片岡英彦のNGOな人々 (Non-Gaman Optimists)わがままをどこまで通せるかしら?
キノコホテル マリアンヌ東雲  

(2011.10.17)

「NGOな人々」とは、”Non-GAMAN-Optimist”。今の世の中に、とにかく「ガマン」していられず、チャレンジをし続け、決して諦めない「楽観人」です。そんなNGOな人々へのインタビューを毎回コラム形式でご紹介しています。第7回は、過激なライブ、一度見たら忘れられないルックス、日本語を大切にしたガレージサウンドで話題の「キノコホテル」支配人のマリアンヌ東雲さんです。

毒のある
憧れの「イイ女」。

10年か15年に一度くらいの頻度で女性アーティストにハマる。私の場合、音楽性以上に、その人の「存在そのもの」にハマってしまう。80年代には「戸川純」にハマった。「マセた」中学生だったと思う。『玉姫様』のLPをレンタルレコード店で借り、ウォークマンにダビングして何度も聴いた。「ハイポジ」ではなく「メタルテープ」にこだわる「偏狭」な中学生だった。『蛹化(むし)の女』がお気に入りだった。何度も聴いたのでテープは擦り切れた。教育上良かったのかどうかはわからない。が、結果としてこんな大人になった。

90年代の終わり、まだテレビ局員だった頃、『歌舞伎町の女王』にハマった。DVDの中の「椎名林檎」はどこか危うい「毒」を放っていた。「危険な女性」に憧れた。ちょうど、その頃、全く「毒性」のない平凡で家庭的な女性と出会い結婚した。子供が2人できた。あれからもう10年以上が経つ。

2010年2月14日のバレンタインデーの夜、私は下北沢ClubQueにいた。10日ほど前に『マリアンヌの憂鬱』でメジャーデビューしたばかりの「キノコホテル」の単独実演会(キノコホテルのライブは「実演会」と呼ばれる)の会場だった。自腹でチケットを買うのは、今や「キノコホテル」の他はあと1人だけだ。高校生から60代くらいまでの幅広い客層。女性客も多い。キノコホテルの支配人マリアンヌ東雲が登場すると客席は興奮した。もちろん私も。

■マリアンヌ東雲 プロフィール

マリアンヌ東雲(まりあんぬ・しののめ)12月20日生まれ。射手座のB型。キノコホテル 支配人であり創業者。すべての作詞・作曲を手懸け、音以外のビジュアル面他においてもプロデューサー的な役割を担っている。新宿ロフトの月刊誌「Rooftop」に「悦楽酒場」というコラムを連載(2010年 -)。歌・電気オルガン、作詞・作曲担当。動力源はブランデー。広大な森の中で小鳥や小動物達と戯れながら暮らす。

『マリアンヌの憂鬱』(2010年2月)『マリアンヌの休日』(2010年8月)に続き、今年4月に『マリアンヌの恍惚』をリリース。11月3日(祭日)には結成当初からずっと憧れていた大正ロマンのオペラハウスを再現した元グランドキャバレー『東京キネマ倶楽部』において豪華仕様の実演会を行う。


パンツが見えるのも
オルガン立ちもいつものこと。

ーいつもライブ過激ですね。

え? 過激かしら? 

ーパンツ見えてたよ。

スカートが短いですからね、いつものことですよ。電気オルガンの上に立ち上がってスタンドもろとも壊したこともあるわ。楽器を粗末にするのはミュージシャン失格だなんて言われても関係無いわね。私のものなんだから。本当は電気オルガンのメーカーがスポンサーについてくれたらいいのに……さすがに難しいかしら。

ーおとといの実演会ひどいこと言ってたね。

ひどくなんかないわよ別に。「おだまり!」とか「もう帰って!」とか客席に向かって言うと本気にする人がいるみたいですけど、マリアンヌ東雲はそういう人だから。私が嫌なのは、客同士が悪口を言い合うような環境。確かに以前は冴えない感じの男性客達が身動きせず固まって観て居るような時期もあって散々周りから揶揄されたものです。近頃は客層もだいぶ広がって、女の子とかモッシュするような今どきの若い子も増えた。すると今度は「マナーが悪い」でしょ。殴り合いの喧嘩になったり怪我人が出たりする訳でもないのに、どうして楽しく観れないの? あんた達って性格悪いのね、って思ったりするわ。私たちを応援したいのか足を引っ張りたいのかよく分からない人達の発言のせいで、これから実演会を観てくれようとしている人達の足が遠ざかってしまうのが嫌。

私なんて人様のライブに行って、それなりに色々なものを観て来たけど、まだまだこのくらいでひるむなんて情けないと思いますよ。演歌やクラシックのコンサートじゃないんですから。あきらかに目に余る時は私だって見て見ぬ振りはしないわ。

ー全く荒れてないのに風評被害があるということでっすか!? 

