島田奈央子的ジャズ論 ジャズと私の現在・過去・未来。

(2014.12.08)
音楽ライター、DJ、イベントプロデューサー島田奈央子さん。photos / 谷 康弘
音楽ライター、DJ、イベントプロデューサー島田奈央子さん。photos / 谷 康弘
音楽ライター、DJ、イベントプロデューサーなど様々なプロフィールを持つ島田奈央子さん。2010年に発表されたコンピレーションCD、書籍の共通タイトル「女子ジャズ」シリーズは各方面から絶賛を受けました。ジャズに詳しく多方面で精力的な活動を続ける島田さん、12月21日には南の国のクリスマスをテーマにイベントをオーガナイズします。イベントについて、なによりもまず、その人となりから伺わなくてはと意気込んでみてのインタビューby『サラヴァ東京』プロデューサー ソワレくんです。

ー最初に「小さい頃から音楽は身近なものでしたか?……

島田奈央子さん:はい、ただ私は歌謡曲が好きで。父がジャズやクラシック、ワールドミュージックなんかを聴いていたんですよね。クリスマスには必ず家族でナット・キング・コールの曲を聴くんです。まずはスプレーで盤を綺麗にしてから。レコードをすごく大事にしていてね。ちょっとでも触ったりすると怒られたりして。その時がジャズと云う言葉を知った最初だと思うのですけれど、まさかジャズのライターになるとは思いもしませんでした。ただ、文章を書くのは好きでした。ポエムみたいなものをほんっとうに沢山書いていましたね。

自分の中でこれはジャズ、ジャズじゃないって決めて音楽を聴いてはいないんです。音楽の中に自由度が見えたり、切り開いてゆくものを感じたりするとああ、ジャズだなあ、って。日本の唄にもジャズを感じるものは沢山あるし、それが私にとってのジャズの定義。で、私は英語があまり得意ではないのでメロディを聴いた時にピンと来るんです。単純にいいなあって。同じメロディも表現するミュージシャンで全くニュアンスが変わったりするところも面白いですね。旧い曲でもそうでない曲もメロディラインに乗せるコードやリズムでその人の音楽が見える。私のジャズに惹かれるところはそこかな、って。スタンダードなものの上で自由度が高い、ってのがジャズ。そんな風に思っています。

メロディラインに乗せるコードやリズムで
その人の音楽が見える。

ーまだその言葉がレコード盤に刻まれて100年位だと云うのにジャズの世界は奥深いですね。文化として急速に発達した一コマなのではないかと思えますし、その哲学論は人それぞれ。島田さんは相当なジャズ心酔者だとお見受けしますが、そもそも本格的にジャズを意識したきっかけ、「最初にガツンと来た瞬間は…?」

島田奈央子さん:友達が出ているライブに行ったんです。コール・ポーターのトリビュートライブで。その時に旋律の美しさに惹かれたんですよ。先程も云いましたが私にとって一番琴線に触れるのはメロディなんですよね。それからジャズに本気で傾倒していったのですが、その前にクラブ通いもしょっ中していました。渋谷のクラブ『Room』に夜な夜な出掛けて、DJさんの曲に敏感に反応しては“この曲は何ですか?!”ってブースに駆け寄って……。翌日にはそのレコードを探し回るみたいな日々を過ごしていたら寝不足で倒れて救急車で運ばれて(笑)。その後ライターとしてお仕事させて戴くことになるんですけど、正直云ってジャズが判らなかった、難しかった。勿論お仕事はきちんとさせて戴いたのですけれど、もしかして最初の入り口がビッグネーム過ぎたせいかも知れません。マイルス・デイビスとかそういうところから入っていったから。そこに追い付こうとしたり解釈したりすることで精一杯で。

ジャズが好き、って云うと100個くらい質問が飛んで来るんですよ。その度に判らなくて挫折して。私はジャズのパッションとか雰囲気が好きだったんですけど知識で責められてしまうんです。しばらくしてそういう気持ちから開放してくれた音に出会って。フランスのミッシェル・ペトルチアーニって云うピアニストなんですけど、その時に“ああ、これだ”って思ったんです。もの凄くポップで聴き易くて、なんでもっと早く出会わなかったんだろうって思いましたね、そこからです。何かが私の中で変わったのは。私は最初にジャズの巨人に出会ってしまったんですね。ミッシェルを聴いて私はこういうスタイルのジャズが好きなんだって確信出来ました。

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書籍『Something Jazzy 女子のための新しいジャズ・ガイド』駒草出版
『タワーレコード』などで平積みの特設コーナーが印象に残っている人も多いのでは? ピンクの表紙が印象的な島田さん初の単行本はジャズ触れたいビギナーに優しいガイドブック。今までになかったその着眼点からエヴァーグリーンのヒット作に。

