片岡英彦のNGOな人々 異業種交流会の異端児 関西ビジネスサテライト
仲井美和

(2013.02.12)

関西ビジネスサテライト 仲井美和さん。photos / 井上 昌明

「NGOな人々」”Non-GAMAN-Optimist”とは「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない 「楽観人」。NGOな人々へのインタビュー第26回目は“個人の趣味の延長線上にあった異業種交流会が、いつの間にか自分の代名詞になっていた”という「関西ビジネスサテライト」を主催する仲井美和さんです。

■仲井美和 プロフィール

関西ビジネスサテライト 仲井美和さん。photos / 井上 昌明

1973年生まれ。関西ビジネスサテライト新聞編集長、有限会社セラフィー代表取締役、パートナーシップPlus異業種交流会主宰、一般社団法人My-do顧問。 高校時代よりファーストフード店にてアルバイトを始め、社内コンテストで優勝。20歳で念願の正社員として入社、店長を勤める。その後、企業取材記事を扱う雑誌社へ転じ日本全国を取材で飛びまわる生活を送る。とあるきっかけで紅茶の素晴らしさに出会い、2005年に紅茶の輸入・販売・卸事業を行う有限会社セラフィーを設立。2008年より関西異業種交流会をスタートし、翌年には全国規模の交流会へ拡大。2010年、関西ビジネスサテライト新聞を発刊、編集長に就任。

■紆余曲折のこれまでの経歴

片岡:まず初めに、これまでのご経歴からお伺いします。学生時代からアルバイトされていたファーストフード店では、社内コンテストで優勝。その後、社員にまでなられているのですね。

仲井:もう正直それしか知らない子でしたね(笑)もともと父親が自分で事務所を構えて商売をしていた人で、自分もゆくゆくは自分で商売をしたいなぁと考えはじめるようになっていたんです。さすがに高校くらいは出ていた方が良いだろうということで、高校に通いながら働き始めました。特に理由があったわけでもないんです。始めたきっかけも、当時の友達3人くらいで「アルバイトしようや」って誘われて、連れて行かれたようなもんで。何かこう、働くことの魅力に憑かれてしまった感じはありました。

片岡:青春を捧げたわけですね(笑)。そしてその後、雑誌のお仕事に転職されたそうですが、なぜそんなにハマっていた職場から、異業界へ転じることになったのでしょうか?

仲井:ある時、ふと考えてしまったんです。ファーストフード店の社員になって10数店舗ほど経験してみて、サービスやオペレーションは覚えた、店舗の経営の仕方もある程度勉強させてもらった、この次は何があるんやろう? 独立して商売や事業を起こすために、自分に足りてない事はなんなんやろう?……そんな風にどんどん考えが進んで行って。ここで経営の在り方とか、コミュニケーションスキルとか、今でもすごく役に立つことを沢山学べたことはすごくよかった。ただ、チェーン店である以上、事業に必要なマーケティングや広告宣伝は、現場の店舗ではなく本社がコントロールしているわけですよね。もちろん現場側でのサービス提供が必要になるとしても、ある程度ほっといたって売れるような仕組みが出来上がってしまっているわけです。自分で事業を起こすためには“自分を売る能力や行動”が必要。次は“営業”を身に着けようと考えたんです。

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片岡:確かに0から立上げた事業やお店とは、前提が少し違ってきますね。そこで見つけたのが雑誌のお仕事?

仲井:たまたま雑誌で見た求人広告に「日本全国営業に行けます!」という謳い文句が大きく書いてあって(笑)仕事内容は「日本全国の企業経営者を、芸能人と一緒に取材に行って、記事を書く仕事です」。これはかなりおもろそう、と思ってしまったんです。その雑誌は、企業経営者の取材に芸能人をアサインすることで、有料記事として掲載料を頂くモデルの媒体でした。一般に公開されてる電話帳一覧を見て、企業の経営者に片っ端からテレアポをして、全国に取材に出かけて、記事を書いて掲載する。そんな仕事です。

片岡:どれくらいの企業を取材されましたか?やはり数をこなしていくと、良い経営者、ダメ経営者、の見分けもついて来たりするのでしょうか?(笑)

仲井:北は北海道・利尻島、南は沖縄・石垣島まで、全都道府県2,500人ほどの経営者さんとお会いして、取材させて頂きました。これもウマの合う仕事やったみたいで、営業成績も入社半年くらいでTOPを維持できるようになり…日本全国津々浦々を飛びまわって、好き放題させてもらいました。うまくいっている経営者さんには、何かしら共通点はあると思いますこんな会社がある、あんな会社もある、こういう商材や取引がある。日本全国で行われているビジネスを目の当たりにしていくと、成功企業の経営者さんは、インタビューの内容も未来の事を中心に語っているような気がしますね。


「成功企業の経営者さんは、インタビューの内容も未来の事を語る」という。

二束の草鞋(わらじ)を履く経営者!?

