底知れぬブラジルの音楽シーンを象徴する、若き才能の驚くべきCD。 アントニオ・ロウレイロ
1枚目を凌ぐ『ソー』誕生。

(2012.11.28)

SNSでの爆発的浸透を経て、キーマンへ

2010年の年末、私が勤務している音楽ソフト店で地道にロングセラーを続けていたブラジルのインディー制作のCDに、突如注文が殺到し始めました。

それはアントニオ・ロウレイロの1stアルバム『ANTONIO LOUREIRO』。音楽評論家=高橋健太郎氏が、当時ほとんど知られていなかったこのアルバムをミュージックマガジン誌の年間ベスト・アルバムに選出したことで、好奇心旺盛なリスナーがこぞって買い求めたのです。

先の読めない展開、高度な技術によるスリリングな演奏、繊細なアレンジとブラジル人らしい湧き出るような歌心の共存。

同種の音楽としては、サンパウロの気鋭作曲家/ピアニスト=アンドレ・メマーリや、同郷ミナス・ジェライス州の創作打楽器集団=ウアクチ、そしてミルトン・ナシメントを筆頭としたミナスの音楽仲間たち「クルビ・ダ・エスキーナ(街角クラブ)」の面々が作り上げた傑作群を想い起こさせる部分もありますが、一方でそれらと同質とは言いがたいアントニオ・ロウレイロならではの圧倒的なオリジナリティは、世界中のありとあらゆる音楽を聴きこんでいるような人たちにも驚きを与えました。

その若き才能が1枚目を凌ぐ2nd『ソー』を発売しました。

優れた音楽家達と作り上げた新作『ソー』

現在26歳という若さで熟達した音楽的能力を発揮するアントニオの周りには、同年代からベテランまで、オリジナリティと高い技術を兼ね備えたミュージシャンが多数存在します。充実極まるミナスの音楽シーンがひとつの磁場となり、アントニオ・ロウレイロのような才能を誕生させたとも言えるでしょう。

新作『ソー』も1stに続き、ドラムス、ピアノ、ベース、アタバキ(パーカッションの一種)、エフェクターやサンプラーといったアコースティック/エレクトリック楽器を自ら演奏、多重録音しつつ、ハファエル・マルチニ(ピアノ)、アレシャンドリ・アンドレス(フルート)、タチアナ・パーハ(ヴォーカル)、アンドレス・ベエウサエルト(ピアノ/コーラス)といったミナスやサンパウロ、隣国アルゼンチンのブエノス・アイレスなどから集結した才人が配されています。

一方で1stに比べると内容的な変化も見られます。「< ソング>と< インストゥルメンタル>のあいだに壁はない」と彼が語るとおり、歌モノが減り、インストゥルメンタルの比率が増しているのが何よりも大きな特徴です。言葉の持つ強いメッセージ性を剥ぎ取られた楽曲は、各楽器が生演奏ならではのフィジカリティを主張しながらも有機的に絡み合い混沌としていくようなイメージで、その卓越した演奏技術や構築能力とは裏腹のどこか青年らしい無骨さや、近代都市を生きる若者らしいメンタリティが反映されているように思えます。

優れたポエタ=詩人として

シバ、マケリ・カー、チアゴ・アムヂといったシンガーソングライターたちとの共作も含む歌詞においても、アントニオ・ロウレイロは独自の世界を描きます。

コウモリ、ジャガイモ、イモ虫に始まり、オショシ、オグン、イエマンジャーといったブラジルの多様な神様達、最後にはファイバー、鋼鉄、チップ、ロボットなどへ言及、“科学が進化する限り 知能が広がる限り 脳が混ぜ合わせるものは全てが 私のシランダにふさわしい”で幕を閉じる「CABE NA MINHA CIRANDA」。“牛はもはやいない 牛追い歌も不要だ 立ち去った者 決して戻ることのない者”で始まり“生まれ変わる私の牛を 見に来るがいい”と言い放つ「BOI」。時代を導く預言者のようでもありますが、決して扇動的ではなく、あくまで淡々と多様な文化や形而上学的な分野にまで深い洞察力を覗かせた世界観は、紛れもなく優れたポエタ=詩人であるといえるでしょう。

その象徴ともいえるのがラスト・トラックの「LUZ DA TERRA=地上の光」です。現在のブラジルから大航海時代へと遡るような長大なフィクションでもあるこの曲は、過去への贖罪でありながらも、光の射す未来へと目を向けた大いなる人類愛を啓示しているように思えてなりません。

底知れぬポテンシャルを持つブラジルの音楽シーンを象徴するような才能、アントニオ・ロウレイロ。解説・歌詞・対訳つきで国内盤としてリリースされる2ndアルバム『ソー』は、彼の世界をじっくりと楽しみたい方には最高の一枚と言えるでしょう。

Só(ソー)
Antonio Loureiro(アントニオ・ロウレイロ)
2012年11月28日発売 2,300円 (税抜) NKCD-1005 (qb002)
レーベル: NRT / quiet border 販売元: BounDEE by SSNW

【TRACK LIST】

01. PELAS ÁGUAS (Antonio Loureiro) 水を想う
02. REZA (Antonio Loureiro)  祈り
03. CABE NA MINHA CIRANDA (Antonio Loureiro/Siba)  私のシランダ
04. LINDEZA (Antonio Loureiro)  美しさ
05. SÓ (Antonio Loureiro)  ソー
06. PARTO (Antonio Loureiro/Thiago Amud)  出産
07. PASSAGEM (Antonio Loureiro)  通路
08. ANTIDOTODESEJO (Antonio Loureiro)  欲望解毒剤
09. BOI (Antonio Loureiro/Makely Ka)  ボイ
10. LUZ DA TERRA (Antonio Loureiro)  地上の光

【RECORDING DATA】
Antonio Loureiro: piano, vocal, vibrafon, rhodes, keyboards, drums, atabaques, electric bass, viola brasileira, efectors and samplers
Tatiana Parra: vocals (M10)
Andrés Beeuwsaert: piano, chorus (M10)
Alexandre Andrés: flutes (M2)
Rafael Martini: vocals (M2), accordion (M5), chorus (M10)
Daniel Santiago: acoustic guitar (M2)
Sérgio Krakowski: pandeiro (M2)
Siba: vocal (M3)
Thiago França: saxofones (M3)
Federico Heliodoro: electric bass (M4)
Santiago Segret: bandoneon (M4)
Trigo Santana: contrabass (M5)
Pedro Durães: programming (M7)
etc.