21世紀のビジネス最前線 スマートフォン&モバイル編急成長を見せたAndroid
コンテンツプラットフォームの展望

(2011.12.26)

例年にない盛り上がりをみせた『スマートフォン&モバイルEXPO』。業界関係者の多かった前回と比較して、今回は初めて来たという人も多く、改めてスマホ市場の成長ぶりが感じられた。また来場者の中には震災の経験から在宅業務アプリについて見たい、Facebookの新しいビジネスモデルを考えたいなど、前回とは違った視点で訪れている人も見られた。今回は「コンテンツプラットフォームとしてのAndroid、その現在と今後の展望」というテーマで、アドビシステムズ社太田氏の講演を紹介する。

アドビシステムズ株式会社 
テクニカルエバンジェリスト 太田禎一

旧マクロメディア社でDirector、FlashなどインタラクティブなクリエイティブツールおよびWebデザイン・開発ツールのプロダクトマネジメン ト・マーケティングを担当。アドビとの合併後は、Flash Platformを基盤としたデジタルコンテンツ制作・メディア配信技術を中心に、Adobe最新テクノロジーの訴求活動を行っている。

議論を呼んだ “Android First”

スマートフォン(以下スマホ)・タブレットが活況を呈していますが、そのなかでも「Android first」、つまりアンドロイドを優先的に開発や企画をしたほうがいいのでは、という議論が昨年のちょうど今頃ありました。スマホやタブレットがこれだけインパクトを持って、あるいは期待を持って捉えられているというのは、100%、iPhoneとiPadのおかげだし、この2者がゲームチェンジジャーであったのは間違いないですが、後追い的にAndroidが出てきて、無償のライセンス提供で盛り上がりを見せてきました。

そこで、アメリカの市場に敏感なベンチャーキャピタリストたちの中で「これからスマホOSに打って出ていくなら、伸び率を考えたらAndroidをはじめに考えたほうがいいのでは」という考え方が出てきた。彼らは先見の明があったと思います。その後本当に出荷台数もAndroidがiOSを軽々と抜いている状況になっているのです。今年ガートナー社がこれからのスマホの年間出荷台数予測を出したものでは、2011年でAndroidが増えてSymbianが減っていき、2015年ではAndroidが5〜6割、残りを他の端末でシェアすると発表しました。

スマートフォンプラットフォームのマーケットシェア (2011.10 Gartner) Androidが増えてSymbianが減っていき、2015年ではAndroidが5〜6割、残りを他の端末でシェアすると発表された。
2011年、より広範囲へ展開する動きを見せた Android
24時間ユーザーの手が届くところ全てをカバーするOSを目指す

スマホとタブレットだけじゃなくて、アメリカで出た電子ブックリーダーNookの中身もAndroidです。最近はAmazonのキンドルもカスタマイズされたAndroidだったり、Mp3playerの進化版も見られます。そして今後Samsung・LGをはじめ、韓国の家電メーカーが日本の市場にも進出すると思いますが、そのディスプレイにもAndroidが入っています。Androidからすれば、Smart TV(インターネット接続・OSが入っていてエンドユーザーがApp storeにアクセスできる)も活躍の幅が広がるプラットホームなんですね。

この多様性がiOSと違うところで、大変魅力的です。これを推し進めていけば広範囲の分野をちょうど串刺しのようにカバーでき、24時間いつでも消費者の手が届くところにAndroid OSが動いているということになります。これは何よりも意味のあることです。

米Google社は2011年5月10日、家庭内の機器をAndroidで統一的に制御する「Android@Home」を発表した。
いま注目を集めるスマートフォン市場の実情は?
スマートフォンではAndroid優位、全体の契約数比率では未だフィーチャーフォンが主力

スマートフォンについて考える際大事なのが、国内スマートフォンの契約数比率の予測です。11年春の時点では全体の携帯電話の契約率のうち1割にも満たないのがスマホでした。今だと15%くらいで、Webにおけるスマホからのアクセスは10〜15%。14年度末には、半分以上はスマホになる。ここまでの数字を総合的に見てみると、国内のスマホ市場はiOSとAndroidの2強時代。ヨーロッパやインドだとSymbianを考えなくてはいけないが、日本だけならその2つを考えれば良い。

企業のWeb、コミュニケーション担当で人類全体を相手にしたいと考えるなら、どこでも消費者が移動機を持って歩いて、そこから企業とコミュニケーションできる、サービスにアクセスできることがすごく大事だと考えます。そして実はフィーチャーフォンと呼ばれる多機能携帯も無視できない。データを見れば、今現在はほぼフィーチャーフォンが全てで、スマホがマイノリティであるのは3年ほど続くだろうということは、頭に入れていたほうが良いでしょう。

スマートフォンとフィーチャーフォンの契約数と比率(2011年度〜2015年度)MM総研
タブレット端末ではゲームや電子書籍などリッチコンテンツを楽しむ傾向
市場規模の拡大が今後の課題

タブレットもコンピューティングのパラダイムを変えた存在です。AdMob(Googleの提供するモバイル広告ネットワーク)の調査では、PCを使ったりスマホを使ったりテレビを見るより、タブレットと過ごす時間のほうが長い層が3〜4割存在していて、タブレットがそれらの機器の代替物になっています。確かにタブレットは、その3つを足して3で割ったようなもの。使われ方を見ても、ゲームが84%で圧倒的で、音楽ビデオ・電子書籍は50%前後、コンテンツ消費端末としての使われ方が目立ちます。

iPadとiPhoneの使われ方の違いをNielsenの調査で見ても、iPadユーザーはスマホに比べてリッチなコンテンツを受身としてじっくり見ており、消費者行動の違いが際立っています。コンテンツ消費端末用としてのタブレットの有望性があり、そこに特化したサービスやコンテンツ配信などができるでしょう。タブレットの課題は市場の規模です。2011年末でも1億に届かず、6,700万台というオーダーに留まりました。スマホは4億を超えていることからも2015年でも3億に満たないタブレットは、市場としてはすごく小さいことがわかります。

iPadユーザーはスマホに比べて如実にリッチなコンテンツを受身としてじっくり見ているという、消費者行動の違いが際立っている。
webでもアプリでも、収益化の構造は変わらない

アプリが急に注目を浴びて、盛り上がりを見せているのは、基本的にはストアの存在によるところが大きいと言われています。しかしコンテンツで収益化を考えた際、実はストアに頼らなくてもいいのです。例えば日経新聞の電子版はストアを経由していないタイプのWebサービスで、普通にクレジットカードの番号を入れて認証すれば購読者だけが使えるというものです。これはapp内サブスクリプションの仕組みと変わりません。

アプリ内課金、アフィリエーションも含め、Webで過去15年間やってきたことをアプリで新しいことをやっているように見えているだけで、実はWebでもアプリでも、収益化の構造はほぼ同じといっていいでしょう。ただアプリは胴元のApple・Androidのほうで、ファイルもストレージしてくれて、配信のお金、料金徴収もして、3割しか抜かないという良心的な中間がいて、サービサーやコンテンツプロバイダー、開発者が楽できるからという理由で人気なだけです。一度ダウンロードしたアプリを人にコピーできない、ある意味DRM(デジタルコンテンツの著作権保護を目的に、コンテンツの複製を制御・制限する技術)がついてるから、アプリストアがすごい!と思われているだけ。だからこの中じゃなきゃ収益化できないわけではないので、閉じこもる必要はないのです。

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