実際に実演会に来てもらったり、演奏を聴いてもらった上で私のことを嫌いになって離れていくなら仕方ないし、私たちが非難されるのは構わないのだけど、こっちではどうにもできないことを平気で言われるでしょ。そんな事を勝手に発言して大勢の人が鵜呑みにする。「もうどうでもけっこうよ」と言い放ってしまうことの危険性もある。誤解はつきものだと解っているし、無駄と知りつつ釈明したい気分になる時はあるわ。

キノコホテル全体を
俯瞰的に見るプロデューサー。

ーおとといのライブはひどいこと言ってるわりに、大人しかったね。「遠慮」したの? 

あら、どうして? ダイブしなかったから? 自分としては遠慮をしたつもりはないですが。クアトロでは必要がないと思っただけよ。全てがお約束になるのが嫌なの。オルガンに乗るのはそうなりつつありますけどね。

私は基本的に何をしても賛否両論になるタイプですので、やってもやらなくてもいちいち何故? と聞かれてしまうの。そんな問いにいちいち答えるのは面倒くさい。客席に危険が及ぶような行為の場合はとっさの判断も必要だし。客に怪我させて平気なのはただの馬鹿ですからね。「したかったらします」「そういう気分にならなかったらしません」としか答えようがない。

でも「やらない」と言ったからといって二度とやらないわけではない。その時の「気分」をいかに客席と私とが共有できるか。そういう私の「気分」をどうやって引き出していけるか。

ー色々考えてるんですね。

自分が楽器を演奏するだけだったら、こんなに色々考えなかったと思うわ。本来ミュージシャンの領分ではない仕事を気付かずに始めからしていた。必然的にプロデューサーになってしまったので、なるべくキノコホテル全体を俯瞰的に見るようにしていますが自分の感覚、感性が一番大事。私が最高だと思って出したものに、絶対ファンはついてきてくれると信じてます。

私が迷った時点で負けなのだと思います。確信を持って出したものについて何を言われてもそれはしょうがない。キノコホテルの顔として、こうして人と話をしているうちに自分の考えってこうなんだと気付くことも多い。キノコホテルは私なしでは成り立たないのだけど、実際には色々な人が協力してくれる。みんなが私の考えや意見を極力優先してくれるの。だから継続できているようなものです。

「従業員」と呼ばれるメンバー
友達から結成したワケではない。

ー「キノコホテル」結成のいきさつは? 

最初、今とは違う3人の女の子と始めたの。高円寺や新宿のインディースシーンで細々とやってました。キーボードを弾きたかったわけではなかったけれど、始めから私の音楽には電気オルガンはマストでしたから。誰かに弾かせようとして探したりもしていたけれど見つからないし面倒臭くなって自分で弾いてみる事にしたの。

当時からバンドに関する全てを自分で取り仕切ってました。衣装、曲、とにかく全部自分で考えていたわ。アマチュアバンドならメンバーの誰かが必ずやることだけど、音楽をやる為に他の事を考えるというよりトータル的にどれが欠けても駄目、という感じ。それは今も変わらないですが、ここにきてやることが急に増えて来た。

それで、結果的に私はプロデューサーでもあると思うようになりました。プレイヤーでありパフォーマーでありプロデューサーである。結局、そこに落ち着きました。全部を一人でやるのは楽ではないけど、それが自分の目標になっていけばいい。

ー「従業員」とは主従関係? 

従業員(キノコホテルは支配人のマリアンヌ東雲の他は「従業員」と呼ばれるメンバーらで構成されている)とのプライベートでの付き合いはないわ。もともと友達同士だったわけでもないですし。音を作る現場では確かに「主従関係」はあるでしょうね。私が仕切らないと何も始まらないですから。従業員たちはとにかく私が気持ちよくなるように演奏してくれればいいだけ。身の周りのことは別の人たちがやってくれる。

「S」とか「M」とかは全然意識していない。聞かれたら「彼女たちがMだから成立しているんじゃない? 」と答えるくらい。プロモビデオでは立場を逆転させたりしている。要は自分が色々と遊びだいだけなんです。

今の私は私のことしか考えない。
まだまだ私自身が満足してない。

ーブランディングされたガールズバンドということでしょうか? 

