21世紀のビジネス最前線スマートフォン&モバイル編スマートフォン市場は拡大するか
市場動向から見る現状とニーズ

(2012.01.06)

一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム
事務局次長 高野 敦伸

一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムは、1999年4月 イージーインターネット協会(EIA)内のフォーラムとして任意団体の活動を開始。3年前から社団法人281社が加盟した。近年のスマートフォンに関する注目が高まりに合わせ、スマートフォン・タスクフォースの創設、また日本アンドロイドの会と連携して日本のスマートフォンについて検討を行う。

スマートフォン市場を支えるのはソーシャルゲーム

モバイルビジネスの市場規模は2010年で約1兆6,550億円となりました。モバイルコンテンツには着メロ、着うた、ゲームといった携帯電話の中で完結するエンタメサービスが含まれ、ユーザーがダウンロードした金額の総計となります。市場は右肩上がりで成長しており、モバイルコンテンツ市場は2010年の地点で約6,465億円になりました。

モバイルコマース市場は、携帯電話を使ってモノを買う、CDを買う、本を買うといった行為の売上の総計です。こちらも成長を続け、2010年度は約1兆円にのぼりました。

調査を始めた2007年以降、モバイルコンテンツ、モバイルコマース市場共に右肩上がりとなっています。特に成長を見せているのがアバター/アイテム販売(対前年比311%)、動画専門サイト(対前年比145%)です。具体的にはモバゲー、GREE、mixiといった巨大プラットフォームの中でアイテム課金をはじめとした方法で販売するといったことを指します。ここ数年非常に伸びてきおり、市場全体を引っ張っていると言って良いでしょう。

モバイルビジネスの市場規模は2010年で約1兆6550億円となった(出典:「2010年モバイルコンテンツの産業構造実態に関する調査結果」モバイルコンテンツ・フォーラム調査
ネットの閲覧時間はフィーチャーフォンより長い

次にフィーチャーフォン、iPhone、Androidユーザーに通話・メール以外で1日に何時間程度、携帯電話を利用しているか、つまりどれくらいネットを利用しているかについてです。独自にアンケート調査を行ったところ、スマートフォンは1日4〜5時間利用するヘビーユーザーが10%程度おり、1日1〜2時間未満のユーザーを加えると半数程度を占めていることがわかりました。スマートフォンを持つと1〜2時間トータルで使う状況があるのかなと。

スマートフォンユーザーはこれまでのフィーチャーフォンのユーザーよりもネットを利用する時間が多いといえるでしょう。こうしたユーザーがネットに接続して楽しんでいるのはTwitter、FacebookをはじめとしたSNS、ポータルサイト、動画サイトです。こうしたコンテンツを隙間時間に利用しています。MM総研によると、スマートフォン、携帯電話ともに最も閲覧時間が長いのは「ブログ・SNS・つぶやき系サイト」で、スマートフォンユーザーは1日あたり平均23分、携帯電話ユーザーは11分/日。

スマートフォンユーザーで2番目に閲覧時間が長かったWebサイトは「ポータル(検索)サイト」で18分/日、以下「動画サイト」17分/日、「ニュース・天気予報」16分/日と続きます。スマートフォンユーザーと携帯電話ユーザーの比較では、全ジャンルのWebサイトでスマートフォンの方が長い結果になりました。「動画サイト」で携帯電話の4分/日に対しスマートフォンでは17分/日と4倍以上となっています。

ユーザーがネットに接続して楽しんでいるのはTwitter、FacebookをはじめとしたSNS、ポータルサイト、動画サイト(出展:MM総研2011年7月)
ネット同様、ユーザーの利用は無料コンテンツ中心

スマートフォンが盛り上がっているといえど、なかなかビジネスにならないのが現状です。フィーチャーフォンのモバイルコンテンツ市場が約6,465億円であるのに比べ、国内のユーザーがスマートフォンから有料アプリをダウンロードした合計金額は約123億円。これは市場が登場したばかりでユーザーが少ないということだけでなく、スマートフォンの主流である無料アプリが影響していると考えています。無料アプリは全体の7〜8割を占めているため、ユーザーがアプリを探すとまず無料のアプリが出てきます。それで良いものがなかったら有料のアプリを探すという様になっているのではないでしょうか。

