メランコリックなメロディメイカー
ルル・ゲンスブール。

(2012.04.09)
『ビルボードライブ東京』楽屋にて。©2012 by Peter Brune

世界が憧れた稀代の伊達男、セルジュ・ゲンスブール。
その血を受け継ぐ青年音楽家ルル・ゲンスブールが来日公演を行いました。
父へと捧げたトリビュートアルバム『FROM GAINSBOURG TO LULU』は
ゲンスブールの名曲を新しい感覚でアレンジ。
セレブリティの面々がボーカルで参加したことでも話題を呼びました。
ミュージシャンを志したきっかけ、これからの展開についてお話していただきました。

■ルル・ゲンスブール プロフィール

Lulu Gainsbourg

1986年生まれ。ミュージシャン。父は作曲家で作詞家、ポップスター、俳優、映画監督で一世風靡したセルジュ・ゲンスブールと、母はモデルで歌手のバンブー。4歳よりピアノを学びはじめ、15歳でバンブーとのデュエット”Ne dis rien”をリリース。バークリー音楽院で作曲、アレンジを学ぶ。2011年、セルジュ・ゲンスブール トリビュート・アルバム『フロム・ゲンスブール・トゥ・ルル』でソロデビュー。スカーレット・ヨハンソン、バネッサ・パラディ&ジョニー・デップら豪華セレブリティのゲストのみならず、父親ゆずりの音楽センスで話題を呼んだ。
ルル・ゲンスブール UNIVERSAL JAZZ 
Lulu Gainsbourg Ofiicial Site

スタートはクラシック音楽。

ーライブでは、アルバム『フロム・ゲンスブール・トゥ・ルル』に参加している元セルジュ・ゲンスブールバンドのメンバー ピアニスト ゲーリー・ジョーゼット、サックス&フルート奏者 スタン・ハリスンらの演奏で歌い、ピアノソロの曲も披露していましたね。ルルさんがミュージシャンを志したきっかけを教えてください。
 
ルル 僕は常に音楽とともにありました、4歳からピアノを弾き始めましたので、子供のころから練習し、演奏して来て、音楽は僕の魂、身体の中に入り込んでいました。音楽が大好きです。

ーまだルルさんが小さい頃にセルジュさんは亡くなっていますが、直接、音楽を習ったりしたこともあったのでしょうか?

ルル 僕は生まれてから6ヶ月父と一緒に暮らしましたが、父のような音楽家の生活は、子供によくない、ということで、その後は離れて暮らしていました。父の父、僕のおじいちゃんにあたる人物も音楽家だったんですが、セルジュにたいへん厳しく音楽を教えていたようで、父は音楽教育に関ししてあまりよい思い出を持っていなかった。そのせいだと思うんですが、僕に音楽を教えることについて積極的でなかったですね。でも、僕には音楽をやって欲しいと思っていたようです。

***

ーいつも身近に音楽があった暮らしの中で、音楽は楽しいと思ったきっかけといいいますか、最初の忘れがたい音楽体験というのがありましたら教えてください。

ルル 8歳から音楽学校に通ってピアノの演奏、ソルフェージュや作曲を習っていましたので、僕の音楽の基礎はクラシック音楽です、新しい曲をもらって演奏できるようになるまでの練習はまさに悪夢。まず曲をCDで聞いて、こんな風に演奏したいと切望するんだけど、なかなか上手く弾けるようにならない。自分に対して憤りを感じるし、ちょっとうまくできるとうれしくなったり、たいへんです。でも1曲自分のものにできた時の喜びは何ものにも代えがたいものでした。そんな感じで、いちばん最初に喜びを感じた曲はバッハでした。

ーそういえば、ルルさんは’07年の「セルジュ・ゲンスブール・トリビュート・コンサート」ではベートーベンの『月光』を演奏していましたね。クラシック音楽にとても親しんでいた、というのがよくわかります。ところで、今日のルルさんは、マイケル・ジャクソンのTシャツを着てますが、マイケル・ジャクソンも好きでしたか?

