Another Quiet Corner Vol. 01 フリーペーパー「Quiet Corner」と
もうひとつの「Quiet Corner」

(2011.08.18)

クワイエット・コーナーについて。

はじめまして、HMVの山本です。現在、HMV本部でジャズやワールド・ミュージックのバイイングの仕事をする傍ら、「Quiet Corner―クワイエット・コーナー」というフリーペーパーを作っています。

「クワイエット・コーナー」は「ジャンル、国、年代に関係なく、心を鎮め、心に響く音楽ばかりを紹介するフリーペーパー」。実はぼくの好きな音楽だけを紹介していますので、かなり個人的趣向が濃い内容かもしれません。

1号目の表紙はアルゼンチンのカルロス・アギーレ、2号目はイタリアのジョルジオ・トゥマ、3号目は日本の藤本一馬、といったように一見何のつながりもなさそうですが、時代の流れに左右されず、商業的な音楽シーンとは無縁な良質で深い味わいのある一本筋の通った音楽家たちです。彼らの音楽性こそ「Quiet Corner」の世界観を象徴しているといってもいいでしょう。彼らの頑固ともいえる徹底した美意識は尊敬に値します。

しかしこのフリーペーパーは決して音楽マニアに向けて作ってはいません。音楽が大好きでもっと何か新しい音楽を聴きたいと考えている人に、「これもいいですよ」とそっとお薦めするような存在になればと思っています。

このコラムでは「Quiet Corner」の世界観をそのままに、フリーペーパーの紙面では紹介しきれなかった素晴らしい音楽を紹介していきますので、おつきあいよろしくお願いします。


ネーミングの由来。

「Quiet Corner」――。お気づきの方もいるかもしれません。そうミネアポリスの知る人ぞ知るシンガー・ソングライター、ジェフ・ハリントンが1975年に同名の名作を残しています。

フリーペーパーのタイトルを何にしようかと考えている時、先に書いたように音楽をあまり詳しくない人に向けて作っていると同時に、自分と同じように幅広く音楽を聴いている人にも“ある種の感覚”を共有できればと思い、そんな中CD棚を眺めていたらこのジェフ・ハリントンが目に留まったのです。タイトルもジャケもサウンドもフリーペーパーの雰囲気に相応しいかと……。

70年代のシンガー・ソングライターを追いかけている音楽ファンに人気のこの作品、オリジナルはマニア垂涎のレア盤として知られていましたが、渋谷の廃盤レコード店『ハイファイ・レコード』の大江田信/松永良平の両氏の尽力により“ビター・スウィート・アメリカ”シリーズの一枚として2006年に世界初CD化を果たしました。

再発時、帯には「ミネアポリスのアルゾ~」と粋なコピーも付けられていましたが、まさに極上の“フォーキー&ジャジー”ともいえる内容で、70年代後半のAORシーンのような華やかな厚化粧はなく、フォークとブルースとジャズを散りばめながらも“洗練”にはまだ達しない、イナタくて内省的で人間味あふれるサウンドが魅力的です。そしてこの作品がミネアポリスで生まれたことが何より音楽好きのハートをくすぐるのです。

“水の都市”という意味を持つミネアポリスはアメリカ合衆国ミネソタ州東部に位置する都市で、人口は約40万人弱。この街が生んだスーパースターといえば殿下ことプリンスがあまりに有名ですが、音楽文化も豊かで“ミネアポリス・サウンド”と呼ばれる根強いシーンも確立しています。
 

“ミネアポリス”を見つけたら……

しかしここで紹介する“ミネアポリス・サウンド”はジェフ・ハリントンの『quiet corner』の世界観。主に70年代に録音されたフォーキーなシンガー・ソングライターです。他に推薦盤を挙げると、最初にぼくが“ミネアポリス”を意識するようになったマーク・ヘンリー『Riversong』や、彼の朋友にしてNYからミネアポリスに移ったマイケル・ジョンソン『Ain’t This Da Life』。先の“ビター・スウィート・アメリカ”シリーズでも再発されたマイケル・モンロー『Summre Rain』、「Quiet Corner」第3号でも掲載したマイケル・ディーコン『Runnin’ In A Meadow』、フレッド・アルギル『Thistledew』、ケヴィン・オデガード『Kevin Odegard』、ロニー・ナイト『SONG FOR A CITY MOUSE』など。ミネアポリスの名スタジオ「SOUND80」で録音された作品たちにも不思議とある種の良質な空気感が漂っています。それはブルース・コバーンやトニー・コジネクやデヴィッド・ウィフェンといった、カナダの良質な音楽と似た空気感かもしれません。大都市から離れた土地で、音楽家が自然や生活に寄り添いながら奏でる音には、凛とした透明感があり、歌声は穏やかで、メロディには優しい温もりが漂っています。

ぼくはいつもCDやレコードのクレジットに“ミネアポリス”という文字を見つけた時には無条件に反応してしまいます(ここ数年でRivermanやBig Pinkといったレーベルが、入手困難なシンガー・ソングライターの再発に力を注いでいますので、気になった方はぜひチェックしてみてください)。

彼らの作品を聴いていると、自分だけの大切な宝物を見つけたような、そんな小さな幸せをしみじみ感じます。

「Quiet Corner」のフリーペーパーも彼らの作品のように「小さな幸せを届けられるような存在」になればと心から願っています。


Quiet Corner 初イベントのお知らせ
8月21日(日)18:00〜23:00
DJ:山本 勇樹(HMV)・寺町 知秀・中村 智昭(MUSICAA¨NOSSA)
Guest Selector:藤本 一馬(orange pekoe)
場所:渋谷 Bar Music
Tel:03-6416-3307