花と音楽のある暮らし Music & Flower Vol. 1 – 雪 - 夜空に映えるウメの花。
雪の日の朝の匂いがする音楽。

(2009.02.03)
Musi
雪の日の朝の匂いがする音楽。
ブルース・コバーン/雪の世界
ブルース・コバーン/雪の世界

1945年生まれのカナダのシンガー・ソングライター。60年代のフォーク・リヴァイヴァル・ブームに影響を受け音楽活動を開始。数々のバンドを渡り歩きながら70年にソロ・デビュー。80年代以降は政治や社会問題をテーマにした歌にこだわり、現在も活動中。

カーテン越しの冬の朝の光が、いつもと違ってやけに白く輝いていたりしたら、あ、雪が降ったんだ、って布団越しに感じていたことを思い出します。
今年はまだ東京の街に雪は降っていないけど(あ、降りましたっけ?)、雪が降ってもおかしくないような極寒、と呼べそうな日は、なんにちかあったはず。そんな日には、雪を想うにいちばん素敵なこのアルバムのことが頭に浮かびます。
「幸福な状態にはさらに幸福な状態を掛け合わせてそれを十全なものにしようとする発想」──とは、作家の北村薫が小説の登場人物に語らせる言葉ですが、音楽を聴くという行為も、ある状態に音楽を添え、それを十全なものにしようとすることと一緒ではないでしょうか。そして、その登場人物が本の虫で、「面白そうな本を手にすると必ずいそいそと食べ物を用意」する。素晴らしいレコードを手に入れたとき、例えば美味しいお酒を傾け、音楽にただ身を委ねる瞬間こそが至福の時間と感じる音楽の虫と同じように。
まるで風に揺れる梢のざわめきのようなフィンガー・ピッキング、音のない静かな雪原に独り佇む寂しさにも似た心温まる歌。そして、まるで墨絵を思わせるモノクロームの美しいジャケット・デザイン。カナダのシンガー・ソングライターが71年に残した傑作の誉れ高きセカンド・アルバム。舞い落ちる雪と共に空気中の不純物が地面へと洗い落とされ、とても澄み切った清らかな空気のみが立ちこめるような冬の日。こんな日を特別な日にしたいために、このレコードを掛け合わせてみました。

(文/武田 誠)

 

Flower
夜空に映えるウメの花。

ウメ
種:バラ科サクラ属
原産国:中国原産
開花時期:1月下旬〜4月上旬
花言葉:厳しい美しさ、あでやかさ

夜空に映えるウメの花。先日、仕事の帰り道に見つけたその姿は、まるで夜空に舞い散る雪のようで、とても美しいものでした。そこで、気が付いたことがあります。ウメと雪の共通項目、“白色”は、神秘的な色ってことです。そして、これは、むかしの人にとっても、いまの僕らにとっても変わらないことだと気がついたのです。いま、僕は、日常的な花を通して、東京で暮らしているがゆえに非日常となった雪を、共通項目、“白色”を通して神秘なものと捉えているってことです。

では、むかしの人にとっては、どうなんでしょう? 
ウメは、8世紀ごろ中国よりもたらされたようです。その頃、中国より多くを学んでいたことから、文人としての本質をウメに見ていたようです。そのため、万葉集には、ウメを詠ったものが119首ものせられています。そのなかに、こんな歌がありました。

我が園に 梅の花散る 久方の 天より雪の 流れくるかも

これは、ウメが散り行く様を雪に見立てて詠われています。つまり、この歌は、僕と一緒で、ウメと雪を共通項目“白色”を通して見ているということです。そして、白色を僕と同じように神秘として捉えていたのではないかと思うのです。最近僕が感銘を受けた歌にも、こんな風にありました。「むかしの人が見た星といま僕が見る星とほとんど変わりがない それがうれしい」(北野武さんの「嘲笑」という歌)

いまもウメは、万葉の時代と変わらず、存在しています。

(文/井上揚平)