花と音楽のある暮らし Music & Flower Vol. 5 – Sweet Seasons- 春のメロディーを感じる風景。

(2009.04.13)
Music
いつまでも鳴り続ける晴れた日の音楽。
キャロル・キング/ミュージック
ソングライター・チーム、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンとして、アメリカン・ポップスの原型ともいうべき名曲の数々を60年代に残してきたキャロル・キング。70年代には、シンガー・ソングライターとして舞台に再登場し、驚異的ロングセラーを続ける歴史的名盤『つづれおり』を発表。本作はそれに続いて同71年にリリースされたソロ3作目。

東京湾の割りと近くに住んでいるので、ほのかに甘い潮の香りがあたたかく柔らかな風にのって辺りに漂いだしたりすると、確かな春の到来を感じます。

みなさんはもうお花見には行かれたでしょうか? 僕は今まで、お花見を本当に楽しんだことがなかったように思います。まだまだこの季節、わだかまりのように残った寒さが身体を包み込み、結局外で飲むよりはどこかのお店に移動したりして、お花見よりはその後の時間の方が楽しく過ごせた、なんてことが多かったはずなので(ある年には酔いすぎた状態でボーリング場に入り、隣のレーンにボールを投げた、なんてこともありましたが。隣が恐い人たちでなくて本当によかった……)。

でも今年は例年になくあたたかい日が続き、快適にお花見を満喫された方が多かったのではないでしょうか。先日出かけた鎌倉では、段葛の桜もすでにうっすらと緑の葉をまとい始めていましたが、まだ少し肌寒い由比ケ浜の潮風に吹かれながら飲んだビールとワインは、そんなお花見の余韻を引き連れていたからか、とても美味しく感じられました(トンビが襲撃するので浜辺で食べ物を広げたりするのはやめましょう──つまり、やられました)。

そう、今頃のやわらかな春の陽射しを浴びた桜の淡い色合いは、どこか心安らぐ懐かしい記憶と共に、始まりの季節をむかえる清々しい心を映しだしているように思います。“Sweet Seasons”──この時期にまったく相応しい、そんな題名の曲を含むキャロル・キングのアルバム『Music』は、まどろむような部屋に射し込む光がピアノに向かう彼女を包み込むジャケットのように、この季節特有の、感傷と希望が入り混じった感情を浮かび上がらせているようです。

もちろんアルバムの内容も、歴史的大ヒットを放った前作『つづれおり』と同年(1971年)のクリスマス・シーズンという短いタームでの発表ながら、前作が季節で言えば“冬”、そして本作が“春”という評判通り、プライヴェイトでの生活の変化(当時の夫、チャールズ・ラーキーとの間に子供が誕生する)が作風に滲みでた、とても風通しのよい、前向きな明るさで満ちあふれた作品です。

木もれ陽のように揺らめくエレピとパーカッション、そして爽快なアコースティック・ギターのカッティングが織りなす、ニュー・ソウルの影響を受けた名曲『Brother, Brother』、目覚めの瞬間を思わせる甘くおぼろげなピアノと優しいメロディーに導かれる『It’s Going To Take Sometime』、ポジティヴに心が沸き立つ『Sweet Seasons』、そして『Snow Queen』と並ぶ、胸疼くフォーキー・ワルツの名品『Music』──。

窓からの射す陽の光がこのジャケットのような春の朝、シャワーを浴び、丁寧にお茶を入れ、髪を乾かしながらこのレコードに針を落とす。時間がきて家を出なくちゃならなくなっても“Music Playing Inside My Head. Over And Over And Over Again”です。いつまでも。

(文/武田 誠)

 

Flower
音楽が聴こえてくるような花。
マトリカリア
種:キク科クリサンセマウ属
原産地:西アジア〜バルカン半島
開花時期:6月〜7月
花言葉:楽しむ、喜び

心地よい陽射し。あまりにも気持ちがいいので、公園の芝生に横になってみる。なんて気持ちがいいんだろう。しばらく、ぼーっとしてみる。ふっと、キャロル・キングの『Music』のジャケットが、脳裏をよぎる。暖かい、やわらかな陽射しが印象的な美しいジャケット。『アプレミディ』に入りたての頃、夕方よくかかっていた記憶。

前回の武田の文を読んでいて、なんだか音楽をテーマに生けて見たくなったので、今回はそのアルバムの中から、僕が好きだった『Sweet Seasons』という曲をより意識して作ってみました。この曲の僕の印象は、なんだかすこし懐かしく、寂しげな感じ。

もっとこの曲のイメージを掴もうと、初めてこの歌の歌詞をよく見てみる。するとそこには、懐かしさと切なさの両方を前向きに捉える強さを感じる歌詞が綴られていました。それは、まさにこの曲のメロディーから僕が受けていたイメージにぴったりの歌詞でした。そこで思ったんです。英語の歌詞なので注意深くその意味を捉えようとしなければ、その意味は僕には分からない。けれど、そのメロディーで感じるイメージは、間違っていないのかなと。そこに、音楽のすばらしさってあるように思えます。そして、僕もそうして、なにかをみなさんが感じる花を作っていけたらという思いを込めて。

旦那さんが、奥さんの誕生日にプレゼントしたいということで作ったアレンジメントです。

(文/井上揚平)