Guillermo Rizzotto Sólo Guitarra ll Japan tour 2013.05.31-06.16新譜『ソロ・ギターラⅡ』とともに
ギジェルモ・リソット、6月来日。

(2013.04.17)

Guillermo Rizzotto Sólo Guitarra ll Japan tour 2013.05.31-06.16

フォルクローレとクラシックギターの可能性

彼の音楽に出合ってからというもの心が穏やかになっている自分に気付いた。昨年、ギジェルモ・リソット『ソロ・ギターラ』(2006年)が日本盤として発売された。アルゼンチンの伝統音楽をクラシカルにアウトプットする彼の幅広い音楽性は、自然と耳にフィットし、“音の印象派”として紡がれる弦の美しい響きに魅了されたリスナーが連鎖的に推薦コメントを口にした。その波紋は徐々に全国へと広がり、アルゼンチン音楽に新たなファンを産み出した。

待望の新作『情景の記憶〜ソロ・ギターラⅡ(原題:”El sentido del paisaje”)』(2013年)は、もちろん続編でもあるが、前作は自分の育った故郷アルゼンチン・ロサリオの環境からの影響に対し、現在スペイン・バルセロナを拠点にしている彼の、約6年間におよぶヨーロッパ中の演奏旅行の情景から吸収した心象風景が重なっている。

大きな変化は二つある。2010年から参加しているというリュート/バロックギター奏者エドゥアルド・エグエス率いる古楽器アンサンブルでの活動を経由していること。スペイン古典音楽に触れ、16~18世紀頃に作られた様々な弦楽器と共演することで新たな作曲の可能性を見いだし、ギター1本で創造力の幅がさらに広がっている。もう一つは、母国を離れ活動している彼にとって、フォルクローレという音楽がドビュッシーやラヴェルの創り出す音楽のように普遍的に愛される音楽へと将来なることを願い、先人たちへ敬意を表し演奏していることである。このように、ギターソロにしては映画音楽的に1曲が長く心地よい余韻が続き、前作からの流れを汲む彼にしか成し得ない甘美な音色はそのままに、故郷への愛と時空が交錯する。


2012.5.16release 『ソロ・ギターラ/ ギジェルモ・リソット』2,300円(税込み)
かくも愛される理由

昨年、アルゼンチン旅行を計画していた僕は、ギジェルモ・リソットがGuitarras del Mundoという大規模なギター・フェスティバルに出演するため故郷へ一時帰国するという情報を耳にした。かねてより彼の演奏が観たかったのでアルゼンチンへと赴き運良く会う機会を得た。食と音楽の旅で転々としていた僕は、アンデス山脈付近の街ラ・リオハから夜行バスで約11時間かけロサリオへと向かった。早朝バスターミナルに着くと彼と彼の父親が迎えに来てくれていた。初対面なはずなのに何か親しみを感じ「疲れてない?」と鼻歌や口笛を吹きながら颯爽と荷物を運んでくれ、友人に連絡し宿まで用意してくれていた。ロサリオは雄大なパラナ河に面し水運で栄えたアルゼンチン第三の都市。バロック建築の大聖堂や国旗モニュメントを中心に街は碁盤目に整備され、首都ブエノスアイレスとは少し異なる水辺の潤いと落ち着きがある。彼はパラナ河岸に建つ煉瓦造りの美しいアートセンター“CCPE”へ案内してくれた。そこは2006年に『ソロ・ギターラ』のリリース記念コンサートをした特別な場所だと話し、ロサリオにはそのCDのジャケット撮影をした女性フォトグラファー、ガブリエラ・ムッシオとその写真を美しいフォーマットに仕上げた女性デザイナー、ロクサナ・ライノルディも住んでいることを教えてくれた。

彼女たちは彼と旧知の仲であり、ロクサナはこれまで音楽家の世界観を投影した多くの素晴らしい作品を生み出している。その翌日、築80年の映画館を改装した会場で行われた彼の独奏会は満席。僕が日本で聴いていたロサリオ出身の音楽家も多く駆けつけていた。

ピアニストのパブロ・フアレス、ギタリストのマリオ・ヤニキニ、そしてパーカッショニストの巨匠フアンチョ・ペロネ、シンガーのミリアム・クベロス…。いかに注目されている存在かを伺え、演奏が始まるとそれまでの彼とは違う凛とした表情の変化にはっとした。