アングラだのメジャーだのは正直どうでもいい。ずっとアングラでいくというのもありだったかもしれないけれど、とにかく今はメジャーの土俵にあがった。上がった以上、自らを恥じるような結果にはなりたくない。今の私は私のことしか考えていないんです。

ーそう言い切るところがすごいな。

キノコホテルを好きな人は私を受け入れてくれる。逆にいうとマリアンヌ東雲を受け入れられない人にとってはキノコホテルは「ナシ」だと思います。明らかに万人受けしないタイプの人間がフロントを務めて、他3人はニコニコと可愛らしい。その妙な違和感がキノコホテルの面白さの一つであり、巷にあふれる女性バンドとひと味違うところなのではないかしら。

日々、わがままを通す事に心血を注ぐ中でムカつく事もそれなりにありますけど、周りの人を振り回して困らせた分だけ良い物を出していければいいと思っています。だいたい、まだ全然売れてないですもの。これは謙遜なんかじゃなくて、まだまだ私自身が満足してないの。街行く人にキノコホテルを知っているかどうか聞いても、まだ100人にひとりの世界。誰も知らないのに有名人ぶっている人なんかにはなりたくない。

キャラ作りなんか
めんどくさい。

「ところで、お酒(ウィスキー)飲みません?」 

僕は彼女にお会いするまで、正直、どっちのタイプかな? と思っていました。1つは完全にキャラクターを作り込んでいて、最期まで、極力「素顔」を見せないタイプ。(たとえば「デーモン木暮閣下」や「鳥居みゆき」)もう1つは「オン」の時はアクの強いキャラだけど、取材などの時は「素」の1人の人間として尊敬できる方。例えばルー大柴さんとか林家木久扇師匠とか。

こんな話をぶっちゃけ、ご本人にぶつけてみた。そして(インタビューアーとしては失格な行為なのかもしれないけれど)「酒好き」を自称する彼女に用意していたアルコールを勧めてみた。彼女はウィスキーの水割りを口にした。少し饒舌になった。私は意地悪く(?)言った。

ーさあ、インタビュー開始です。マリアンヌさんはキャラを作り込むタイプ?

著名な方に自分のタイプを当てはめるのはよく分からないからご想像にお任せします。自分のことというより、いつも「マリアンヌ」のことを考えているからオンとオフという感覚がなくなるの。「キャラ」なんかいちいち作っていないわ。よくキャラ作り過ぎとか言われるけれど、そんな器用なことできるわけないわ。面倒臭いし。キノコホテルとは何ぞや、なんて事は聴いた人たちが決めればいいの。言葉でこうだと売り文句を打ち出すことが恥ずかしい。

レコード会社が打ち出したキャッチコピーとかには妙なものが多いじゃないですか。商業的にやむを得ないとは言え、難しいし結構危険な気がする。何だかんだで私の周りがキノコホテルを位置付けしていくわけだけど、それに従うか裏切るかは私の自由。

自分に音楽しかないとは
決して思っていない。

ー音楽はマリアンヌさんにとってワンオブゼムなの?
 
そうなんだと思います。今はたまたま音楽をやっていますけど、別に命を捧げようとか思っていないし。でも音楽に感謝はしています。やりたいことはやる、やりたくないことはやらない。わがままをどこまで通すか。私がやりたいこと、私のわがままをとことんやらせてくれればそれでいい。それで周りも楽しんでくれたらそんなに素晴らしい事はありません。自分は自分でしかないですし。

もちろんキノコホテルは音楽の為に始めたグループですが、ファッション雑誌に載ったりもしているし、色々な可能性をはらんでいると思うの。これは私個人のスタンスですが、自分に音楽しかないとは決して思っていない。いわゆる天才肌でもないですし。

映画に出たいかどうか? ……まあ死体の役くらいしか出来ないでしょうけど(笑)。今の時代はメディアミックスが当たり前だから、バンドメンバーだったのに俳優で活躍されたりしている人もいる。自分がやるかどうかはさておき、そういうのは面白いんじゃないかしら。

ー要するに広い意味でのマーケッターということ?

お金が全てではないけれど、結局、お金にならないと何もできない。活動自体の意味がない。キノコ、マリアンヌ、それなりの金が動かせるようになって初めて出来る事だってあるし。それだけの労力は割いているし、音楽業界が不況だろうとお金を稼ぐのは一番大きなモチベーションよ。

自分はキノコホテルが初めての音楽活動で、オーディションで勝ち抜いて来たわけでもない。プロのミュージシャンに憧れて地道に頑張ってきたという経験がない。メンバーを変えつつ、比較的短期間でキノコ創業→インディース→メジャーデビューで今に至る。その過程で自分の一番のプロデューサーが自分自身であることにも気付いたわけです。

熱しやすく冷めやすいのに、
キノコホテルには飽きない。

ーファンとの交流はどのように深めてるの?