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『Something Jazzy~毎日、女子ジャズ。』EMIミュージックジャパン
島田奈央子監修のジャズコンピレーション・アルバム。影響を受けたミッシェル・ペトルチアーニやアンリ・サルバドールと云ったフランス系、日本からは平井景など、時代も国籍も越えた様々な解釈のジャズが楽しめる。続編の『パリ旅で、女子ジャズ~Something Jazzy』も好評を博す。

ジャズのDJ、イベントのオーガナイズ
音響も照明も手がける。

ージャズライターとして早くから頭角を顕していたと感じていた島田さんだがご本人は見えないところでやはり紆余曲折なさっていたのですね。ところでライブ会場で奮闘なさっている島田さんのこと、プライベートライフをのことをちょっと、伺います。イベントではオーガナイズのほか様々なお仕事をしていらっしゃいますが……。

島田奈央子さん:イベントの裏方の仕事は、私だったらこうするのに、って思うことをやっているだけなんですよね。ライブを見ていて照明はこうしたいとか、もうちょっと早く色々なことが仕切れるのにな、とか。今は音響も照明もやる様になりました、少しですけど。

アーティストの音楽を少しでもよく見えるようにって思いながら始めたのが信州の風景を音楽に投影したイベント「信州ジャズ」です。信州・安曇野が本当に好きなのと伊佐津さゆりさんと云う地元のピアニストさんに2年前に知り合ったことがきっかけです。音が南アルプスの景色に交わってゆく雰囲気が本当に素敵だったんです。魅了されて安曇野に通う様になりました。

私は東京生まれでで田舎がないのでそういう意味でもほっとしますね。お野菜も美味しいし。でも冬が寒いのがちょっと、辛いかな。そうそう、安曇野などのお野菜で朝、スムージーを作るのが最近の日課なんですよ。パセリとかセロリとか小松菜、青野菜にヨーグルトとオリーブオイル、お水、無糖のヨーグルトを入れてミキサーで混ぜるだけです。そのお陰で健康ですよ。

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お休みとかはなかなかなくって。ライターとかオーガナイザーってメールがいつでも来たりとかイベントを抱えたりしているとオフのモードに切り替えられなくって。本当に安らげるのはこの頃は眠る30分前くらいだけですね。映画を見たりもしていたんですけど、そしたらそれに関わる連載が始まって仕事になっちゃったりして。どんどんやる事が増えていっちゃいますね。今月に初めて『サラヴァ東京』でイベントをオーガナイズさせていただきますが、テーマが面白いですよ。“南の島のクリスマス“。皆さんが知っている、あのクリスマスソングたちが、あったかい国のアレンジになっていたり、島をイメージした平井景さんのクリスマスオリジナルソングがあったり、スティールパンも入っています。イベントと別に、実は私のジャズのイメージってパリにもあるんです。いつも憧れを抱いている場所。私の思うジャズに一番近い街なんですよね。

 
夢はお薦の音楽をかけてライブをやって。
発信する場を持つこと。

ーそれでは最後に質問を。「10年後の島田さんはどうなっていらっしゃいますか…?」

島田奈央子さん:お店をやっていたいです。お薦めしたい音楽を掛けて。ライブをやって。発信する場所を提供したいですね。実は『サラヴァ東京』みたいなお店が理想なんです。アットホームでギャラリーも併設していて。でも、10年前からそんなこと云ってますからね(笑)。

でもやはり10年後もライターを続けているのかな、って気もしますけれど。いつも不安が付きまとってはいます。けど書き出すと盛り上がって来ちゃうんです。お仕事もいただけているし、やっぱりライターなのかな。でもアンテナショップはいつか持ってみたいです。

 

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生真面目でシャイな印象は最後まで変わらなかった島田さんだが、だからこそ今まで第一線で活躍して来られた礎だと確信した。やはり理由無く好きなものを見つけられた人と云うのはいつまでも純粋で強いのだろう。「体育会系ですか?」と問いかけたら“そうかも知れませんね“とはにかみながら答えてくれた瞬間が印象的だった。女子は永遠に女子、と語る島田さんに期待するジャズシーンの面々が多いのも納得である。音楽との出会いとは決められた運命にも似ているのかな、はじめて出会った時の気持ちを大切に出来る……そんな風に感じた一時間であった。

『Something Jazzy ~冬の休日・アイランド・クリスマス~ Produced by Naoko Shimada』
2014年12月21日(日)開場 17:30 、開演 18:30
会場:SARAVAH東京 渋谷区松濤1-29-1クロスロードビルB1F
電話:03-6427-8886
前売り4,500円、当日 5,000円(1D&プチプレゼント付)

島田奈央子がオーガナイズするするジャズナイト。初心者でも楽しめるラウンジ・ライブパーティ。お一人でもデートにも、お友達とでも楽しめそうな内容となりそう。2014年のクリスマスの想い出はサラヴァ東京で作ってみては如何?そして島田さんからのプチプレゼントが来場者全員に配られます。

出演:伊藤大輔(vo)、青柳誠(pf)、 原田芳宏(Steelpan)、 熊谷望(b)、 平井景(ds&Sound Produce)、島田奈央子(MC)