こうしたスマートフォンユーザーが主に使っているのは無料・低価格のアプリです。アプリに関しては無料のものが何十万とあるので、それで楽しむユーザーも増えている。アプリ・コンテンツの1ヶ月あたりの平均利用金額を見ると、フィーチャーフォンのユーザーは431円、iPhoneユーザーは332円、Androidユーザーは191円とフィーチャーフォン利用者の利用金額が高い。スマートフォンは無料アプリの存在に引っ張られたともいえるでしょう。とりわけAndroidはiPhoneの約6割程度まで落ち込んでいます。

こうした傾向は、ニュース、天気、交通ナビゲーションアプリに非常に強く現れました。これまでフィーチャーフォンでも当然似たような形で提供されていましたが、有料コンテンツが多かった。例えばナビの機能を使おうとすると、携帯キャリアから提供されているものだと月額300〜500円です。それがネットに接続してGoogle mapを開けば、似たような機能を無料で使うことができるのです。

スマートフォンユーザーが主に使っているのは無料・低価格のアプリ(出典:MMD2011年7月)
AppleとGoogleの差異が色濃く出たストアの構造

フィーチャーフォンが6,500億円もの市場規模にまで成長した1つの要因として非常に手軽で便利な課金システムが整えられていたことが考えられます。

これまでフィーチャーフォンはimode、ezwebなど携帯電話キャリアが提供するポータルサイトから集客を行なっていました。そこに行けばアプリが揃っていて、携帯キャリアの課金システムで暗証番号を入力すれば、簡単に購入を済ませることができた。またフィーチャーフォンでは「毎月〇〇円」といった月額課金も多く、ある意味放っておいてもユーザーからお金が取れるというシステムだったといえます。

一方、スマートフォンにおいて、先ほどのような王道の課金方法はまだ確立されていないのが現状です。AppleではAppストア内でしかアプリを購入・ダウンロード出来ないという状況で、そこではほぼクレジットカードでの購入方法となっています。ユーザーからしてみればAppストアにいけば欲しいコンテンツが手に入り、クレジットカードで手早く決済が済ませられるといった点で便利なのですが、逆に事業者側から見るとAppストアで売るために様々なルールや要求を飲まなければならない。そこでしか売ることができないといった点がネックになる可能性があります。

GoogleではAndroidマーケットの他にも携帯キャリアのマーケットやその他の事業者が開いているマーケットに出品することができます。いわゆるあちこちにマーケットが点在している状況です。そのため決済方法もキャリア独自の課金、クレジットカード、Paypalなど色々な手段が増えてきています。スマートフォンのなかでもAppleとGoogleは相当異なった構造をしているといえるでしょう。

AppleとGoogleの構造の差異はストアのシステムに顕著にあらわれている(出典:MCFのスマートフォン・モバイルコンテンツEXPO2011発表資料をもとに作成)
今後は利用時間や場所を意識したサービスが拡大

ユーザーの利用方法、ストアの現状からも、スマートフォンはPCに近い性質をもっていると言えます。PCの世界では毎月お金を払う有料サービスはほとんど見られないと思います。どうしても無料がサービスの形となってしまう。

そうした状況の中でコンテンツを提供する側が継続的に利益を上げていこうとするならば、やはり広告は今一度考えなければならないことだと考えています。スマートフォンユーザーのネット利用時間は明らかに長い。それならば広告の接触率も増えると思いますので、もしかするとフィーチャーフォンより広告費が上がる可能性も否定できません。

スマートフォンはほとんど「持ち歩けるPC」と思って良いのではないかと思います。PC化された端末が、持ち歩けることで、さらに利用時間や利用場所も拡大していくことが予想され、それに適したコンテンツやコマース、広告が広がっていくはずです。例えばユーザーの場所に関する情報を取得し、ユーザーの興味関心を刺激する情報を提供するジオロケーションサービスが近年注目を集めています。こうした利用時間やユーザーの場所を意識したサービスが今後も拡大していくのではないでしょうか。