ルル もちろんクラシックばかり聴いていたわけじゃないです。日本のアニメーションの主題歌や、ゲーム音楽は大好きだったし、ディズニーの音楽も大好きでした。父はよくピアノで僕のために『ポパイ・ザ・セーラーマン』の曲を弾いてくれていました。彼が弾くポパイの曲は今も耳に残っています。

『ビルボードライブ東京』ルル・ゲンスブール公演より。
新しい解釈をすることで、
父の曲を学び、身につける。

ーボストンのバークレー音楽大学に進んで、作曲、アレンジを勉強したということですがアルバム『FROM GAINSBOURG TO LULU』ではプロデュース、アレンジのほか、ピアノ、パーカッションを演奏され、16曲中4曲歌ってます。また、今回のライブではアルバムではバネッサ・パラディ&ジョニー・デップが歌っていた『メロディ・ローズの物語』はじめボーカルをとる場面が多くありました。セルジュさんのように、曲も作ればパフォーマンスもする、マルチプレーヤーを目指していますか?

ルル 大学で音楽の勉強をしながら、僕は自分がプロデュース、アレンジに向いていると気がついていました。ミュージシャンを選んでプロデュース、アレンジをしたこのアルバムを作った時はまだ25歳で、そんな若造がマリアンヌ・フェイスフルや、イギー・ポップを相手にどうやってやるんだ? と自分を含めて、みんな思っていました。でもなぜかとってもうまくいってしまった。偉大なアーティストと仕事ができたことは本当に貴重な経験だし、みなさんに感謝しています。

今回のコンサートでは、僕は唄も歌っているけど、パフォーマーとしてはまだまだ学ぶことが多いと感じています。父の曲を唄うことはかなり難しくて、もし僕が自分で全曲歌う、ということだったら、このアルバムは作らなかったかもしれないです。

父はジャズ、ファンク、バラード、ラテン、ポップス……とさまざまなタイプの音楽を演った人。父の音楽の僕なりの解釈をみなさんに聞いてもらいたいと思っています。新たなる解釈をすることによって、僕は父の曲を学び、身につけていっていると思っています。楽曲を通して父はいろんなことを教えてくれていると感じています。

セルジュ・ゲンスブールがこれくらい(頭までの高さを指しながら)のミュージシャンだとするならば、僕はこのへん(肩の高さを指しながら)くらいまでは行きたいな、という意識は常に持っています。どのようなミュージシャンになりたいか、というのもいつも自問していることで、スタイルを模索している最中です。今のような時代において、全く新しいスタイルの音楽を作ることは難しいことです。その中で、僕は美しいメロディとハーモニーを作っていきたい、そして素晴らしい歌詞も作れればよいのですが。実際、僕は歌詞を作るのは得意とはいえなくて、メロディメイカーだと思っています。

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ルル 僕は映画音楽が大好きで、映画音楽家のジョン・ウィリアムス、エンニオ・モリコーネ、ダニー・エルフマンを師と仰いでいます。彼らのようなアレンジができるようになるには、人生を2回くらいやらないとダメだよなあ、なんて考えています。音楽を作る時っていうのは、ガールフレンドのことを考えたり、友達のことを考えたり、日常生活のいろいろな場面で沸き起こる自分の感情、イマジネーションを元に作るしかないんですが、そういう僕の仕事は、歌や曲を作るというよりか映画音楽を作ることと似ているのではないかと思っています。

僕は、一瞬一瞬が自分にとって意味を持っていると感じるし、瞬間に感じることを大切にしています、そして、いつも考え事をしていて、夜もあんまりよく眠れないタイプ。その感じること、エモーションから曲は生まれます。

ーライブでは、アルバムの15曲目、ルルさんのオリジナルの曲『フレッシュ・ニュース・フロム・ザ・スターズ』をピアノ・ソロで演奏していましたね。実に、静かな優しい曲です。ルルさんの曲作りにおける「エモーション」は、怒りとは無縁ですね、穏やかで哀しい感じです。

