『カンチェラーレ/Cancellare』4月18日発売真夜中にひとりで聴きたい、
中島ノブユキさんのピアノソロ。

(2012.04.21)
写真/青野賢一

4月18日、中島ノブユキさんの初のピアノソロ・アルバムが発売されました。
昨年夏の「夏は夜」ツアーから誕生したアルバム『カンチェラーレ』は、
みなが寝静まった真夜中、ひとりで聴きたいような静かな響きを持っています。

ピアノソロでも“共同制作”を大事にする中島ノブユキさん。

昨夏、中島ノブユキさんは「夏は夜」と題したピアノソロのツアーで、姫路、岡山、神戸、京都、名古屋をまわりました。そのツアーは2部構成で、一部は“夏にちなんだ曲”をセレクト、二部は即興演奏。夏の夕凪の蒸すような暑さの中で、静かなピアノの音が夜の闇に染み渡るような演奏会となりました。

ツアーが終わった後、中島さんに「ソロアルバムをつくりませんか?」と声をかけたのが、アルバム『エテパルマ』『パッサカイユ』のディレクターでもあるイーストワークスの高見一樹さん。中島さんは「ピアノソロ! それいいかも」とふたつ返事でまもなくアルバムづくりが始まりました。

「ぼくは、人と関わりあいながらの作品づくりが好きで、たとえぼく自身の名義であっても、どのアルバムもいろいろな人との共同制作だと思っています」と中島さん。

例えばファーストアルバムの『エテパルマ』のときは高見さんから「これこれこういう楽器編成でこういうアルバムをつくってみませんか?」とヴィニシウス・ヂ・モライスのアルバムなどを参考にしました。

一昨年の『メランコリア』も同様に、スパイラルレコーズの山上周平さんがアルバムつくりましょう持ちかけたところからスタート。「正直ぼくは前作と違うものを作りたいと考えていたんです。けれど山上さんから“今までのアルバムの世界観(楽器編成や編曲・選曲などのムード)”を新しいカタチで聴きたいんです”と言われて、“じゃあそうしましょう”となりました」と笑う。

こう書くと人からの影響でものづくりをしているように思えますが、中島さんは常に確かな“やりたいこと”“ものづくりの姿勢”、“独自のこだわり”を持ち続けています。ただ共同作業をすることによって、中島さんの中の核のようなものが、より良いカタチに仕上がることを知っているのです。

「そのときどきのいろんな環境とか状況から生まれている音楽が、自然に記録されいる―—という風にも言えるんじゃないですかね」。中島さんはいつも自然体で、どう転がるかを楽しんでいるようです。


Canceralle(カンチェラーレ)/中島ノブユキ 2012.4.18発売 2,500円(税込み)EWCD0185 レーベル:イーストワークス

姫路『ハンモックカフェ』での演奏は、半分オープンエアのカフェ&テラスで 写真提供/HUMMOCK CAFE
インストのピアノソロのアルバムに歌詞をつけたわけ。

今回のアルバムにとって重要な曲の一つ「夏の懺悔(Confession of Summer)」。これは以前から漠然とした曲のスケッチは持っていたもので、「夏は夜」ツアーで演奏を重ねながら構成やハーモニーをまとめ完成させた1曲。どこか物悲しく美しい旋律のピアノ曲です。

そして前作から「忘れかけた面影」が、ピアノソロで収録されています。「とても好きな曲です。『メランコリア』ではアンサンブル・バージョンで録音していたので、自分の中でアンサンブル用の編曲あっての曲だと思い込んでいたんですけど、ピアノソロのツアーでたびたび弾いているうちに、ピアノだけでも楽曲として完成できているものだなと思い始めたんです」。

中島さんは即興演奏をするとき、途中でふと「忘れかけた面影」を奏で始めることが多いのですが、今回の録音では即興演奏のときと同じように長い前奏の後でふいにメロディが始まります。ライブで“その感覚”を知っているリスナーはわくわくする瞬間。

「今回の『忘れかけた面影』のアレンジはライブに来てくれたことのあるお客さんへの小さなメッセージでもあります」と中島さんは微笑んだ。

もうひとつの鍵となる曲が「エスターテ」。ジョアン・ジルベルトが静かに歌い上げたブルーノ・マルティーノの曲。アルバムタイトル「Cancellare」はこの曲の歌詞から来ています。

Estate sei calda come i baci che ho perduto,

sei piena di un amore che è passato
che
il cuore mio vorrebbe cancellare.
夏、君は僕がなくしたキスのように熱い。
君は愛にあふれている。
僕の心の中で消し去りたかった過去の愛に。

 

この素晴らしい歌詞に惚れ込んでいるという中島さんは、今回はインストのアルバムであるにも関わらず歌詞のある曲はすべて歌詞(原語で)を載せることにしたと言います。なぜなら、その曲の持っている世界を感じながら聴いてほしいという願いから。


「求道会館」で行われたライブ 写真/青野賢一

フクモリで開催された「pianona」の風景 写真提供/フクモリ

このほか、録音2日目の朝にひらめいてつくった「届けられない祈り」と「プレリュード ハ長調」というオリジナル曲が収録されています。これは、中島さんが’90年代後半から取りかかっている「24のプレリュードとフーガ」シリーズからの1曲。

「プレリュードとフーガ、この形式にはずっと心惹かれているんです。最初はプレリュードの自由度、フーガという建築的な計算された構築的なものが共存しているところが、とても面白いと思ったんです。ところがいざ作曲が進んでくると、今度はプレリュードの中の構築性とフーガの中の自由度という相反する性質に気づき始めたんです。そういったこともあってなおさら魅力を感じ始めていますね」。

さて、いったいどの辺りまで作曲は進んでいるのでしょうか?

