Another Quiet Corner Vol. 36 『クワイエット・コーナー』が本とCDに。繊細で穏やかな音楽を探しているすべての人へ。

(2014.11.21)
  
  
突然叶った夢「いつかクワイエット・コーナーがディスクガイドになれば」。

クワイエット・コーナーのフリーペーパーがついにディスクガイドになりました。フリーペーパーの第1号が発行されたのが2010年の冬ですから、丸4年の月日が経ったということです。ここには約350枚におよぶ作品が掲載されています。コンセプトは“心を静める音楽”。僕が今まで、出会った大切な音楽が、この一冊に詰まっています。

今年の春、一本のメールが届きました――「クワイエット・コーナーのディスクガイドを作りませんか?」。差出人である編集者は、渋谷にある音楽好きの集まるバー「Bar Music」でフリーペーパーを手に取って、そこに並べてある作品たちの世界観に共感して連絡をくれたのです。「いつかクワイエット・コーナーがディスクガイドになればいいな」と、僕自身も今までに何度か思い描いたことがありましたが、突然の連絡に正直戸惑いを隠すことができず、返事は一旦保留。

「ディスクガイドを作る―—」、果たしてそんな大きな仕事ができるのだろうか。決して文章が上手いとはいえない自分が、たくさんの音楽について書く自信がなかったのです。そうしていろいろ悩んでいるとき、自然と頭に浮かんだのは、これまでフリーペーパーに文章を寄せてくれた音楽仲間たちでした。今まで、12冊のフリーペーパーを発行してきましたが、彼らの協力なしには続けてこられなかったといっても過言ではありません。みな、同じ価値観を共有しながらも、独自の視点と表現で、愛情をもって音楽を語ります。しかも、小難しい印象はまるでなく、軽やかでエッセイのような手触りが、読んでいて心地よいのです。だからディスクガイドにも、彼らの文章が織りまぜることができれば、それぞれの感性が重なり合って、きっと素敵なものになるはずだ、と。こうしてディスクガイド『クワイエット・コーナー』づくりがスタートしました。

フリーペーパー「クワイエット・コーナー」
フリーペーパー「クワイエット・コーナー」
風・光・水、妖精の歌声、自己との対話…、テーマは12章。

まず掲載する作品のリストアップから始めました。フリーペーパーのバックナンバーを取り出して、とっておきの作品にチェックをして、さらに、紹介する機会を逃してきた作品や、ここ最近のお気に入りの作品も加えました。ディスクガイドのサブ・タイトルに、「a collection of sensitive music」と付けたように、セレクトのテーマは“センシティヴ”です。繊細な趣を醸しだす、ジャズ/ブラジル音楽/アルゼンチン音楽/フォーク/アンビエント/ポストクラシカルなど約350枚。しかし、これらをただ並べるだけでは、読者に伝わりにくいと考えて、12の章を設けました。

例えば、章の扉を飾るのは「Viento, Luz, Agua」です。bar buenos airesが監修した2枚目のコンピレーションのタイトルをモティーフにして、その言葉の意味する「風、光、水」をイメージさせるナチュラルでオーガニックな質感をもった音楽を、丁寧に並べて紹介しています。もちろん、ここでの主役はクワイエット・コーナーをはじめるきっかけにもなったアルゼンチン音楽を代表するカルロス・アギーレです。他の章もいくつか紹介すると、妖精のような女性ヴォーカル作品を並べた「Fairy Sings Love Suite」や、孤高の佇まいが印象的な内省感あふれるSSWを中心に選んだ「Conversations With Myself」、そして真夜中に流れるBGMをイメージした「Night Dreamer」など、あえて抽象的な言葉を選んでいます。ですので、音楽のジャンルに詳しくない方でも、雰囲気やシチュエーションをイメージして読んでいただけると思います。

  
  
表紙を飾る写真と挿絵について。

装丁やディテールについても触れたいと思います。表紙を飾る帯の写真は、とある部屋の写真を使用しました(実はこれは大きいサイズの帯なのです)。まず丹念にメンテナンスされた古いオーディオが目を引きます。そしてお気に入りのレコードやCD、本が置かれ、グリーンや植物が自然に溶けこんでいます。音楽好きの誰かの部屋に遊びにいったような感覚が、この写真から伝わればうれしいです。ディスクガイドに掲載された作品は、もしかしてこの部屋に住む人のライブラリーかもしれません。そして、先に書いた12の章には、よりイメージを膨らませられるように、イラストを添えています。

