田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 雨の鎌倉、
長谷寺まで紫陽花を見に。

(2013.06.20)

紫陽花と蝸牛

今年の関東地方は例年になく梅雨入りが早かった。しかし、なかなか雨模様とはならず気象庁の宣言は勇み足かと誰もが疑い始めた頃に、季節外れの台風3号が北上し梅雨前線を押し上げた結果、ようやく期待の雨が関東にも降ることとなった。梅雨といえばカビ、逗子鎌倉の夏は湿気が半端ではなく洗濯がもうたいへん、住んでみないとわからない。いや、生活のことはちょっと置いといて、梅雨といえばやっぱりアジサイでしょう。アジサイといえば鎌倉。この街にアジサイで有名な寺が多いのも湿気が多い土地柄、うなずける。前日からの雨が降り続くある朝、鎌倉までアジサイ見物に出かけることにした。


手前が由比ケ浜、向こうが材木座。命名権でどんな名前に変わるのやら。
紫陽花と潮騒

向かった先は長谷寺だ。長谷の大仏より海岸(由比ケ浜)寄りの斜面にあるこの寺は、広い境内に四季折々いろんな花が咲くことで花好き女性の間では特に有名だ。6月には花菖蒲、夏椿、ホタルブクロ、そしてアジサイ。春、秋に何度か来たことがあるが、アジサイの季節は大混雑しそうなので今まで敬遠していたのだった。大きな赤い提灯がある山門をくぐると、目の前の池には花菖蒲が満開だった。みんなのお目当てはアジサイ、池を横目にちらっと見る程度で石段の参道を山の上へと急ぐ。見物客が多い時はアジサイの散歩道には整理券も出るようだったが、さすがに雨で平日の朝、並ばずにすんだ。それにしても斜面というより崖に近い坂道を歩くのも大変だが、よくこんな場所にアジサイを植えたもんだと感心する。雨に濡れ重くなったアジサイの花が、頭を垂れてのんびり居眠りしているようだ。坂の上から眺めると傘の花も開いて、やっぱりアジサイは雨の花だ。晴れていればきれいに見える由比ケ浜から材木座海岸もきょうは白く霞んで霧の中。傘をさしながら写真を撮るのもたいへん。片手だとうまく構図が決まらない。カメラは雨に濡れるし、レンズは曇るし。


長谷寺のシンボル赤提灯。目指すアジサイは境内左手奥の斜面だ。

池には花菖蒲も満開、もうすぐ蓮の花も咲きそう。
紫陽花と赤絵

由比ケ浜から江ノ電に乗って極楽寺方面まで足を伸ばす予定だったが、雨は止みそうもないし、傘をさしながらの撮影で濡れちまったし、カフェで一休みして由比ケ浜通りを鎌倉駅の方へ戻る。途中、和菓子屋『桃太郎』にふらりと吸い込まれ、ちょっと迷って豆大福を二つ。やっぱりアジサイを見た後はくず桜とか水ようかんとか、冷たいもの系だったかなあ。この通りの街灯にはアジサイの鉢が飾り付けてあり、長谷寺アジサイ参道の趣だ。歩くたびにちょっと覗きたくなる店が増えるようで楽しい。六地蔵を過ぎ、御成通りにある焼き物のギャラリー『NEAR』を覗いたら、赤い花の絵付けの皿が目に入った。これは迷わず衝動買い。お店の人の話では、奈良県にある長谷寺のふもとの陶芸家の作品らしい。奈良と鎌倉の長谷寺がつながった! 青いアジサイを見たあとの赤いチューリップのような花柄は、どんよりした梅雨空に突然晴れ間が現れたようで、気分が変わって楽しい。家に帰り、台湾で買って来たお茶をいれて、豆大福をいただきました。ここのは、こし餡だ。(私は粒餡派だが)餅の柔らかさ、というか弾力感と、豆の固さと塩加減、そして大事な餡の甘さ、大福の三要素のバランスがとても良かった。こし餡でも粒餡でも、大福は美味しい。あとで調べたら、白い餡の苺大福がここの名物らしいから、季節になったらぜひ食べなきゃ。


左:お城のような鎌倉彫の店先は、いつも季節感が楽しめるスポット。
右:いずれアヤメかカキツバタ、ワラビもサクラも魅惑的、あの娘に決めた。

左:六地蔵の角の元銀行、今は『THE BANK』という名のバー。
右:また皿を買ってしまった。
紫陽花と巡礼

ところでアジサイには、普通のアジサイとガクアジサイしかないと思っていたら、長谷寺の境内にはいろんな新種がたくさんあるので驚いた。『ワルツ』『メランコリー』『雨に唄えば』『エーゲ海』そして『長谷の潮騒』などなど覚えきれないくらい。日本には花見(桜)とか、観梅とか、花を楽しむ文化が伝統的にある。あちこちの寺に美しいアジサイが盛んに植えられると、そのうちアジサイを愛でる紫陽花逍遥(いや巡礼かな)なんて習慣が根付くんじゃなかろうか? アジサイを見に行くときの傘やレインコートに気配りを楽しむ、とか。アジサイを見ながら楽しむ茶菓子は何が良いとか。並木のように植えられた豪華なアジサイもいいが、庭の隅や生け垣で梅雨時だけ花をつけて存在感を示すアジサイも私には捨てがたい。


観音堂の横には新種のアジサイの鉢植えが並んでいる。

アジサイの散策路は傾斜45度以上。カメラ持つ手、傘を持つ手、たいへん。