彼の親しい友人に聞くと「ギジェルモはステージ上でいつも別人になる」と。響きを大切に澄んだ美しさをたたえ、即興演奏を混ぜながら進行してゆく彼の指先からは様々な情景が観えてくるようで、あのジャケット写真そのままの端正な所作で演奏される姿に思わず涙した。


ギジェルモの故郷ロサリオ

映画館を改装した会場にてコンサート(ロサリオ)

左:家族を迎えるように僕たちを迎えてくれたギジェルモ
右:ロサリオのメインストリート

左:国旗モニュメントの上から眺めるパラナ河
右:聖母マリアのお祭りに湧く国旗モニュメント前
待望の日本公演

ロサリオを離れる最後の日、ギジェルモが生家に招待してくれた。彼の部屋からはパラナ河が一望でき、開け放たれた窓からは瑞々しい風が吹き抜け、壁には過去に参加したフェスティバルのポスターがアーティスティックに所狭しと貼られてあった。ダイニングにはキース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』の大きなモノクローム・パネルが飾られており、リビングには天井までびっしり積まれたレコードとCDの数々。この日は祖母までのビッグファミリーが集まり、母親が愛情あふれる手料理をごちそうしてくれた。僭越にも僕は『ソロ・ギターラ』日本盤のライナーノーツを書かせていただいたが、その時は想像でしかなかった彼の周りの環境や家族への愛が、実際その通りだったことに嬉しくなった。彼と別れの抱擁をした数カ月後、待望の初来日決定のニュースが飛び込んできた。

“あなたの傍でそっと弾いているような”をコンセプトに作曲している彼の生演奏がいよいよ日本で聴ける。

***

そこで彼に『ソロ・ギターラ』の反響と来日に関し想いを聞いてみた。

「僕は自身を純粋に音楽で表現してきたことが、いつ、どこでこのような大きく、まるで化学反応を起こしたかのようになったのか、それに対して全く予期せぬ神秘的な想いもしていますが、こう信じています― 僕が内在する力を高めようとして渾身の力を注いで何かを行うとき、それを受けとめる人の何人かはきっと少なからず何か魅力を感じ、そこから周囲に広がり物事が創造され、世の中に関心を持ってもらえるようになる― と。でも、本当にそれは繊細な運命の糸のようにいつ起こるか誰にも分からないし、ただ僕は常に渾身の力を注ぎ自然な自分をこれまでどおり表現し続けたいと思っています。そうしたい理由はほかにもあります。現在、僕たちは不自然で不調和な世界に生きており、人々の癒しとなる純然たる自然の空間を創造することが求められています。つまりまるで見たこともない美しい情景や別の安らぐ居場所を創造するかのように、音楽という名の(狂気ではなく健全な道での)創造を生きている証しとしたいからです。あとは日本の人たちへの感謝と尊敬の気持ちに尽きます。だから日本の各会場では、すでに僕の音楽を聴いてくれている人にも、初めてという人にも、心の底から愛をこめて演奏することを約束します。そして、音楽から広がる目の前の情景に、どうかピュアで素直な心でいつまでもいてください」。

現在彼は、ノルウェーで古楽器を使った自身主導の新たなプロジェクトにも取り組んでいて、そのツアーを終えてから日本にやってくる。音楽への探求心を忘れない彼は、広い視野を持ち、創造力と静かな情熱に溢れ、これからも多くの人々と人生を分かち合うのだろう。新緑と穏やかな風がギターの響きと調和する初夏に、彼の演奏が日本で聴ける日が待ち遠しい。

スペシャル・インタビュー記事はこちら


nisicaのシャツが似合うギジェルモ。見せてくれたのは、友人に作ってもらったというアルメンドラのバッチ

2012年秋、チャコ州レシステンシアGuitarras del Mundoでのライヴ

【ギジェルモ・リソット ジャパン・ツアー 2013「ソロ・ギターラ」5/31~6/16】

5月31日(金) 東京・下北沢 富士見丘教会
開場18:30 / 開演19:30 料金:予約3,200円 / 当日3,700円(予約番号順のご入場となります)
問:インパートメントTel.03-5467-7277 メール予約:ticket@inpartmaint.com