僕が作る曲はだいたい、あの曲みたいなメランコリックなスタイルが多いです。

まだ少年の面影をのぞかせるルル・ゲンスブール。「いつでも考えている。嬉しい時も、プロブレムな時も。音楽やいろいろなこと。あまり眠れない時もあるんだ。」©2012 by Peter Brune

ー次のアルバムについて教えてください。

ルル (わからない、というように肩をすくめる。)いつも考えているから、アイディアはたくさんあります。今のところ旅が多くて、飛行機の中で生活しているようなものです。実際ゆっくりピアノの前に座ったら、それらがまとまって出てくると思います。

フロム・ゲンスブール・トゥ・ルル
”FROM GAINSBOURG TO LULU”

2011年12月7日発売
CD:UCCM-1206 2,500円 (税込み) 
レーベル:UNIVERSAL JAZZ , FONTANA

かつてブリジット・バルドー&セルジュ・ゲンスブールが歌った『ボニーとクライド』をスカーレット・ヨハンソン&ルル、ジェーン・バーキン&セルジュ・ゲンスブールの『メロディ・ネルソンのバラード』をバネッサ・パラディ&ジョニー・デップが、『イニシャルB.B.』をイギー・ポップ、『マノン』をマリアンヌ・フェイスフルが歌っている。活動の拠点であるNYのほかロサンゼルス、パリの3都市で録音、ゲスト・ボーカリストの個性とブルーノート、マヌーシュ・スウィング、サルサ、アフロ、弦楽奏、etc…ジャンルを縦横するアレンジのせめぎ合いがスリリングな16曲。

【Track List】
1.唇によだれ
vocal:ルル・ゲンスブール
L’eau à la bouche (Serge Gainsbourg / Alain Goraguer)

2.イントキシケイテッド・マン
Instlemental
Intoxicated Man (Serge Gainsbourg)

3.手ぎれ
vocal:ルーファス・ウェインライト
Je suis venu te dire que je m’em vais (Serge Gainsbourg)

4.ボニーとクライド
vocal:スカーレット・ヨハンソン&ルル・ゲンスブール
Bonnie and Clyde (Serge Gainsbourg)

5.マノン
vocal:マリアンヌ・フェイスフル)
Manon (Serge Gainsbourg)

6.馬鹿者のためのレクイエム
vocal:マチュー・シェディッド&ルル・ゲンスブール
Requiem pour un con (Serge Gainsbourg/Michel Colpmbier)

7.メロディ・ネルソンのバラード
vocal:ヴァネッサ・パラディ&ジョニー・デップ
Ballade de Melody Nelson (Serge Gainsbourg/Jean-Claude Vannier)

8.ブラック・トロンボーン
Instlemental
Black Trombone (Serge Gainsbourg)

9.太陽の真下で
vocal:シェイン・マガウアン
Sous le soleil exactement (Serge Gainsbourg)

10.リラの門の切符切り
guitar: アンジェロ・デバール
Le poinçonneur des Lilas (Serge Gainsbourg)

11.ラ・ジャヴァネーズ(vocal:リチャード・ボナ)
La Javanaise (Serge Gainsbourg)

12.何も言うな
vocal:メラニー・ティエリー
Ne dis rien (Serge Gainsbourg)

13.イニシャルB.B.
vocal:イギー・ポップ
Initials B B (Serge Gainsbourg)

14.溺れるあなた
vocal:ルル・ゲンスブール
La noyée (Serge Gainsbourg)

15.フレッシュ・ニュース・フロム・ザ・スターズ
piano:ルル・ゲンスブール
Fresh News from the stars (Lulu Gainsbourg)

16.コーヒー・カラー
vocal:エイヨー、マチュー・シェディッド、スライ・ジョンソン&ルル・ゲンスブール
Couleur café (Serge Gainsbourg)

Produced by Lulu Gainsbourg
Except Track 7, 9 by Lulu Gainsbourg and Bruce Watkins, Track 11 by Lulu Gainsbourg and Richard Bona