21世紀のビジネス最前線 電子書籍業界 その3岐路に立つ出版社、書店、端末
電子取次社長が語る3者の舞台裏

(2011.10.19)

電子書籍市場の課題はDRMとフォーマットの乱立

——まず電子書籍のビジネスについて現時点でどのように分析していますか。

日本の電子書籍ブームは世間的に今回が初めてという感じですが、まず一度ガラケーの中で市場ができたので、はじめての経験ではないと思っています。昨年が電子書籍元年だとすると今年は1年くらいたったところですが、電子書籍市場の現状を一言で言うとなかなか立ち上がってこないといった印象です。

以前から気づいていたのはフォーマットの乱立です。各社で独自に付けた商品コードが勝手に世間に出回っているようなもので、さらに点数が増えることを考えれば、日本全体として整えていかなくてはならないだろうと思っていました。そしてブームが始まってから気づいたことは、DRMの乱立です。コピー防止の策としてDRMというのがありますけれど、DRMも種類がたくさんあって、こちらで見られるがあちらでは見られないという阻害要因になっています。以前のガラケーのときはケータイキャリアが決めていましたから、キャリアの数と同じ3種類しかなかったんですが、現在は店の数だけDRMがあるという状態です。

電子書籍と電子書籍フォーマットの種類
ともに技術評論社gihyo.jpより

——フォーマットやDRMが乱立している問題をふまえて、今後電子書籍市場は拡大していくと思いますか?

基本的には拡大していくと信じています。デジタルの利便性はスピード感だけではありません。在庫予算の心配がなくて本を提供することができるのは、デジタルのよさだと思います。また画面は小さいですけれども、パソコンを含め、固定的な紙の上で表現したものではない表現ができますし、たとえば動画に対する取り組みについても、時と場合によってそれが効果的であれば、やるべきだと思います。


 

小林 泰(こばやし・やすし)氏

お話を伺ったのは、株式会社ビットウェイ代表取締役社長の小林 泰氏。ビットウェイは電子書籍取次事業を展開し、大手電子書籍ストアへコンテンツを流通している。子会社として株式会社BookLive、ジェイマンガ株式会社を設立し、国内外での電子書籍配信事業も手掛ける。


 

電子書籍端末の主流はスマホ、中高年層は専用端末

——スマートフォンの売上の伸びに合わせて徐々に電子書籍市場も拡大してきたと言われていますが、今後日本ではスマートフォンが中心になっていくのでしょうか?

日本人は小さくて軽い端末が大好きです。このあいだアメリカに行ったのですが、日本人と比べアメリカ人は大きいものが好きですね。大きい画面、重い端末を持っている人が多い。そうした傾向を考えると、日本ではスマートフォンが主流になると思います。

スマートフォンの出荷台数予測

MCPC「スマートフォン/タブレットPC市場の中期予測について」(2011年5月)より


* * *

——AppleのiPadのようなタブレット端末、SONYのReaderのような専用機についてはどう思われますか。

タブレットは、「タブレットじゃなきゃ」というコンテンツが欲しい。雑誌の表現など、大きくなくてはだめなものがあると考えられますので、それをコンテンツとしてタブレットに集約することが重要だと思っています。誰に売るのか、あるいはそのコンテンツとして何を入れるのかを決めれば普及していくような気がします。

SONYのReaderをはじめとした電子書籍の専用端末は、40代後半から50代の方を中心に売れているんです。アメリカではキンドルも同じことが言われていて、あっちも同年代40代後半から50代の人がたくさん持ってる。共通しているのは本が好きだということですね。

タブレット端末の出荷台数予測

MCPC「スマートフォン/タブレットPC市場の中期予測について」(2011年5月)より
タイトル数の伸びない電子書籍、作家の不安解消が鍵

——コンテンツの数に関しては、そこまで伸びてきてないなという印象を受けるのですが、コンテンツ・プレイヤーが気にしていることは何でしょうか?

電子化された本の市場ができると、どういう世界が待っているのか、夢を含めた予想をきちんと伝えていかなくてはいけないなと感じています。特にタイトル数が出てない。タイトルを出しているのは作家さんですから、作家さんにまだそれが伝わってないのではないかと僕は思ってます。もちろん伝わってる方もいるんです。例えば村上龍さんは、「デジタルだったらこんなことできるんだろ」っていうのを自分の本でどんどんやっているんですけど、現状そういうことをやっているのはほんの一部の方だけなんですね。次に何をやれば作家さんの作品が売れるか、ちゃんと伝えていなかくてはならない。それがまだ不足している気がするんです。

作家のロイヤリティを出版社がどうやって払っているかと言うと、5万部本を出すと決定して、5万部×定価×ロイヤリティ、まあ出版社ごとによってちがいますが、何%かを発行時に作家へ支払うわけです。しかしデジタル側の商いの方法では、売れた分だけということになってるんですね。よって5万部売れたとして結果的に同じ金額が入ってくるんですが、最初の月は1万部しか売れなければ、1万部×金額×%ってことになりますから、やっぱり作家さんは収入が減ることを心配しているんじゃないかなと僕は思います。それをちゃんと説明することが、作家さんに「うん」と言ってもらうために必要かなと思います。

リアル書店とネット書店は補完関係を目指すべき

——次にリアル、ネット書店の現状についてお話を伺いたいと思います。

現在リアルな書店は1万5千ほどあります。ただ10年前には2万あったのが、10年の間に4分の3になってしまったんですね。売上の主力だった雑誌の売上が落ち込んでしまったので経営をやめる本屋がたくさんいました。しかしその反面、書店の床面積は、書店数が減ってる一方で増えてるんですよ。リアル書店では、大型書店が主流になってきています。これは、豊富な品揃えが求められているということだと思います。

書店数・売り場面積推移

Searchina「書店数・売り場面積推移(白書出版産業2010をもとにグラフ化)」より


 

——ネット書店では、どういう分野が売れているのでしょうか?

40〜50代は100%とは言わずとも、ほぼ小説を読んでる。スマホで読んでる方は30代が多いから漫画の売上が多く、ガラケーのときと似ています。またリアルでもそうなのですが、映画化されたものはよく売れていますね。つまり、他のところで書名を知って、電子書店に対しては、指名買いが多い。映画を見ました、原作が見たい、デジタルで買う、というのがユーザーにとって手っ取り早いのかなと思います。

一方デジタルの弱さといいますか、よく見かけるログを拾っているだけのレコメンド機能は柔軟性に欠けていると思います。たとえば、仕事でマンガ読むけどプライベートでは小説を読みたいといったユーザーに対応できていない。「こいつは仕事では漫画探してばっかりいるけど、プライベートではこういうの読むんだよね」。など僕の事を少し知ってる人が、「おい、あれいいぜ」って言ってくれるようなサイトにならないかなと思っています。

読者から見たリアル書店とネット書店の違い

日本著書販促センター「読者から見たリアル書店とネット書店の違い」
(寄稿:冬狐洞隆也氏)より