片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)「つみきみほ」は生きています 
中途半端にエネルギーを持て余して

(2011.07.26)

コラム「NGOな人々」とは、”Non-GAMAN-Optimist”(今の世の中に、とにかく「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない「楽観人」)を、毎回インタビューさせて頂き、コラム形式でご紹介していく新連載企画です。第2回は女優のつみきみほさんです。

「つみきみほ」に会いたかった

つみきみほのテレビ出演が今年に入って増えている。この半年だけでも『相棒 Season 9』『仮面ライダーオーズ』(いずれもテレビ朝日系)、NHKアニメ『おさるのジョージ』(声の出演)。映画では今年3月に『ランウェイ☆ビート』(監督:大谷健太郎)が公開された。14歳でデビュー、96年に結婚。(現在は2人の女の子の母)仕事量をセーブしてきたが、子供が中学生に育った今、ついに「本格復帰」なのだろうか? 昨年開始したという『つみきみほ公式ブログ』に本人からの気になるメッセージを見つけた。「つみきみほは生きています。中途半端にエネルギーを持て余して…」エネルギーを持て余している? 是非、お会いしてお話を伺いたいと思った。

■つみきみほ プロフィール

1971年4月13日生まれ。千葉県市川市出身。4人姉妹の3女として育つ。女優。(ただし本人は「俳優」「役者」の方がしっくりくるとのこと)中学校在学中に、吉川晃司主演映画のヒロイン募集で、10万人の中からグランプリを獲得。映画、テレビドラマ、舞台で活躍。デビュー当初はボーイッシュな自由奔放さと鋭い眼光など「媚びない」イメージで、男性ばかりでなく同世代の女性からも支持された。時に「毒気」を含む強い個性が、時代を代表する名監督、演出家らに評価され、今では「伝説的」と呼ばれる作品に多く出演している。

代表作

映画
▪ 花のあすか組!(1988年 監督:崔洋一)
▪ 櫻の園(1990年、監督:中原俊)
▪ 海は見ていた(2002年、監督:熊井啓)
▪ 蛇イチゴ(2003年、監督:西川美和)
▪ 風音(2004年、監督:東陽一)

テレビドラマ
▪ 時間ですよ 平成元年(1989年、TBS、演出:久世光彦)
▪ 愛はどうだ(1992年、TBS、プロデューサー・演出:遠藤環)
▪ かりん(1993年、NHK、脚本:松原敏春)

舞台
▪ O×式ゴドーを待ちながら(1990年、演出:木野花)
▪ 夏の夜の夢(1994~1996年、演出:蜷川幸雄)
▪ トランス(1996年、演出:鴻上尚史)

 

最近テレビ出演多いですね。

「先日の『仮面ライダー』の撮影現場がとても楽しかったです。すごくリラックスしてできました。」という彼女の表情は以前よりも少し「優しい」感じがした。「若い頃の自分は、周りから求められる『つみきみほ』を演じるプレッシャーを感じ続けていました。自分は多くの女優さんのように器用な生き方ができないで悩んでいました。仕事から離れて仕事のプレッシャーや壁から解放され、そうしたらまた心が元に戻った。今ならば、『またやってやろう!』と思える。今はそんな心境です。」

良い「出会い」があった?

「出会いという意味では、今所属している事務所自体が新しい『出会い』でした。
今こうして再びお仕事ができることは何よりもありがたい。仕事をしていると世界が開ける、明るくなる。錚々たる役者さんたちが所属されていて、さらに女性が社長をしています。以前は業界全体がそうだったのかもしれないですが、完全な男社会でした。自分の周りの人たちはみんなひとまわり以上も年上だった。現場での自分の心持ちや感覚が、女性同士だと言葉にしなくても通じるものがある。こんなに仕事って楽しかったのだな~と、感謝の毎日です。」

では「女優」本格復帰??

「多分『女優』というのは、常に自分の気持ちを切り替えて、自分にしっかりとしたポリシーがあり、『集中』(主観)→『解放』(客観)→『集中』とうまく繰り返すことができる人のことだと思います。私はそんな『きっちり』とした生き方ができなくて、とても不器用でした。私の場合は『集中』→『集中』→『集中』……。でもこれだと日常がぐちゃぐちゃになってしまう。苦しくて苦しくてそれでもやらなきゃいけないと思い続けてきた。本当はあんまり頑張りすぎてはいけないのだけど頑張り過ぎて頑張れば頑張るほど、きちんと正しい方向に掘り下げていくことができなくなって、どんどん間違った方向に向かっていってしまいます。だから、これからは良い意味であんまり『頑張らない』で活動していきたいです。」

家庭(子育て)が落ち着きました、よね??

