会場に雪を降らせます――
ヘニング・シュミート来日。

(2014.01.09)

雪の降る町で生まれ育ったピアニスト
東ドイツのエルツ山脈を故郷とするピアニスト、ヘニング・シュミートが2年ぶりに日本へと帰ってきます。ここ2年ほどワールドミュージックのシーンで様々なプロデュースワークをこなしていたというヘニング。トルコの音楽家ズルフ・リバネリとの長年に渡る共同作業は現在も継続中で、『グッバイ・レーニン』などで知られるドイツの国民的女優の一人カトリン・ザースやギリシャのマリア・ファランドゥーリとのツアーなど多忙な日々を送る中、4枚目となるソロアルバム『Schnee(=雪)』を昨年初頭にリリース。前作『Spazieren(=散歩)』での軽やかにステップを踏むようなピアノから、雪の降る日の高揚感や光のきらめきを多彩なエレクトロニクスと繊細なピアノのタッチで表現した情景的な作品となりました。
 
京都公演を皮切りに1月10日から始まる3回目の来日ツアー。名古屋、神戸、金沢と初開催となる3都市を含めた全13公演、1カ月に渡るツアーを直前に控えたヘニングに、前回ツアーでの思い出や日本の印象などインタビューできました。
Q.本格的なツアーは前回が初めてだと思いますが日本の印象はどうでしたか?
日本でのツアーは本当に素晴らしい経験だったよ! 多くの演奏家がもう話しているとは思うけれど、聴衆の音楽への集中力と関心の強さ、様々な知識にも溢れ、どの国とも違う、素晴らしいオーディエンスだと思う。そしてオーディエンスはもとより各地のオーガナイザーの心配り、暖かい気持ちにとても感激したんだ。

京都は自分にとっても特別な場所で、会場のコンサートホールはとても素晴らしいものだった。ピアノの位置を通常とは反対側に持って来て、それがうまくいったんだと思う。1回目のコンサートを京都でできたのは自分にとって光栄なことだよ。night cruisingとart rock no.1にはすごく感謝している。

奈良は僕も家族も大好きな町、以前から僕のCDを応援してくれているPastel Recordsがオーガナイズ、カフェでのディスカッションは面白い体験だった。
岡山ではフライングCDマン、オカモトさんの音楽の知識の豊かさに驚かされながら、オーガナイズも素晴らしく、会場の椅子がすごく素敵だったことを覚えている。そして後楽園! 美しかった。

姫路のハンモック・カフェではCD『Spazieren』のカバーからインスパイアされたお散歩メニューにびっくりしたんだ。カバーの写真と同じ料理…! あのパスタは本当に自分が作った料理なんだよ。全然料理ができない自分がふと作ったパスタで、あまりの珍しさと驚きと嬉しさとで奥さんが撮った写真なんだ。本当の日常だね。

ナカムラさんはそれを元にテーブルクロスまで同じように作ってくれて感激したよ。そして美しい花束があったのも覚えてる。おいしい料理のある暖かいカフェ。楽屋が船の中だったのも素敵だった。

福岡では若くてスタイリッシュなwood water recordsの石井さんがオーガナイズしてくれて嬉しかった。彼らが作ったジャーナルもセンスに溢れていたから今回も楽しみにしているんです。九州もまたおいしかった。

鎌倉でももっとゆっくりしたかった…。歴史を感じる町。ディモンシュのホリウチさんはコーヒー、音楽だけでなく、すべての素晴らしいエッセンスを一緒にアレンジできるマイスター。このサロンを会場として選んだのもまた彼の素晴らしいセンスの賜物。この日の為にブレンドして下さったお散歩コーヒーは本当においしかった。ちなみにここのピアノはおじいさんピアノ。とても古いピアノなので、どういう風に演奏しようかと語りかけながら弾いたのを覚えているよ。難しいピアノだったけど、ほかには出せない味のあるピアノで楽しかった。
 
東京はフランク・ロイド・ライトの建築で知られる会場。フラウのホームベース。改めて建物と都市、聴衆に自分の音楽、演奏が変化しているのをすごく感じた。そして自分が大好きなラジオゾンデとの共演。彼らもとても素晴らしかった。開演前から並んで下さった方々、そして当日券がなくって入れなかった方々がいらっしゃったこと。そしてコンサートの後長い時間ずっとサインの列に並んで下さって、色んな方々と少しずつでもお話が出来てとても嬉しかった。
 
富山では初めて日本でコンサートをした時から大切な友達のエイイチさんご夫妻と彼の友人たちと再会できた。nowhereはコンサートホールにはないアットホームな暖かい雰囲気で、いつも楽しくコンサートができるんだ。ここで出される食事はいつも本当においしくて困ってしまうぐらい。
 
