ラジオの持つトキメキ感を宿した、

輝く季節を彩る『Seaside FM 80.4』

(2012.08.06)

ラジオ・ミュージックの持つ魔法を信じて。

朝、アラームとともに目覚め、ベッドから出る瞬間にFMのスウィッチを入れる──そんなときに、橋本徹さんによる最新コンピレイション『Seaside FM 80.4』に収められている曲が流れてきたら、今日の一日がとても素敵なものになる……そんな予感。このCDを聴かれた方なら、そのフィーリングをわかってもらえるのではないでしょうか。

ラジオということで思い浮かぶのは、今年奇跡の再結成+ニュー・アルバム発表、おまけに来日まで果たすビーチ・ボーイズとブライアン・ウィルソンのこと。最新作のタイトルは『That’s Why God Made The Radio』。サーフィン、海、太陽、そして恋……60年代、ラジオから流れる彼らのヒット曲を聴いて、当時のティーンエイジャーたちは胸を揺さぶられました。そんなラジオの持つトキメキ感が、この『Seaside FM 80.4』には溢れています。

さらに“FM感”ということで言えば、やはりスティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンのソロ作『The Nightfly』。AOR~ジャズ~R&Bがハイブリッドに融合したそのサウンドもさることながら、フェイゲン自身が深夜ラジオのディスク・ジョッキーに扮したこの1982年リリースのアルバムのジャケットは、リアルタイム世代を超えてもはや一種の“FM感”のアイコンとなっている気がします。DJが曲を通してメッセージをリスナーに直接的に伝えるというイメージ。それは小沢健二の名曲「天使たちのシーン」の一節、「真夜中に流れるラジオからのスティーリー・ダン 遠い町の物語話してる」と僕の中ではピッタリと重なります(スティーリー・ダンではなくソロなのはご愛嬌、ということで)。

『Seaside FM 80.4』の中で、そんなラジオ・ミュージックが持つパーソナルな雰囲気を感じられるのは、なんと言ってもギャビー・ヘルナンデスの②と、グレッチェン・パーラトの歌う④ではないでしょうか。②は橋本さん曰く「21世紀の『Lovin’ You』(ミニー・リパートン)」という、そのスウィートな魅力に誰しも胸を締めつけられる、「間違いない」一曲。そしてジェイムス・テイラー~キャロル・キングで知られる④もまた、生まれながらにしてニュー・スタンダードの風格をまとった名カヴァーだと思います。


左・The Beach Boys『That’s Why God Made The Radio』 右・Donald Fagen『The Nightfly』

海に向かうときの高まりと、街に戻るときの安らぎと。

『Seaside FM 80.4』の根底に流れる“FM感”の話をもう少しするならば、山下達郎や大滝詠一、サザンやユーミン、そしてボビー・コールドウェルやネッド・ドヒニーなどのアーバン・メロウな洋楽……それらをカセットでかけながら東京、横浜から湘南へのドライヴ、といった70年代後半~80年代の「POPEYE」的なライフスタイルが思い浮かんだりもします。僕はそのような体験を共有していない世代なのですが、この時代の音楽が好きというのもあって、ちょっと憧れたりもします。達郎さんの「Sparkle」や「夏への扉」のような爽やかな高揚感や来たるべき季節への想い──僕が青春時代を過ごした90年代以降であれば、スチャダラパー「サマージャム’95」やリップ・スライムの「楽園ベイベー」のような──ある季節の空気感や匂いを真空パックしたような手触りは、『Seaside FM 80.4』ならデニの③やペドロ・ベルナルドの⑥、バタースコッチの⑨やメイリー・トッドの⑩あたりにとてもよく表れていますよね。

前半が主に海へのドライヴに向かうワクワクした気持ちを感じさせる曲が並んでいるのに対して、後半のセレクションはそこから街へ帰るときの優しい気持ち(と一握りの寂しさ)を感じさせます。いつ聴いても心を落ち着かせてくれる、黄金色の時間に佇む二つのシルエットのようなたおやかなデュエット⑫、潮風の匂いをたっぷり吸い込んだようなハワイアンAOR⑬⑭、そしてビーチ・ボーイズ~ルイ・フィリップを思わせる、シモン・ダルメによる内省感のあるラスト名曲⑱まで。

かつてのAOR~シティ・ポップやフリー・ソウルといったアーバン・ミュージックをサバービア2012的にアップデートさせながら、ラジオ・ミュージックの持つ特別な手触りを宿した『Seaside FM 80.4』。実際にドライヴのお供にするもよし、理想の休日のシーサイド・ドライヴを脳内で思い描きながら聴くもよし。聴き終えたときには、きっとリスナーの方の心の中にいくつかの鮮やかな思い出やイメージが刻まれていると思います。そう、ちょうど小さな旅から帰ってきたあとのように。


左・スチャダラパー『5th wheel 2 the coach』/右・V.A.『Free Soul Flight To Hawaii』

──だから神様はラジオを創った
  チャンネルを合わせれば どこにいたって
  神様は手を振ってロックンロールを与えてくれる
  まるで恋に落ちるときのサウンドトラック
  だから神様はラジオを創ったんだ
  (ビーチ・ボーイズ「That’s Why God Made The Radio」より)

『Seaside FM 80.4』

選曲・監修:橋本徹(SUBURBIA)
2012年7月29日発売 2,400円(税込み) RCIP-0176
レーベル:Après-midi Records  
発売:インパートメント

【Track List】
01. Ventura Highway / Geyster
アメリカのカヴァー
02. Mangoes And Pears / Gaby Hernandez
03. Nada Mais / Deni
04. You’ve Got A Friend / Jesse Fischer & Soul Cycle feat. Gretchen Parlato
キャロル・キング~ジェイムス・テイラーのカヴァー
05. It’s Not Unusual / Clare Teal
トム・ジョーンズのカヴァー
06. Circo Marimbondo / Pedro Bernardo
ミルトン・ナシメントのカヴァー
07. La Vie En Rose / Earl Brooks
エディット・ピアフ~グレイス・ジョーンズのカヴァー
08. Love So Fine / Bobbi Boyle And The Trio
ロジャー・ニコルスのカヴァー
09. Don’t You Know / Butterscotch
10. Hieroglyphics / Maylee Todd
11. Menina das Candeia / Tibless
12. You’re Free / Patricia Marx & Bruno E.
13. Words T o A Song / Billy Kaui
ババドゥによるカヴァーのオリジナル
14. Bish’s Hideaway / Richard Natto
スティーヴン・ビショップのカヴァー
15. Feel Like Making Love / The Dynamics
ロバータ・フラック~マリーナ・ショウのカヴァー
16. Aquelas Coisas Todas / Friends From Rio feat. Celia Vaz, Wanda Sa
トニーニョ・オルタのカヴァー
17. Under African Skies / Paolo Fresu & Omar Sosa feat. Jaques Morelenbaum
ポール・サイモンのカヴァー
18. Moving To Town / Simon Dalmais