「半分ぐらい書き上がっています。ただ、昔から短調の曲が好きなこともあって、この曲集の半分は短調の曲なんですが、つまり暗い曲はすべてできあがってしまったんですね。あとは長調の曲しか残ってない……。それで曲を書く手が止まっちゃってるんですよ。明るい出だしのプレリュードとフーガが書き進められない……。性格はネアカなんですけどね(笑)」。もしかすると「短調だけの12のプレリュードとフーガ」として発表されたりするかも知れません。

短調の曲が大好物の中島ノブユキさんの奏でる、悲しく美しく優しい旋律を紡いだ『カンチェラーレ』。静かに音楽を楽しみたいときのおともとして、ぜひ聴いてみてください。


音響ハウス第2スタジオで録音する中島さん

《音楽ファンのために『カンチェラーレ』のいろいろ》
・中島さんが弾いたピアノは、音響ハウス第2スタジオのスタインウェイ
・中島さんのタッチに合わせて調律を担当したのは狩野真さん
・ピアノのソリティー(響き)の空間設計は、レコードエンジニアの奥田泰次さん
・ジャケットの絵画は鴨居玲『私の話を聞いてくれ』(1973年作)

【中島ノブユキ Nobuyuki NAKAJIMA Biography】

作曲家・編曲家。ピアニスト。東京とパリで作曲法/管弦楽法を学ぶ。ピアニストとしてはもちろん、時に作・編曲家としてエレガントかつスリリングなアンサンブルを構築し、映画音楽~JAZZ~POPS~広告音楽~クラシックなど、さまざまなフィールドで展開。編曲家として菊地成孔(ペペ・トルメント・アスカラールほか)、UA、ゴンチチ、沖仁、高木正勝、CALMらの作品に携わる。またピアニストとして畠山美由紀、高田漣、原田知世らと共演。2010年タップダンサー熊谷和徳と東京フィルハーモニー交響楽団が共演する「REVOLUCION」に参加(音楽監修/作曲、オーケストレーション)。映画『人間失格』(荒戸源次郎 監督作品)、アニメーション「たまゆら」(佐藤順一 監督作品)の音楽を担当。ソロアルバムとして『エテパルマ』(06)『パッサカイユ』(07)『メランコリア』(10)を発表。2009年より月例ピアノ演奏会 “pianona” をフクモリにて開催中。2011年6月発表のコラボレーションアルバム『pianona』をプロデュース(持田香織、森俊二、武田カオリ、高田漣、北村聡らが参加)。2011年4月に行われた震災復興支援コンサート Together for Japan では急遽来日したジェーン・バーキンの伴奏を務めた。その縁で2011年10月からのジェーン・バーキン ワールドツアー Jane Birkin sings Serge Gainsbourg “VIA JAPAN” に音楽監督、編曲家、ピアニストとして参加。

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いままでのアルバム

【Live Information】
中島ノブユキ「カンチェラーレ」リリースツアー

6/3[日] 名古屋 藤が丘 JAZZ茶房靑猫
開場18:00/開演18:30 前売り¥2,500/当日¥3,000 (共にD別)
ご予約・お問合せ:
・靑猫 052-776-5624
・パピータ ムシカ 090-3727-7876/メール予約 papitamusica@gmail.com

6/4[月] 神戸 Live Hall クラブ月世界
ライブペインティングゲスト: 寺門孝之
開場19:00/開演19:30 前売り¥4,000/当日¥4,500(共に1D別¥500)
チケット販売: Live Hall クラブ月世界/イープラス(e+)/メールご予約 info@descarga.nu
お問合せ: 078-331-6540 (Live Hall クラブ月世界)

6/5 [火] 京都 きんせ旅館 
開場19:00/開演20:30 前売り¥3,000/当日¥3,500 (共にD別)
ご予約・お問合せ: 075-351-4781

6/7[木] 岡山 ルネスホール 
開場18:30/開演19:30 前売り¥4,000/当日¥4,500 (共に1D別¥500)
チケット取扱店: 城下公会堂
・TELご予約・お問合せ: 086-234-5260
・メールご予約 info@saudade-ent.com

6/8[金] 姫路 HUMMOCK Café 
開場19:00 BGM吉本宏(bar buenos aires)/開演19:45 PIANO 中島ノブユキ
上映 21:15 FILM 『みじかい夜』 甲斐田祐輔 監督作品(52分)
前売り¥3,000/当日¥3,500 (全席指定/共に1D込)
ご予約・お問合せ:079-254-1400/メールご予約 hummockcafe0525@yahoo.co.jp

6/10[日] 東京 SARAVAH東京
開場18:00/開演 19:00 前売り¥3,500/当日¥4,000 (共に1D込)
ご予約・お問合せ: 03-6427-8886/メール contact@saravah.jp

Special Thanks

青野賢一さん(BEAMS)、中村信彦さん(ハンモックカフェ)、吉澤藤佳さん(フクモリ)/50音順