初めての東北。仙台ではとても知性に溢れるオノさんがオーガナイズをしてくれた。モーツァルトのピアノはすごくよかった。友人が震災の時に仙台にいて、大変な思いをした話を聞いていたので、実際に仙台に着いた時は胸を傷めた。ここで初めて自分が東北を想って書いた曲を演奏して…色々な、たくさんの祈る気持ちがこの日の演奏につながった。
 
盛岡ではcartaのかわいらしい二人、カガヤさん夫妻が迎えてくれた。明治時代の心に残る会場。壁紙が特別で不思議な雰囲気を持っている。ここもほかの会場と同じ様に素晴らしい聴衆がたくさんだった。
 
ツアーの最後の弘前。THE STABLESと素敵なオダワラさんご夫妻。弘前では9歳から育った北ドイツのメクレンブルグ州を思い出したよ。良い意味で僕の好きな田舎で、その雰囲気が良く似ていたんだ。そして小さいけれどそれはそれは素晴らしいお城があった。そして、帰りにここでもらった卵がおいしすぎて今でも忘れられないよ。
Q.アルバム『Schnee』は前回のツアーから1年後にリリースされました。前回のツアー、特に東北ではどのようなインスピレーションを受けましたか?
僕はエルツ山脈の地方で9歳まで過ごしたんだ。そこは12月に雪が降り始めて3月の中頃まで雪に覆われている。東北の光景はその雪の記憶と重なって、自分の子供時代を思い出し,とにかく懐かしかったんだよ。
 
雪が降るとすべての音が遮断されて 視界が明るくなり、自分自身の動きがゆっくりになって、非日常の感覚、別世界に陥る。高揚感、その忘れていた感覚がとても懐かしく思い起こされたんだ。
 
ここでの印象からいろいろな事が断片的に思い起こされ、それがアルバム『Schnee』に繋がったんだ。
Q.冬に来日し、翌冬に日本を思うアルバムをリリース、その翌冬に日本に来るということで、「日本の冬」への思いが何かあれば教えて下さい。
日本の冬は色んな違った面があって面白いんだ。京都の辺りから南へ行くと真冬でも時々ドイツでは考えられない程の春らしい日があったりするし,そもそも真冬に新鮮な、そして何よりおいしい野菜が収穫出来るというのはすごいと思う。ドイツでは考えられないよ。

でも北へ行けば行く程強い雪と厳しい冬。海の方から吹いて来る湿った空気のせいか、日本の雪の方が大きくて、結晶も大きい気がする。日本は色んな意味でコントラストの大きい国。多面性、多様性があって、そこが好きなんだ。いつか桜の咲く季節にも来てみたいよ。

Q.今回『Klavierraum』以来となるエレクトロニクスが楽曲によって使われたり、ピアノのみだった『Spazieren』から雰囲気も異なりますが、どのような音楽的/心境の変化があったのでしょうか?
そのことについては自分でも説明が出来ないんだ。ただそうなってしまったんだ。
 
その時に自分が感じた様に弾いているだけだから…。考えて弾いていないんだと思う。でもエレクトロニクスの音響は自分の中の雪の世界に繋がるものがあった。自分の使うエレクトロニクスの音源はほとんどが自分のピアノの音で、それに電子的なエフェクトをかけて使っている。ナチュラルなピアノの音を電子で見知らぬものにして、それを自然なピアノの音とまた合わせると、不思議と自然な音、ピアノの音の方が引き立って来るんだ。その感覚が好きなんだよ。
 
そんなサプライズな瞬間が好きだから、そうやって音楽を作ったりアルバムができたりする。自分のコンサートもそう。自分のピアノは楽譜に沿ってどれも同じ様に弾いている訳ではないから会場ごとに少しずつ演奏が変わってくるんだ。
 
その場所、その時のインスピレーションで演奏したり音楽を作ったりする。自分のインスピレーションがなくなったら聴衆のみなさんにもそれを伝える事ができなくなると思う。
日本でツアーが終わると、その足でオーストラリアに向かい、ドイツに戻ってもコンサートやプロデュースとスケジュールがびっしりと言うヘニング。春からは前述したカトリン・ザースやマリア・ファランドゥーリとのヨーロッパツアーも控えているそうです(ちなみに前回の日本ツアーではアメリカ、カナダとツアーを回ってドイツに半日帰国してから日本に来るというハードスケジュール!)。そんな中でも日本、そして日本でのツアーには特別な思いがあるヘニングに、今回のツアーへの意気込みを最後に伺いました。
 
僕をまた日本に呼んでくれて、とてもうれしく思います。オーディエンスの皆さんをはじめ、各地のそれぞれに個性溢れるオーガナイザーの皆さん 僕の作品を取り扱ってくれている方々、そしてflauに大変感謝しています。そしてまた素晴らしいオーディエンスの皆さんに会えるのをとてもとても楽しみにしています!
 
