があまり働いていないのではないかと思っています。団塊世代の方々は、例えばバブルの時は課長から次長ぐらいで、その多くが退職金をドサっと貰って退職します。トライ&エラーの“エラー”を経験していない世代だと思います。幸せといったら幸せだったのでしょう。

しかし苦汁を味わっている現在の年収100万、200万の若い子たちがいることには、あまり思いを馳せないのです。「引退してやる」ということは、「人を立てる」ということだと思います。社会貢献など今やるべきことは他にたくさんあります。企業の中ではない所に。

片岡:昨日たまたまBSのフジを視ていたら、最近で言う「ノマド」と呼ばれている3人の若い世代の方々と、恐らく団塊世代に近いフジテレビの解説員の方が議論していて、どうにも最後まで話が噛み合わなくて、そこが見ていて面白かった。

原田:ハハハハハハ

30年後に自分が何をやっているかイメージできるなら。

片岡:フリーエージェントというか、ノマドというか…ああいう生き方をする若い人たちと、外務省に10年以上勤めて独立された原田さんとは、そもそも立ち位置が全く違いますが、ああいう20代の感性とか感覚にはアゲインストですか? それとも気持ちよく分かるよという方ですか?

原田:彼らに対しては、「30年後に自分が何をやっているかイメージ出来ますか?」ということに尽きると思います。今は何をやっても別に大丈夫なのです。20代で、恐らく家庭も持ってないでしょう。ただ、ある段階で自分のやりたいことが20年もすれば見つかるでしょう。その時にその力があるかどうかなんです。

片岡:その「力」というのは?

原田:その「力」というのは結局「組織」だと思います。こういう若者たちがいきなり「じゃあ私が」と会社や組織の長になれるかというと、多分無理だと思います。どうしてかと言うと「我慢する」ということを知らないからです。

「雑巾がけ」という言葉がありますけれども。まあ、片岡さんもそうだったと思いますけど、組織に入ると、最初のうちは「雑巾がけ」をして、その過程で様々な人たちに接するわけです。ずっと雑巾がけをさせられている可哀相な人もいる。非常にエゴイスティックなリーダー層もいる。そうした色々な人に接することが大事なのです。「雑巾がけ」もせず、リーダーでもないと、「自分がリーダーになった時にはこうあるべきだ」という部分が養われずに、急にその「力が必要だ」となっても組織を率いることができないのです。いくらSNSなどで「繋がって」いても、 “横の連帯”というのはいつまでもアメーバで「漂っている」だけで「上昇」はしないのです。

『グローバル人財プレップ・スクール』でも教えていることなのですが、実際に欧米でどうなっているかというと、そこには、れっきとしたファミリーや組織の大きなヒエラルキーがあるわけです。

ところが、日本やアジアに対しては「欧米はフラットな世界ですよ」と言うのです。もちろん、プライベートの関係ではフラットに生きていくのはいいと思うのですが、まず自分の価値観を持った上で、特に自分がリーダーになった時に「人を使う」ということが一体どういうことなのかというのを分かった上でだと思うのです。

私が先ほど申し上げた団塊の世代の方々に対する苦言と同時に、今の若い世代に対する苦言を呈するならば、半年もすれば組織を辞めちゃう人たちは、要するにストレス耐性がないのです。でもこれからは、特に“ロングターム”というのがキーワードになると思うのですが、ロングタームでやって行く時に「我慢できない」からといって、次へ次へと転がって、それで “ノマド”ですと言っていればいいっていうものじゃないと思うのです。しっかりと根を下ろしたベースメントがあった上で、今回はこう出て行く、というのが基本だと思うのです。繰り返しになりますが、私がそういう若い人たちに対して申し上げているのは、「30年後、40年後に同じことをやっていますか?」ということです。

地方から底上げ
真にグローバルな人財教育をしたい。

片岡:ご自身が今まだやれていないことで、今後やって行きたいことは何ですか?

原田:永続的に出来る仕組み作りといいますか、持続可能にやって行きたいです。私がやっている『グローバル人財プレップ・スクール』というのは基本的にCSRとして行なっています。研究所には全国に会員さんが居て大体9割が社長さんですが、例えば福岡の会社の社長さんが「福岡でやるなら金を出すけれども、それ以外だったら出さない」などと小さいことをいう人はうちの会員にはなっていません。むしろ全国でやって、全国の底力を上げて行くということを期待されている。なので、旧七帝大あった地域では全部やろうというのが一つの野望です。早ければ来年の春から実施したいと思います。