昨秋からtwitterを始めたけど個別には返信していないわ。ファンとの対話をするために始めたわけでないしマメじゃないから。気が向いた時に適当に発言しています。飲んでる時が多いかしら。翌朝記憶のない恥ずかしいツイートに気が付いて顔から火が出る思いで削除しようとするとすでに結構な人数にリツイートされていて泣きたくなったりしたこともたまーにあるわよ。ほんと、ああいうのイヤになる(笑)

ーなんかいい人……。

そうよ、基本的には(笑)極めて常識人だと思います。自分でいうのもなんだけど。自己分析しすぎというくらい冷静。でも最近twitterのツイートの頻度が減ってきました、思った通り。熱し易く覚め易いので。

キノコに飽きないのは結構奇跡的なことなんです。今、飽きてはいけないと思っているみたい。正直、もういいなと思うこともある。でも「やりきった」と思うところまで行かないと今までの事が全部無駄になってしまうので、その都度自分を奮い立ててやっているわ。何でもすぐに投げ出して今まで生きてきたのに、キノコホテルだけは初めて続いている。だからそれなりに意味のあることなのだと思いたい。

大人になった自分を
想像したことナシ。

ー子供の頃、何になりたかった? 

そういうことを考えなかった。目標とか憧れとか全くなかった。大人になった自分を想像したことすらなかったわ。

ーよい子だったの? 悪い子? 普通の子だったの? 

懐かしいフレーズね。

ーひょっとして僕と同世代? (笑)

私はいくつにだってなれるの(笑)

お勉強はできたわよ。体育は嫌いだったけど。身体を動かすことよりもチームワークが苦手だった。気持ち悪くて付いて行けなかったの。プールやハードルや、もくもくと無心になって自分の世界に入るのは嫌いでなかった。でも協調性を求められる競技は嫌だからサボって一人で映画観に行ったりしていたわ。

ー今後の予定は? 

鶯谷にある東京キネマ倶楽部で11月3日に単独実演会をやります。昔からずっとキノコホテルの世界観にぴったりの会場だと思っていて、ここで実演会をやりたかったの。普段は殺風景なライブハウスばかりでしょ。でも本来私はステージもショーを作り上げる上で重要な装置だと思っているの。キノコの持つムードをより増幅するための。空間ごとお客さんたちに酔って頂きたいんです。

これは「レトロ好きだから」だとかそんなインディースの発想ではないの。観る方も演る方も陶酔出来るであろう会場をきちんと押さえて実現できる、そんな、些細だけど今までは出来なかった事がようやく叶って良かったと思っています。

ー他人をプロデュースすることとかには興味はないの? 

興味なくはないわよ。集団を意のままに動かすことは楽しそう。大勢の人を動かしたい。可愛い子に酷い振り付けを無理矢理やらせたりね(笑) そういうギャップが好きなんです。自分はミュージシャンとしてそれだけをストイックに頑張り続けるタイプではないですね。どうしてもプロデューサー的発想の方が勝つ事が多いですから。自分が音楽やらせていただいて現実感がない時もある。自分のポジションは一体なのだろうかとふと思う事がよくあります。

ー最期の質問です。「尊敬する人」は? 

自分。いつだって自分にしか興味がないの。まだまだ満足にはほど遠いけどキノコホテルは自分そのもの。私の現在(いま)。

■■インタビューを終えて■■
インタビューしにくいタイプ

インタビューしにくいタイプの人には2通りのタイプの方がいます。

1つは自分が「好きなタイプの女性」です。どうしてもツッコミが甘くなります。私の場合は「わがまま」「気が強い」「頭の回転が早い」「私と同じB型」の女性が好きなので、そういう方がインタビューのお相手だとついつい本当に聞きたいことが聞けなくなります。

もう1つのインタビューしにくいタイプは「同業者」です。広い意味での「プロデューサー」や「マーケッター」的な方がお相手ですと、いちいち細かく、話を伺ったりしなくても、直感的に相手の意図する「狙い」が分かったような気がしてしまうのです。「それ聞いたらヤボ」みたいな自分自身も聞かれたくない企画やアイデアの根底にある考え方や、その方ならではの他者との「差別化」のエッセンスみたいなものに、ついつい触れずに終わってしまうのです。

マリアンヌ東雲さんはそういう意味では、ここ最近でもっともインタビューのしにくいお相手でした。なんせこの2つの条件が見事に揃っていましたから。

今回、私はアーティストとインタビューアーという関係でお話させて頂きましたので、最期までアルコールに手を付けずじまいでした。今度お会いする時は是非ともお互い本職のプロデューサー同士として、ブランデーでもワインでもお相手させて頂きたいなと思うのでした。マリアンヌ東雲さんにお会いできて良かったです。彼女はアーティストを超えた、NGO(Non- Gaman Optimists)な支配人(プロデューサー)でした。

ちなみに性格はSと言われているが、本人に聞いたところ「そんなこと自分で言ったつもりはない」と一笑していました。