2つとして同じコンサートはないと思うので、いろんな会場で聞き比べるのも面白いと思います。僕の楽曲にとって、全てのコンサートで一つの曲を、CDと全く同じ構成や、決められたテンポ、テクニックで弾くことはあまり重要ではないのです。他にもっと大事なことがあるように思うのです。そして、それはぼくの演奏がどうというだけではなく、聴かれる皆さんの心の情景も一緒に変わっているはずだから。
 
全てのコンサート会場に雪を降らせます。そして僕が思い出した様に自分の子ども時代や懐かしい雪の景色を一緒に散歩して、難しいことは言わずにピアノの音でゆっくりしましょう。
 
インタビューの中で日本のオーディエンスの素晴らしさを何度も話してくれたヘニング。そしてこのツアーではヘニングが話してくれた通り、日本各地で尽力してくれる人々が公演をたくさんの魅力溢れるものにしてくれています。ぜひそれぞれの町で、その町でしか奏でられないピアノの音色に足を運んでみて下さい

【Henning Schmiedt Japan Tour 2014】

1/10 (金) 京都 京都文化博物館 別館ホール
open/start 18:30/ 19:00 adv./door 3,000 / 3,500yen
メール予約・お問い合わせ:event@flau.jp

1/11 (土) 福岡 日本福音ルーテル博多教会
open 18:00 / start 19:00 adv. 3,000 / door 3,500yen
お問い合わせ:Republik / info@republik.jp
メール予約 : woodwaterrecords@hotmail.co.jp

1/13 (月・祝) 岡山 日本福音ルーテル岡山教会
open/start 17:00 / 18:00 前売/当日: 3,500yen / 4,000yen
ご予約・お問い合わせ: moderado music moderadomusic@gmail.com

1/15 (水) 姫路 HUMMOCK Cafe
open/start 19:00/20:00 adv./door 3,500 / 4,000yen (1drink付き)
ご予約・お問合せ:HUMMOCK Cafe hummockcafe0525@yahoo.co.jp

1/17(金)盛岡 岩手県公会堂21号室
open/start 19:00 /19:30
adv./door 3,000 / 3,500yen
ご予約:お問い合わせ: 喫茶carta kissa-carta@cpost.plala.or.jp

1/18(土)弘前 space DENEGA Gallery
open/start 19:00 / 19:30 adv./door 3,000 / 3,500yen
ご予約・お問い合わせ: THE STABLES info@thestables.jp

1/19 (日) 東京 自由学園明日館 講堂
open: 18:30 / start 19:15 adv.3,500yen / door.4,000yen
メール予約・お問い合わせ:event@flau.jp

《Sold Out》1/23 (木) 鎌倉 西御門サローネ
open/start 13:00/ 13:30

1/26 (日) 東京 世田谷美術館 講堂
open/start 14:00/ 15:00 adv.3,500yen / door.4,000yen
メール予約・お問い合わせ:event@flau.jp

2/1 (土) 名古屋 5/R HALL
open 18:30 / start 19:00 adv.: 3,000 / door: 3,500yen
メール予約・お問い合わせ:event@flau.jp

2/2 (日) 神戸 旧グッゲンハイム邸
open 18:30 / start 19:00 adv.: 3,000 / door: 3,500yen
ご予約・お問い合わせ:旧グッゲンハイム邸事務局 guggenheim2007@gmail.com

2/3(月)富山 nowhere
open/start 19:00/20:00 adv./door 3,000 / 3,500yen (1drink付き)
ご予約・お問い合わせ: nowhere mail@nowhere-else.info

2/4 (火) 金沢 金沢21世紀美術館 シアター21
open 19:00 / start 19:30 adv.: 3,000 / door: 3,500yen
メール予約・お問い合わせ:event@flau.jp

企画・制作:flau

『Schnee』
Henning Schmiedt
2013年2月6日発売

【Tracklist】
01 kalte hände und die stille
02 ich höre
03 vom himmel weit
04 erinnerung
05 etwas später
06 schneewolke
07 der weg den ich gekommen bin
08 es schneit
09 ganz weiß
10 wenn der wind weht
11 ein erster stern
12 frierfrost
13 nach und nach
14 mein herz friert nicht
15 weißer tanz
16 ich bin hier
17 meine Hand und deine Hand