更に僕が実はもう1つやりたいなと思っていることは、日本の“モノづくり”についてです。”モノづくり”を支えているのは都会のサラリーマンではありません。地方の若者たちです。いわゆる専門学校の子とか高専を卒業した人たちです。この子たちが、円高・少子高齢化で大きな打撃を受けています。彼らに対して“グローバル”という意味での人財教育がなされているかといえば、なされていません。決して、学問において引けを取らないと思うのです。

グローバルで大切なのは「考え方」です。そういう所から教育のプログラムを作り、全国に普及したいと思っています。物を作っている人が“グローバル”が分かるようになる。こうした形でのグローバルの根幹に、我々の考える「情報リテラシー」があると思っています。

福沢諭吉ではないですが、上野の山で戦争をやっていた時に「先生、逃げましょう。」と言っても彼らは決して逃げませんでした。あれと同じような感じで、まあ気合でやって行きたいと思っています。

『グローバル人財プレップ・スクール』名古屋プレ・イべントの様子。

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片岡:尊敬する人って誰ですか?福沢諭吉ですか?

原田:まあ、福沢もそうですし、松下村塾の吉田松陰も同じですが、結局 “外国”というものを見て、それに対する“衝撃”っていう所から全てが始まっていると思うのです。

私も外交官時代に実際10年以上、国際状況の現実を見て、その衝撃を受けました。そして、今引き続き、では日本をどうしていけばいいのかと考えています。それは日本至上主義ということでもないですし、必ずしも明治維新に倣えばいいという話ではないですが。確かにあの時と今の状況というのは近いのではないでしょうか。1865年位の状況じゃないかな、と思います。

片岡:最後に、今、学生に「これだけはやっとけよ」というのがありましたら。

原田:僕は、就職が決まって「先生、就職先決まりました」とか言う学生に必ず言うことがあります。それは、何でもいいので、とんでもなく分厚い、難しい小説でもいいですけれども、出来れば哲学書などを読みなさいと。分からなくてもいいのでとにかく読めと。

片岡:どうしてですか?

原田:それは一生にその時にしか読むことがないから(笑)。 私の場合はやっぱり大学を1年早く中退してそれで外務省に入りましたが、在学研修の2年間の間にドイツの関連の書籍やハイデカーといった実存主義の書籍などバーッと読みました。今でも自分のベースメントになっています。ワイマール憲法、ワイマール共和政とかをすごく勉強しました。何でかよくわからないですが勉強したのです。「分厚い本」で、何となく前から気になる本ってあるじゃないですか。何でもいいのですけど、分厚い本を一冊読んで、分からなくてもいいのです。とにかく「読んだ」ということを座右の銘のようにしておくと、10年後、20年後に振り返ることが必ずあります。多分その本を21歳や22歳、24歳とかの時に手に取った理由があるのですそれは20年後の自分が、あるいは30年40年後の自分が、呼びかけているのです。必ずそういう本を読んだ方がいいと申し上げたいです。

片岡:僕も学生の時に何か読みましたね。『プロ倫』(プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神)も読んだし『資本論』も読みました。何だかよく分かんなかったですけど。レヴィ=ストロースも読んだ。未だによく分からないですけれど(笑)。 どうもありがとうございました。

■インタビューを終えて

私が初めて原田さんにお会いしたのは2004年から2005年にかけてでした。その頃、原田さんは外務省で北朝鮮問題を担当していました。原田さんが私的に催した「1970年生まれの会」(のような名でした)に参加させて頂いたのがご縁でした。それから間もなくして、外務省を退官し独立されるとのお知らせを頂きました。せっかく外交官になったのに「なぜだろう?」と驚きました。(もっとも私もその数年前に地上波テレビ局を退社し、周囲の方々は「なぜだろう?」と思ったはずですが。)

以来、何度もお会いするうちに、互いを結びつけるキーワードは、今の日本を支配する「閉塞感」だと思うようになりました。やがて原田さんはCSRという形で「教育」に力点を置き、私は「NGO(NPO)」という分野に切り込み始めました。インタビュー中、原田さんが「自分は松下村塾を見本としない。あれは短期に【テロリスト】を生んだ。持続しない活動だった。」という趣旨のことをおっしゃったのが特に印象的でした。確かにそうだなと思います。さすが元外交官ならでは視点です。

ところで私の長男はその松下村塾の門下生の高杉晋作から名前を拝借し【晋作】という名をつけました。そして「いつ死んでもいいように何か面白いことやってみろ」という考えで育てています。まさか「テロリスト」に育つとは思いませんが、そのくらい「破茶目茶」で「元気」があってもいい。こちらはいかにも元テレビ局員の親が言いそうな言葉であります。