田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 鎌倉材木座あたり、
夏から秋へ。

(2012.09.10)

湘南の夏、花火

鎌倉(由比ケ浜と材木座海岸)の花火大会は7月25日、今年は水曜の晩だった。休日には開催しないという決まりでもあるのか、これまで見物する機会がなかったが、今年からは曜日に関係なく楽しめる身分となった。その前の6月2日、隣りの逗子海岸で例年より早い時期に開催された花火大会も見に行ったのだが、当日はあいにく風が弱く、フィナーレの10分で5,000発の超目玉特大花火もほぼ煙の中。まあ音だけは豪勢だったが不満が残った。そこで起死回生、一発逆転、期待を込めて夕方から見物に出かけた。由比ケ浜は混んでそうだったので、手前の材木座で見ることにする。打ち上げ間際でも浜には空席スペースがまだ残っている。私は写真を撮りやすいように、船具置き場がある堤防の上に席を取った。天候は晴れ、時折風も吹く絶好のコンディション。しかし7月末の午後7時はまだ夕焼けの残照が残り、完全に暮れきらない黄昏時での花火となったが、これがなかなか風情があった。由比ケ浜沖合の台船から打ち上げる花火と、船を動かしながら海に投げ込む水中花火は海面に反射して美しい。1時間で2,500発という玉数は、隅田川の20,000発に比べるといかにも寂しいが、花火の楽しみは玉数に比例しないことがよくわかる。砂浜からでも間近に見えるのだが、遮る物の無い海と空の無限大の空間では花火も小さく感じてしまう。周りに高い山がないせいか、音も遠くに感じた。鎌倉という場所柄もあってか、遠い夏の花火の記憶と現在進行中の花火がダブルイメージとなり、そのタイムラグを懐かしく楽しんだ。葉山の後、江ノ島の花火大会(8月21日)の頃には夏もそろそろ終わる段取りなのだが、今年のこのクソ暑さ、まだなかなかフィナーレを迎える気配がない。


左・7月25日19時04分 鎌倉材木座
右・7月25日19時08分 鎌倉材木座

左・7月25日20時06分 鎌倉材木座
右・7月25日20時05分 鎌倉材木座
夕焼けとんび

花火が一瞬の夜空のアートなら、夕焼けは時間をかけて変化を楽しむ夕空のアートだ。今年の8月は夏には珍しく美しい夕焼けの日が続き、材木座から富士の美しい稜線を何度も楽しむことが出来た。夏の昼間は殺人的な日射しなので、涼しい風が吹き出す5時半頃に材木座海岸を散歩することにしている。緩く湾曲した砂浜を由比ケ浜へ向かうと、ちょうど正面の稲村ケ崎あたりに夕陽が沈む時間だ。西の空にかかる雲の形や、その日の空気の乾燥具合で、夕焼けの景色は毎日変わる。陽が沈む前後の照り返しで、真上の空にある白い筋雲がバラ色に染まる一瞬は、何度見てもドラマチックだ。バラ色の雲は1分もしないうちに灰色に変わってしまう。美は一瞬にあり。夕焼けを見ながら歩き疲れる程の距離ではないが、海の家の椅子に腰掛けて刻々と暗くなっていく夏空を存分に楽しむ。燃えるような夕焼けを見ながら、「夕焼け空がまっかっか とんびがくるりと輪をかいた」と、子どもの頃によく聞いた三橋美智也の歌が反射的に浮かんだ。「そこから東京が見える」だろうか?その海の家も9月の声を聞くと解体作業が始まり、もとの静かな材木座海岸に変わる。夏から秋への変化は残酷なほど劇的だ。


左・8月22日17時57分 鎌倉材木座
右・8月12日18時39分 鎌倉材木座

左・8月22日18時20分 鎌倉材木座
右・8月22日18時35分 鎌倉材木座

左・8月25日18時37分 鎌倉材木座
右・8月30日17時52分 鎌倉材木座

左・8月30日17時30分 鎌倉材木座
右・7月29日18時29分 鎌倉材木座
蝉の声、蝶の寄り道

9月初め、逗子小坪地区の蝉の分布状況は、ツクツクボウシ70%、ミンミンゼミ20%、アブラゼミ5%、クマゼミ5%だ(日本セミの会聞き取り調査、ウソだが)。朝夕はツクツクボウシの大合唱で、軽い耳鳴りの持病も掻き消されるほど、治ったんだかうるさいんだか、よくわからない。梅雨明けの頃に聞いたカナカナ(ヒグラシ)の哀調を帯びた鳴き声も、お盆を過ぎるとピタリと止んでしまった。夏の終わりにこそ似つかわしい声なのに。蝉で私が嬉しく思うのは、たまに聞くクマゼミの威勢のいい鳴き声だ。長崎ではあまりの騒々しさにジャゴロと呼んでいた。蝉の王様は、やっぱりクマゼミでしょう。(ねえ、九州のみなさま)長崎原爆祈年の日のニュースで、画面背景に流れるクマゼミの声を聞くと反射的に望郷のスイッチが入ってしまう。9月になり、その蝉たちの声にも心なしか締め切り前の慌ただしさを感じる。早くなった夕暮れの時間と、そこまで来た次の季節に追われるように鳴き続け、やがてコオロギの声に負けてしまう。

逗子は蝶が多い町だ。夏の暑い昼間、マンションの庭の木陰をひらひらと舞う姿をよく目にする。デイゴの木の下が蝶道にでもなっているのか、暇に任せて観察していると6、7種の蝶を見た。いちばん多いのがアゲハ、次にキチョウ、シジミチョウ、タテハチョウのなかま、時々アオスジアゲハ、クロアゲハなどが回遊する。(日本野蝶の会調査、ウソ)蝶の種類によって飛び方が違うので見飽きない。ちょこまか飛ぶのがシジミチョウやキチョウ、上下にせわしない動きをするアオスジアゲハ、風に流されるように悠然と漂うのがクロアゲハ。そのクロアゲハのみ、うちのベランダで満開になったルリマツリの蜜を吸いに寄り道する。千鳥足で縄のれんをくぐる酔っぱらいみたいで、なんとも可愛らしい。なぜか他の蝶たちは寄ってくれないのが、飲み屋のオヤジとしてはちょっと不満ではあるが。ベランダに、おいしい蜜を出す花を用意しないとだめか。

7月31日17時12分 逗子小坪
9月01日14時51分 逗子小坪