V.A.『Haven’t We Met?~Sparkle Love Songs』発売。夜空にきらめく星座のような、
心を温めてくれるラヴ・ソング。

(2013.01.09)

“ギフト”の持つスペシャリティ。

「冬のある日 言葉のない手紙がぼくに届く」……ピチカート・ファイヴの「メッセージ・ソング」の歌詞ではありませんが、 昨年のクリスマス・イヴの朝、遠い北国に住む友だちからのプレゼントが僕のもとに届きました。それを受け取ったとき、文字通り僕の心の鐘が音を立てたように感じました――橋本徹さんの最新コンピレイション、『Haven’t We Met?~Sparkle Love Songs』に収められている曲たちにも、同様の手触りがあります。つまり、“ギフト”の持つ特別さ。それがこの一枚にはたっぷり詰まっているのです。

コンピはガブリエル・デュコンブルの「Haven’t We Met?」のとっておきのサロン・ジャズ・カヴァー①からスタート。星の瞬きのようなイントロから耳を奪われます。アプレミディ・クラシックでもあり、カフェ・ミュージックを象徴するような、皆さんお馴染みの一曲ですよね。続くレフトオーヴァー・ドリームス②も、イントロから①のケニー・ランキンによるオリジナル版の軽やかなムードを彷彿させる、ノスタルジックなワルツァノヴァ・ナンバー。そうそう、今作は、2011年に「usen for Cafe Apres-midi」の10周年記念盤としてリリースされた『Haven’t We Met?』の姉妹編と言える作品でもあります。ラッピングとリボンというハンドメイド感溢れるパッケージも印象的でしたよね。そんなところにも、本作『Sparkle Love Songs』と“ギフト”というキーワードとの連続性があるように思います。

“ギフト”と言えば、『Sparkle Love Songs』の吉本宏さんによるライナーのモチーフにもなったトレイシー・ソーンの⑩もぜひ紹介しておきたい一曲です。昨年リリースされた『Tinsel And Lights』は、クリスマス・アルバムというカテゴリーを超えて素晴らしい一枚でした。毎年、冬が来るたびに手に取りたくなるアルバムだと思います。アナログ・レコードとCDに加えポストカードの付いた限定ボックス・セットという仕様は、チェリー・レッドやクレプスキュールなど、80年代のネオ・アコースティック・レーベルの作品の横に並べて置いておきたいと思えるものでした。「Because of the dark, we see the beauty in the spark(暗闇が深いからこそ、私たちはそこに美しいきらめきを見る)」という歌詞に、橋本さんがこのCDに込めた想いが見えてくるような気がします。


左・J’ai Deux Amours / Gabrielle Ducomble
右・Tinsel And Lights / Tracey Thorn

“憧れ”というラヴ・ソングの本質。

ジョン・レノンの「Woman」、ラヴ・ソングと言うと僕はこの曲を真っ先に思い出してしまいます(2006年の橋本さんのコンピレイション『Love Songs For My Heart』の冒頭を飾る一曲でもありました)。大切な一人の、そして全ての女性に対する感謝の気持ちを歌うロマンティックなナンバーですが、この曲に込められている感情はラヴ・ソングというものの本質を言い当てていると思います。それは“憧れ”。近くにいるのに遠くの星のように遠い……そんな永遠に届くことのない距離を感じながら誰かを思うこと。それはつまり、目の前にいる人だけでなく、今は目の前にいることはない誰かを思うことでもあります――『Sparkle Love Songs』では、イントロからフリー・ソウル・ファンは盛り上がらずにいられない⑤や、温もりのあるエレピが効いたハートウォーム・グルーヴ⑥などももちろん魅力的ですが、どこか懐かしさやある種の喪失感を含む切なさを想起させる曲たちも格別印象に残ります。フォーキー・メロウ・ボッサなサウンドと、その歌声に引き込まれてしまうエリオット・レイニー⑭、サウダージ溢れるメロディーが沁みるベト・カレッティの⑰などが代表的でしょうか。中でもビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』を代表する名曲「God Only Knows」を子供たちが合唱する⑯は、そのイノセントな響きに打たれること必至。「I may not always love you」と始まるこの曲の歌詞について、かつて橋本さんは「そこにはある種の真実がある」と書いていましたが、それが実感できる感涙のヴァージョンだと思います。

クリスマスから新年、そしてヴァレンタイン・デイといったイヴェントが続くこの季節。マフラーやストールを巻いて星空を見上げながら、暖かな部屋でホットワインを飲みながらなど、シチュエイションはさまざまだと思いますが、『Sparkle Love Songs』を耳にしながら過ごすには絶好だと思います。大切な人と一緒に、あるいは大切な人を心に思い浮かべながらこのコンピレイションをぜひ耳にしてください。きっと、あなたの心の奥底にあるさまざまな気持ちが呼び覚まされるに違いありませんから――。


左・Love Songs For My Heart / V.A.
右・An Aging Sailor’s Dream / Elliott Ranney

Haven’t We Met? – Sparkle Love Songs
V.A.
2013.1.13発売 2,400円(税込)RCIP-0183
レーベル:Apres-midi Records

【Track List】
01. Haven’t We Met / Gabrielle Ducomble
02. I’ll Take Romance / Leftover Dreams
03. For The Love Of You / Robbie Dupree
04. I’d Like To Touch A Star / Leder Brothers
05. Counting On You / Kylie Auldist
06. Over Again / Rogê
07. Big Yellow Taxi / Bria Skonberg
08. You Taught My Heart To Sing / Shirley Crabbe
09. The Night Has A Thousand Eyes / Diana Panton
10. Joy / Tracey Thorn
11. Arthur’s Theme (Best That You Can Do) / Valerie Joyce
12. My Cherie Amour / Alexia Bomtempo
13. Moon River / Marcia Lopes
14. A Good Life / Elliott Ranney
15. Dança Dos Laços De Fita / Mário Falcão
16. God Only Knows / The Langley Schools Music Project
17. Mi Ángel Dormido / Beto Caletti
18. My Melancholy Baby / Delicatessen
19. Time After Time / Carter Calvert And The Roger Cohen Trio
20. Cancion Hácia Voz / Quique Sinesi