片岡:そして現在はご自身の会社を経営しながら、関西ビジネスサテライト新聞の編集長もされています。「二足の草鞋」を履くことになった経緯は?

仲井:起業したのも縁とタイミングといいますか…雑誌の取材先で出会った美味しい紅茶に出会って、これを輸入販売したいと思ったのがきっかけです。輸入や卸販売のビジネス経験もなく、とりあえずダメ元でインドとスリランカの領事館に電話をしました(笑)。

そしたらスリランカ領事館が親身に相談に乗って下さって、色々紹介してくれて。現地にも飛んだ結果、輸入ルートを開くことが出来、これはもう起業してしまおうと。ところが、起業して1年半はまったく軌道に乗らず貯金を切り崩す生活が続きました。経営が思わしくないとわかると、周りにいた人脈がさーっと離れていくのも感じましたし、そんな中でも相談に乗って下さる方も居て。良くも悪くも、人脈やご縁について考えることが多くなりましたね。生活費を稼ぐために外でアルバイトをしながら、経営もなんとか持ち直してきて。そんなつらい時期を支えてくれた方々に、何か恩返しは出来ないかなと思うようになって、異業種交流会をスタートさせたのがはじまりです。

関西で有数規模のビジネス交流会へ。

片岡:ビジネスとして立ち上げたわけではなく?

仲井:そうですね、趣味の延長上にあるようなもんですね。僕は大学も出てないし、資格も持ってないし、出来ることと言ったら“場”を作ることくらいなんです。自分の人脈の中の知らない人同士が名刺交換して、ビジネスマッチングをはかる異業種交流会なら、僕にも出来るかなと。

第1回目は20人くらいで集まって、毎月開催し続けて約60回目を迎えます。雑誌の取材で全国を回っていた時に知り合った地方の経営者や、参加者からのクチコミで多くを巻き込んで、今では関西だけでなく全国6拠点で開催されるようになって。おそらく民間で主催している交流会コミュニティとしては関西でも有数の規模になっているのではないでしょうか。

そして、回を重ねていくうちに、交流会の参加費自体で収益は殆ど出ないですが、利益を還元するとしたら、参加されている企業さんの情報をまとめて発信できる媒体を作りたいなと思うようになったんです。前職で紙媒体のノウハウもあるし、題材として経営者インタビューも経験があるから、新聞を作りたいなと思った。それが「関西ビジネスサテライト新聞」です。交流会のたびに「デザイナーがほしいなぁ」「印刷所どこがいいかなぁ」なんて言い続けていたら、交流会の参加者さんやその紹介で次々と協力してくれる方が現れて、思っていた環境があっという間に出来てしまった。

片岡:これまでの人脈やノウハウがうまくハマったわけですね。

仲井:そうですね。交流会に参加されている20社くらいの経営者さんのインタビューやプロフィール写真を載せて、他に参加されている経営者さんにそれを見てもらって、どんどん横に繋がるように、経営者さんがお仲間の経営者さんを他己紹介する体裁にしたり。WEBやブログでやればもっと簡単かもしれないですよ、コストもかからなくて。ただ、ここであえて紙媒体にこだわっているのは、形のあるものを手渡しして、ありがとうって言って頂ける、そんなコミュニケーションを大事にしたいからなんですよね。ですから、基本は毎号、郵送か手渡しです。交流会で配布したり、お店に設置してもらったり、定期購読して頂いたり。ビジネスマッチングの会となると、結構自分とこの営業ばっかりしてくる方も多かったんですけど、交流会の参加費で作られていて、どんな人が会に参加しているのか解るこの新聞を始めてからは、安心して参加しやすくなったのか、メーカーの方や個人事業主の方など色んな層が交流会に来て下さるようになったと思います。


交流会の参加費自体で収益は殆ど出ない。利益を還元するとしたら、参加されている企業さんの情報をまとめて発信しようと媒体を作った。

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片岡:交流会自体のブランディングにもなってるわけですね。

仲井:そろそろこの新聞も、周りのご理解を頂きながらですが、どこかで広告も入れていきたいなぁと。単体でまわせていけたらいいなぁとは考えています。うちの良い所って、自分の知らない所でも、分科交流会やコミュニティがあるくらい、裾野が広がって参加者さんが自主的に動いて行ってくれているところなんです。日本一認知度の低いコミュニティ媒体でも、参加されている方同士でおもろいこと起こしてくれたらそれでいいなと思います。例えば先日はFacebook経由でご縁あって、ロサンゼルスの方に呼んでいただいて。現地の日本人経営者さんのインタビューをさせてもらったり、こちらからも新聞を持って行って置いてもらったり(笑)おもろいですよね、日本で一番聞いたことない新聞がロスで読めるなんて。

「自分を売る」ことに情熱のある人の集い。

片岡:(笑)ところで、関西の交流会に参加されている方はどんな感じの方たちですか?