今回イラストを描いてくださったのは三宅瑠人さんです。雑誌『アンドプレミアム』などで、三宅さんのイラストを見ていて、これは本のイメージにもぴったりかもしれないと、面識がないのにオファーしましたら快く引き受けてくれました。「Viento, Luz, Agua」には木、「Fairy Sings Love Suite」は花、「Conversations With Myself」はペンといったように、さり気ないけど温もりがあふれるイラストです。そして、ディスクガイドの最終部には、特別付録を設けました。これは手に取っていただけるとすぐにわかりますが、最後の一章だけ、紙の質を変えたのです。もし、僕がクワイエット・コーナーをはじめる前に、手作りで発行していた「素晴らしきメランコリーの世界」というフリーペーパーをお持ちの方がいたら、この特別付録を見てニヤリとするかもしれません。ちなみにここの章のテーマは「For a Quiet Girl」で、“物静かな女性に捧げる音楽”と題しました。三宅さんの描いたオーロラ・シューズのかわいいイラストは、一番のお気に入りです。

フリーペーパー「素晴らしきメランコリーの世界」
フリーペーパー「素晴らしきメランコリーの世界」
ディスクガイドで育った僕が、ディスクガイドを通じて伝えたいこと。

最後に、今回、ディスクガイドの発刊に合わせて、コンピレーションも発売されます。今までクワイエット・コーナーが監修したCDはいくつかありましたが、「Quiet Corner」が冠タイトルになったのは初めてです。ディスクガイドで紹介したアーティストを中心に選曲したので、本を片手に聴くと、よりクワイエット・コーナーの世界観を楽しんでもらえると思います。冒頭には、僕がもっともクワイエット・コーナーの世界を感じることができる、ノルウェイのヴォーカリストのラドカ・トネフと、ピアニストのスティーヴ・ドブロゴスがデュオで録音した「The Moon is a Harsh Mistress」を用意しました。静寂の空間に響きわたる歌と声にじっと耳を澄ませたくなります。そのほかの曲も、“クワイエット”で“センシティヴ”な感性が宿された知られざる名曲ばかり。もちろん、おやすみ前のひとときのお供や、カフェやギャラリーのBGMにもぴったりだと思います。

今までのフリーペーパーを持っている方、このコラムを読んでくださっている方、そして繊細で穏やかな音楽を探している方たちにこの一冊が届くことを願っています。そういう僕自身も、かつてディスクガイドやコンピレーションを通して、多くの素晴らしい音楽と出会ってきたのです。このクワイエット・コーナーのディスクガイドとコンピレーションも、かけがえのない出会いを生むきっかになれば、こんなにうれしいことはありません。

『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』

  
  

監修:山本勇樹
2014年11月22日発売 1,700円(税別)
発売元:シンコーミュージック

執筆者紹介
石亀政宏/石郷岡 学/稲葉昌太/岡本方和/河﨑政芳/河津継人/鬼頭黎樹/河野洋志/清水久靖/高木洋司/寺町知秀/中村智昭/中村信彦/野見山 実/吉本宏
コラム
伊藤ゴロー/栗本斉/小瀬村晶/橋本徹/林伸次/福井亮司/中島ノブユキ/中正美香/吉本宏
対談
寺田俊彦(雨と休日)

『Quiet Corner – a collection of sensitive music』V.A.

  
  

選曲:山本勇樹
2014年11月30日発売 2,200円(税別)
発売元:インパートメント

【Track List】
01. The Moon Is A Harsh Mistress / Radka Toneff & Steve Dobrogosz
02. Moon River / Diana Panton
03. But Not For Me / Joe Barbieri feat. Márcio Faraco & Nicola Stilo
04. Bright Days Ahead Closing / Quentin Sirjacq
05. Musical Express / Giorgio Tuma
06. Our Day Will Come / Naïm Amor
07. Hold On / William Fitzsimmons
08. Parallel Flights / Ryan Francesconi & Mirabai Peart
09. Chance / The National Jazz Trio Of Scotland
10. Landscape With Birds / Karen Peris
11. Moving To Town / Simon Dalmais
12. Carinhoso / Nobuyuki Nakajima
13. Uma Valsa em Forma de Árvore / André Mehmari
14. Memoria de Pueblo / Pablo Juárez
15. Bittersweet / Charlie Haden & John Taylor
16. Woyzeck / Lucas Nikotian – Sebastián Macchi
17. Heartleap / Vashti Bunyan