北原徹のバカ買い! Smells Like Teen Spirit - 43 - 京都 一保堂 煎り番茶。
(2010.02.04)
何かと引き換えに、何かを失う。
たとえば、金と引き換えに愛を失った。安っぽい昼ドラのセリフにも聞こえるが、よく聞く気もする。大好きな彼女ができたのと引き換えに、多くの男友達を失う。これまたよく聞きそうな話だけれど、実際にはそれほどよくある話ではない。
21世紀に入って加速度を増しながら、人類はどんどん“便利”なものを手に入れて行く。
携帯電話ひとつ取っても、公衆電話を探したりしなくてもいいいようになったし、メールのおかげで、手紙を書くために便箋を買いに行ったり、封筒を買いに行ったりする“書く”という行為すらしなくて住むようになってきている。
こんなに便利になったのだから、手間をかけずにいろいろできるようになった。いちいちどこかまで行かずにものごとを調べたりできるようになったのだから、人は時間を手に入れることができたんじゃないか? と思いきや、さにあらず。
便利になればなったで、それを利用する人が現れるのが、世の常。
”何か”を失っている気がしてならないのだ。
ネットにしても、携帯電話やメールにしても、人はなぜかクイックレスポンスを求めようとする。
”あいつは携帯になんででない!”
10分くらいの間に同じ人間からの着信が十数回。そんな声が聴こえてきそうである。
こっちが便所でウンコと奮闘していようが、相手はおかまいなどせず、矢の催促ならぬ矢のリダイヤル。おまけに、着信からレスポンスすれば“何だ、どうしたの?”と。どうしたの、こっちのセリフだろ!? おかげでウンコもキューッと泊まって、こっちは不機嫌。相手は十数回のコールのことなど、リダイヤルだからぼくにかけたマシンガン攻撃、着信の集中砲火など脳みそにはメモリーなし。
とまあ、なんかこう殺気立っているのだ。
便利になっても、時間とか、ゆとりとか、お茶を一服、ホット一息なんてこともなく、むしろ、みんなイライラしているし、焦っているし、まるで刑事に追われている犯人のように、心が追いつめられているのである。
こんな心模様では、当然希望を持ったり幸せなことをイマジンしてみたり、明日の自分を好きになったりすることなどできるはずもなく、日々うつうつとして暮らしてくことしかできなくなるのかもしれない。
そんな毎日を少しでもカエル努力は無論必要なのだけれど、それは日本の政権が変わるより一見簡単そうだけれど、染み付いた生活を根こそぎチェンジするのはもちろん政権交代以上に難しいのである。
で、お茶である。
忙しい朝。権田原は目覚めて、ピーピーケトルに水を入れ、レンジにかけ、大ぶりのティーポットに一保堂の煎り番茶を手掴みで2、3回入れ、沸いた湯を入れる。焦げた香ばしい香がキッチンに広がる。
権田原の朝が始まる。
昨日の会議で役員に責められたこと、その夜、新橋の居酒屋で後輩を連れ、深酒をしたこと、その後、行きたくもないキャバクラに行き、AKB48のメンバーでもおかしくないようなかわいいコにメアドをもらったこと、そしてオゴる必要もないのに、会社でのイライラがパンクスピリットを増殖させ、後輩の誘いにもかかわらずオゴってしまったこと。そして宿酔い。
すべてを朝のお茶が洗い流してくれる。
この煎り番茶。かつては京都の本店でしか売っていなかった。隠れた名品だったのだが、ここ最近、人気も高まり、全国の直営店でも買えるようになった。
赤ちゃん番茶ともいわれるらしく、体に優しいけれど、個性的な味と香りは、人の好みを二分するほどの強烈キャラなのである。
最近気ついたことなのだけれど、この香りは、トイレの芳香、消臭にも効果的。
携帯電話を悪く言うつもりもないけれど、朝、お茶を飲むゆとり。そして焦りのない一日を迎えたいものである。