山本貴代の“女の欲望グツグツ” 母の日は、ひとりオペラへ。

(2009.05.20)

母の日というと、自分や夫の母親のことばかり考えていたけれど、よく考えたら、私にとっても母の日ではないか。ということで、日曜日にもかかわらず、誘われていたオペラへひとり出かけることにしました。

オペラなんて、前回はいつ見たんだっけ……と記憶をたどりながら、わくわくそわそわワンピースに袖を通します。なぜならば、誘ってくれた旧友とも、20年ぶりの再会だったから。このコラムを見た大学時代の旧友、紅ちゃんが、途絶えていた縁を手繰り寄せ私に連絡をくれたのです。ウェブ・ダカーポバンザイ!!

紅ちゃんは、一緒にスペイン語を落としていた落友。とほほ。中級まで取れば進級できるのですが、落とされて悔しかったので、上級までやったけれど結局モノにはならなかったなあ。「スペイン語は落としても、お互い社会に出てちゃんと働いてるねぇ。」なんて笑いながらの再会。卒業以来の紅ちゃんは、そりゃあ立派になっていて、新国立劇場でオペラの広報を担当していたのです。

「貴代は、女性の研究をしているなら、絶対、今回の『ムツェンスク郡のマクベス夫人』は見ておくべきよ。手がグーになるから」。なんてうまい誘い言葉。さすがオペラ広報。
自分の手をグーにしながら、それを見つめて、なんとしても行かないと、と誓った私なのでした。

新国立劇場は、2年前に、バレエ『くるみ割り人形』を見に息子を連れて行きました。とっても素敵な劇場。生のオーケストラを聴きながら、舞台を見るというのは変わりないけれど、子供が来ないオペラは、やはり空気が違います。休憩時間にシャンパン片手にドレスアップした人を眺めるのも楽しいし、第1に、自分が今、特別な空間にいるという気分にさせてくれるのがいいのです。みんなオペラを全身全霊で楽しんでいる感じ。

さて、肝心な『ムツェンスク郡のマクベス夫人』はどうだったかというと、最初から最後までドキドキワクワクのサスペンスドラマのようでした。オペラってこんなに刺激的なものだったっけという感想が残りました。

ストーリーは簡単に言うと、孤独で欲求不満な豪商の妻カテリーナが、性的不能な夫(父親のいいなり)の留守に、女癖の悪い新しい使用人セルゲイと不倫。それを知った舅(性欲旺盛で威圧的)と出張から帰ってきた夫を殺害。カテリーナは女としての喜びを知ったのもつかの間。のっとり作戦は失敗。殺人が警察に見つかり、セルゲイと共にシベリア流刑地へ。そこでまた新たな愛人をつくったセルゲイ。ひどすぎる!  悲劇のヒロインカテリーナは、セルゲイの新しい愛人を巻き添えに入水自殺する、といった話。結局三人も殺してしまうカテリーナだけれど、時代は違えど、女性たちは、たぶん、カテリーナのことが人ゴトではなくて、どこかに何かを重ねて、わかるわかると、同情してしまうのではないでしょうか。舞台装置も照明もセンスよくてちょっと高貴になった気分で、劇場を後にしました。

日曜日に、ひとりでオペラ見るなんて家族に悪いなーなんていう気持にもどり、家路を急いでいると、自宅付近で、夫と息子(7歳)に遭遇。買い物についていこうとすると「ママ先に帰っていて! ついてきちゃだめだよ」と息子。振り向くと、角の花屋さんで、カーネーションの花束を買っている姿を発見。あとできくと、なけなしの500円を貯金箱から出して買ってくれたとか。カテリーナを思いながら、幸せをかみしめた一日でありました。

新国立劇場オペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』より。手がグーになる。 撮影/三枝近志
最初から最後までドキドキワクワクのサスペンスドラマのよう。新国立劇場オペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』より 撮影/三枝近志
舞台装置も照明もセンスよし。新国立劇場オペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』より 撮影/三枝近志