「仕事でもがいて苦しんでいる時に夫に出会いました。夫も私も最初は『ラブラブ〜!』とか言って盛り上がっていたけど、お互いの心は冷静でした。まるで毎日『芝居』しているみたいに。彼も私のことを助けようとか、救ってあげようとかそんな風には思ってなかったと思います。確かに『勢い』はあったけど、決して『ロミオとジュリエット』みたいな劇的なラブストーリーでの結婚ではありませんでした。娘が2人生まれました。もう中2と中1になります。2人ともまさに『反抗期』のまっただ中です。家の中に(夫以外に)『女』が3人同居しています。私が『女の子』なわけではなく娘2人がすでに『女』なんです(笑)。小学生までは私は『おせっかいなおばさん』で、とにかく放っておけませんでした。最近2人で私に向かってくる時があって泣きたくなることもあります。私自身4人姉妹の3女で、反抗期もハデでしたけれど、芸能界の中にいたので、仕事場が『逃げ場』になっていました。でも、自分が親として、どう娘たちを扱っていいのだろう。私は彼女たちにどういう環境(場)を与えられるのか。自分が仕事をしっかりやっていれば子供たちはちゃんと育つのだろうか、よくわかりませんでした。でも娘たちは毎日成長しています。今ではなるべく何もしないようにしています。『見守る』ということが本当は一番難しいです。苦痛でさえある。でも、もうこれからは、なるべく口を出さず、母親として『見守って』いくようにしようと思っています。」

子育てを経て「丸く」なった?変わった?

「前とちっとも変わらないと言ってくれる人、少し変わったという人、両方います。いい風に変わっているのであればいいなと思います。(性格が)少し丸くなったとか(笑)。一方で、仕事的には『変わったつみきみほ』を求められているのだろうか?『以前のつみきみほ』の方がいいと言われたらどうしよう?『素のままではダメだ』と言われたらどうしようなどと色々思っていました。でも、結局は現在の『ありのまま』の自分でやらせてもらえています。ありがたいことです。仕事に向き合うときの姿勢は、環境に甘えずに昔と同じ姿勢で向き合っていたい。『きちんと受け止めて、きちんと結果を出す』そういう自分でありたいです。今までは『素の自分が何か』という意識さえあまりありませんでした。トーク番組やインタビューでは、必死にその場で考えてその場で答えていた。いつも必死に自分の頭で考えて答えていたから周囲の大人たちはハラハラしたのかもしれないですね。

「ブログ」始めましたね。

「もともとアナログ人間だったので、色々と探りながら(笑)やっています。
デビュー当時にファンレターをくれていた人がコメントしてくれました。当時と同じように、お返事を普通に返す感覚で最初は始めました。ネットはとても面白いと思いますが、ネットでファンの方と直接交流するなんて考えてもいませんでした。正直、最初はあまり怖いとも思っていませんでしたが、最近はネットに関係するドラマなどを見て、利用しているうちに怖くなってきました。(笑) その場で返事を書くときもあるし、ゆっくり考えてから書くときもあります。早いやりとりが自分に向いているのか、逆にゆっくり考えてから相手に伝えることができるから直接お話するよりも向いているのかはわかりませんが、ブログでの交流は自分にはあっていると思います。」

影響を与えられた人。つながり。

「演出家の木野花さんです。私の初舞台『O×式ゴドーを待ちながら』で初めてお会いしました。恐らく私にとって初めての女性演出家だったと思います。芝居の『作り方』がとにかく入りやすかった。シュールな現代演劇でしたが、決してご自身のイメージを押しつけない。仕事への姿勢の基礎を固めてくださった方です。木野花さんには『受容力』があるなと思いました。それまでは演出家が自分に求めるものが何かをあまり深くは考えなかった、というか、よくわかりませんでしたが、木野さんのおっしゃることは素直に入ってきました。求められている感情を身体で理解することができ、芝居にのめり込みました。」「『真夏の夜の夢』の演出をされた蜷川幸雄さんも、とても幅が広い受容力がある方だなと思いました。役者をまずみる、役者の全部をみて『よしこれで行こう』と決めて作品を作り上げていく。役者の自由を受け入れながら、どんどん取り込んでいく。そんな作り方をなさっていました。」

蜷川さんのお芝居にまた出たい?

「お芝居やりたいなんて、今はとてもとても私の口からは言えません。舞台は一瞬たりとも気を抜けないし、中途半端なことはできない、とってもとっても大きい存在です。『夏の夜の夢』でヘレナ役を演じた時、稽古中にディミートリアスを『蹴れ』と言われたんです。どうしたらよいか分からないまま、とにかく相手役を蹴ってみた。わけもわからずやった仕草が笑いを誘いました。結局採用はされませんでした。でも受け入れてもらえました。そのことが今の私にとってとても大きなことでした。」

つみきみほはつみきみほ

木野花さんや蜷川幸雄さんの話になったとたん、つみきさんは20年近く前の稽古場での出来事を、まるで昨日視た映像について話すかのように鮮明に、そして堰を切ったかのように早口で語り始めました。「一緒に仕事をさせて頂いた方たちのことをテレビで見ると、私もその場にいたいと思います。もし、…もしもですよ、今、舞台を一緒にと言われたら、仮に本当にそれが実現するなら…。映画もテレビもチャンスがあればやりたいです。『よしやるぞー』と思います。」この日、つみきみほさんにお会いできて本当に良かったです。彼女はまさしく「NGO(Non- Gaman Optimists)な人」でした。