仲井:わかりやすくいうと名刺に顔写真を載せていたりインパクトのあるデザインを使っていたりする人が多い。(笑)自分を売ることに情熱のある方が多いですよね。今は起業家さんというよりは、1人でご自宅でやられてるような個人事業主がかなり増えています。……でもまぁなんというか1人で出来ると思って突っ走ってる人も多い(笑)

片岡:僕といっしょ(笑)

仲井:いやいや、片岡さんのように会社員の経験とビジネスのノウハウを持ってる方とはわけが違うんですよ。そういう段階をすっとばして、ひらめいたから今それをやりたい!みたいになるわけです。そんな人がめちゃめちゃ多い。後先考えてないから将来のビジョンもない。アンチ会社員的な動きをされている方は多いかもしれないです。

片岡:なるほど。今後この「関西サテライト新聞」はいわゆる交流会の広報ツールという域も超えて色々な可能性が出てきそうな気配ですが、社会起業とかNPOに向かうのか、株式会社にむかうのか、その辺りはどうでしょうか?

仲井:今年中には何らかの形で発表したいなぁとは思います。何にしても趣味からはじまったライフワークみたいなものですから、急に事業として切り離して行くのも違う気がしますし、かといって本業もありますから、助けてくれる周りの方と相談しながら決めて行けたらいいなと思っています。この交流会からも少しずつビジネスが出てきつつありますし、それが当初の目的でしたから本当に嬉しい事で。ビジネスプランコンテストを開催すれば、総合経済紙のフジサンケイビジネスアイさんが後援についてくれたりしますからね(笑)

片岡:競合だとは思わないというわけですね?(笑) 仲井:もちろん、あくまで僕は「紅茶屋さん」ですから(笑)もうええかげんにしろと、家庭からは冷ややかにいわれたりしますけど。でも、本当に自分だけでは想像出来ないところに繋がっていったなぁと思っています。大々的なメディアに報道されることはなくても、もっと関西発でおもしろい情報を発信して行けると思うので。

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片岡:最後の質問になります。20年後までに達成したいことはなんでしょうか?

仲井:駅の売店から本屋さんまであらゆる場所で関西ビジネスサテライト新聞が流通していることと、東京はすっとばして、海外で活躍している日本人のインタビューをもっと取材して書きたい。外国の方でも大和魂を持つ方のインタビューとか。意外と関西人マインドは海外の方が共通項多いかもしれないですし。今後、日本の人口が減るとビジネス規模もおのずと小さくなって、雇用や居住地の分布も変わって来そうですよね。そうすると旧来の地産地消に近い小売卸や個人商売の市場が、今後増えていくのではないかと思って。なので、もっと個人の情報発信力に首を突っ込んで、個人起業サイズの経営者のビジネスをサポートしていきたいと思っています。日本で一番発行部数は少なくても広い地域に出回っていて、僕は海外を出回っていて(笑)そんな感じが実現出来ていたら最高ですね。大衆知名度は低くても熱い思いを発信するコミュニティ媒体でありたいなとは思っています。

片岡:ありがとうございました!

●インタビューを終えて

今年1月に私は仲井さんの関西ビジネスサテライトが主催するランチ会(写真)で、戦略PRに関する講演をさせて頂く機会を頂きました。何より驚いたのが、参加される方々お一人お一人の「インパクト」でした。仲井さんのお話の中にもあったように、多くの方が個性的な名刺(顔写真入りだったり似顔絵入りだったり)を、ごく当たり前のことのように持だれ、こちらからご挨拶をさせて頂く間もなく、次々と声をかけて頂きました。これは「士業」の方であっても個人事業主の方であってもベンチャー起業家であっても変わりなく、実際、数十名の方と名刺を交換させて頂きましたが、東京に戻っても、お一人お一人をよく覚えているのです。

とかく東京では「自分を売ること」に抵抗を持たれる方もいます。私もこの気持は分からなくもなく、交流会などでもついついあまり「売り込み」をせずに遠慮がちなことが多くあります。一方で、グローバルに目を向けますと、欧米も中国も自分や自社をパーティーなどのオープンの場で「売り込む」ことには非常に熱心で精力的に行うことはごく一般的です。東京(あるいは大阪以外の日本)がよほど特殊なのか!?大阪という街とグローバルとの共通点を見た瞬間でもありました。


1月11日のハイクラスランチ会にお招き頂き「戦略PR」講演をさせて頂いた。