Another Quiet Corner Vol. 26L.ニコティアン×S.マッキ、
ふたりのピアニストが紡ぐ透明な音。

(2013.09.18)

ピアノ×ピアノのデュオがつくる透明感に満ちたアルバム。

bar buenos airesレーベル第二弾の発売が決定しました! アルゼンチンの若き音楽家、ルカス・ニコティアンとセバスティアン・マッキの二人のピアニストによるピアノ・デュオ。透明感に満ちたサウンドが印象的なとても素敵な作品です。繊細な音楽のファンにとってはまさに夢のような組み合わせで、現在とても注目されている作品でもあります。

彼ら二人の名前を聞いて、ピンときた人がいるかもしれません。ルカス・ニコティアンは「Puente Celeste(プエンテ・セレステ)」というグループのメンバーで鍵盤奏者として活躍し、セバスティアン・マッキは「Luz de Agua(ルス・デ・アグア)」というグループのピアニストとして活動しています。ふたりは様々なアーティストと共演したり、作品に参加したりして、熱心なアルゼンチン音楽ファンの人なら、きっとどこかでクレジットを見かけたことがあるはずです。さらにこのふたりの名前はbbaのコンピ第一弾『バー・ブエノスアイレス〜カルロス・アギーレに捧ぐ』(2011/11/10)で見ることもできます。

このコンピレーション制作当時、僕たちはルカス・ニコティアンが率いるピアノ・トリオ、カマロテスの「Gincana」を収録しようと考えていました。しかしルカスにオファーの連絡をすると、こんな返事が来たのです。「この曲はセバスティアン・マッキとのデュオ・ヴァージョンもおすすめだよ」と。その後、彼から送られてきた音源を聴いたときは思わず胸が高鳴りました。それはカマロテスのヴァージョン以上に、アレンジやサウンドは静謐な輝きをもっていて、こちらの方がbbaの世界観に合っていたからです。そしてルカスからは付け加えてこんなメッセージももらうことができました。「セバスティアンとはこのデュオでアルバムも録音する予定だから楽しみにしていてほしい」と。

左:セバスティアン・マッキ 右:ルカス・ニコティアン
左:セバスティアン・マッキ 右:ルカス・ニコティアン
コンピレーションからアルバムへ。bbaレーベルが紹介していきたいもの。

あれから2年、彼らのデュオ・アルバムが完成したことを知りました。本国アルゼンチンではカルロス・アギーレ主宰のレーベル「Shagrada Medra」からの発売です。それはふたりがアギーレからも絶大な信頼を得ている証でもあります。届いたばかりの音源を聴き、僕たちにはあの時のときめきがよみがえりました。デュオでありながらまるで一台のピアノを奏でているような一体感。アルゼンチン音楽の枠を超えて、ジャズ、クラシック、現代音楽などを自由に織り込んだ個性的なスタイル。そして静と動を表現したような圧倒的なダイナミズム。こんな作品、なかなか出会うことも聴くこともできません。そしてあの「Gincana」は以前収録したヴァージョンとは別に新たなレコーディングをし直されてまた違う魅力を生み、その他楽曲に関してもまさに「対話」と表現したくなるようなクオリティの高い演奏です。

さらにアルバムの最後にはフィト・パエスとスピネッタの「Woyzeck」を、スピネッタへの追悼をこめてモノフォンタナ風にカヴァーしています。今回、CDには彼らへの最新インタヴューに基づいた詳しい解説を掲載し、楽曲ごとに本人による興味深いコメントももらうことができました。さらには全曲の譜面ダウンロード・コードもついていますのでぜひお楽しみに。

ルカス・ニコティアンとセバスティアン・マッキはまだまだ日本では知られていない音楽家です。今回こうして日本盤として紹介できたので広く音楽ファンに届けられればと思います。bbaコンピ第二弾で掲げたコンセプト“風、光、水”のような自然と共鳴する繊細で美しい音楽を愛する人たちと、彼らの音楽を共感できればとてもうれしいです。

『Lucas Nikotian – Sebastián Macchi(ルカス・ニコティアン – セバスティアン・マッキ)』
2013年9月26日発売 2,415円(税込) RCIP-0195 
レーベル:bar buenos aires

【Track List】
1. Candombe amarillo
2. Río de enero
3. São Paulo
4. Celebración
5. Una mañana6. El viaje
7. Gincana
8. Uma gota no mar
9. Woyzeck
Lucas Nikotian(Piano / Yamaha S-6)
Sebastián Macchi(Piano / Yamaha C-7)
録音:2012年6月 ブラジル/サンパウロ Estudio Salavivaにて録音

Another Quiet Cornerとは

このコラムはHMVフリーペーパー『Quiet Corner』編集長・山本勇樹さんが、『Quiet Corner』で書ききれなかった音楽を伝えてくれる連載です。2009年HMV渋谷店にできた「心を静かに鎮めてくれる豊潤な音楽」をジャンルや国籍に関係なくセレクトした伝説の売り場「素晴らしきメランコリーの世界」が、アルゼンチンの音楽家カルロス・アギーレと共鳴する音楽を聴くというbar buenos aires選曲イベントへと繋がり、ライヴ運営やコンピレイションの制作、レーベルの設立というように活動の幅を広げています。イベントごとにつくられた幻のフリーペーパー『素晴らしきメランコリーの世界』が、2011年春「Quiet Corner」と名前を変え、同じコンセプトで静かだけではない豊かでQuietな音楽を紹介し続けています。