6月1日(土) 福岡 papparayray(パッパライライ)
開場18:30 / 開演19:30 料金:予約3,000円 / 当日3,500円(全席自由 / 1ドリンク別途)
オンライン予約:RePublik: メール予約:reservation@republik.jp

6月2日(日) 熊本 TSUTAYA MUSIC CAFE MORRICONE
開場18:00 / 開演19:00 料金:予約3,000円 / 当日3,500円(全席自由 / 1ドリンク別途)
オンライン予約:LONGSIXBRIDGE

6月6日(木) 名古屋 カフェ・ドゥフィ
開場18:30 / 開演20:00 料金:予約3,000円 / 当日3,500円(全席自由 / 1ドリンク別途)
電話予約&問:Cafe Dufi Tel.052-263-6511

6月7日(金) 倉吉 夜長茶廊
~ 夜長茶廊 はじめてのライブ ~
開場18:00 / 開演19:30 料金:予約2,500円 / 当日3,00円(1ドリンク別途 / 30席限定)
予約&問:夜長茶廊 Tel. 0858-22-2083

6月8日(土) 姫路 ハンモック・カフェ
~ HUMMOCK Cafe 11th Anniversary Concert ~
開場18:00 / 開演19:00 料金:前売3,500円 / 当日4,000円(全席指定 / 1Drink+1Food付)
BGM選曲:吉本宏(bar buenos aires)
■スペシャル・ワークショップ「Paisaje:Landscape ~ アルゼンチン・フォルクローレの風景」 (Sold)
開催16:30 ~ 17:30(同会場にて)
料金:ワークショップ+ライヴ通し料金 前売4,500円 当日5,000円(1Drink+1Food付)
予約&問:HUMMOCK Cafe Tel.079-254-1400 メール予約 : hummockcafe0525@yahoo.co.jp

6月9日(日) 岡山 日本福音ルーテル岡山教会
開場17:30 / 開演18:00 料金:予約3,000円 / 当日3,500円(全席自由)
■スペシャル・ワークショップ「Paisaje:Landscape ~ アルゼンチン・フォルクローレの風景」
開催16:00 ~ 17:00(同会場にて)
料金:ワークショップ+ライヴ通し料金 前売4,000円 当日4,500円
メール予約:moderado music moderadomusic@gmail.com

6月14日(金)東京・渋谷 サラヴァ東京
~ Guillermo Rizzotto Concert in bar buenos aires ~
開場19:00 / 開演20:00 料金:前売3,500円 / 当日4,000円(全席自由 / 1Drink付)
音楽選曲:bar buenos aires(吉本宏・山本勇樹・河野洋志)
予約:サラヴァ東京のHP内の予約フォームよりお願いいたします。

6月16日(日)北海道 びほろエコハウス
開場14:00 / 開演15:00 料金:前売3,000円 / 当日3,500円(全席自由)
予約&問:CAFE + ZAKKA 森音 Tel.0152-72-2177

Guillermo Rizzotto(ギジェルモ・リソット)

アルゼンチンの伝統音楽を心に宿し、新たな解釈で継承する若き「印象主義」ギタリスト。1980年生まれ、アルゼンチン・ サンタフェ州ロサリオ出身、ギタリスト、作曲家、編曲家、プロデューサー。19歳で地元のロサリオ音楽学校を卒業し、プロとして活動を始める。06年、初のオリジナル・ソロ・アルバム『Solo guitarra』を発表。その後スペイン、バルセロナへ移住し、自身のレーベル「Olga Records」を主宰。歌手デビッド・デ・グレゴリオとの共作『Brillo』(08年)、フルート奏者パブロ・ヒメネスとの共作『El paso del tiempo』(09年)、『La otra orilla』(12年)を発表。 日本では12年春に長らく入手困難だった『ソロ・ギターラ』が国内盤としてリリース。南米音楽~フォルクローレのリスナーはもとより、クラシックギターのファンにまで幅広く支持され、異例のロングセラーを記録し一躍注目の存在となった。13年春、待望の新作『情景の記憶~ソロ・ギターラ II』のリリースに併せ、待望の初来日ツアーが決定した。