田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 5月のパリ。

(2011.05.23)

時差ぼけと夏時間。

半年ぶりにパリへ来た。初めて羽田発の深夜便に乗って、映画も見ずにひたすら寝てたせいか、時差ぼけがいつもより楽だ。着いてすぐ、早くパリ時間に慣れようと昼間の光を浴びてシテ島あたりを散歩する。風薫る初夏のパリは、まぶしい陽射しが強烈だ。いつものことながらサングラスを持ってこなかったことを悔やむ。この季節の東京ではまだ滅多に使わないので、つい忘れてしまう。夜9時を過ぎた頃にようやく薄暗くなる長いなが〜い午後の夏時間。時差ぼけよりは、夕方の時間の過ごし方に早く慣れないといかんなぁ。

白いアスパラ、赤いサクランボ。

土曜の朝、モベールミュチュアリテの朝市へ野菜の買い出しに行った。半年前より衣料品の店が増えていたが、そう広くない市場を回ると、鶏の鳴きマネが上手い肉屋のオヤジ、物静かなアラブ総菜屋、オリーブの実と乾燥フルーツの兄さん、八百屋の爺さんと無愛想な息子、ハチミツと石鹸の店、チーズと玉子屋のおばさん、みんな変ってなくて懐かしい。なんか、古里に帰った気分で安らぐ。この時期、八百屋の店先で目立つのはホワイトアスパラだ。たくさん買って、柔らかく茹でてマヨネーズで食べよう。東京ではスーパーでもあまり見かけないし、レストランでも思い切り食べられないしね。小さな桃や、枇杷の実も店頭に並んでいたが、なんといっても苺とサクランボの赤い軍団が圧倒的な勢いで八百屋を占拠して、5月は白組より赤組の勝ち。フランス語のサクランボ(スリーズcerise)と、イチゴ(フレーズfraise)を、私はいつも間違えそうになる。八百屋でサクランボを指差し確認してひと掴み購入。ルビーのように輝いて野性味あふれる姿だが、味は日本のサトウニシキの繊細な甘味には負ける。日本の果物の味は菓子のようだといつも思う。


iPad2に占拠された裁判所。

シャンジュ橋を渡りながら隣に架かるポン・ヌフの方を眺めたら、異様な光景が目に入った。コンシェルジュリーが三角屋根を残して、すっぽりと白いカバーで梱包されている。工事中?だとは思ったが、となりの裁判所の建物にはiPadの広告があった。そのむかし、ポン・ヌフを梱包したアーチストもいたし、アートのパリでは何があっても不思議ではないし、何か企みがあるんじゃないかと用心深く見てしまうのは私だけか? すぐ近くにある警視庁も大規模改修の続きですっぽり梱包されている。カバーの下に建物が透けて見えるわけではなく、実物大の建築写真が印刷してあって、去年はノートルダム側を同じスタイルで工事していたのですぐにわかった。最近パリでは改修工事中の建物をデザイン梱包するのが流行っているようで、ついに広告まで載せるように進化したのか、退化したのか分らないが、きっと代理店が目をつけたのだろうな、目立つスペースだし。ルーヴルのポン・デザール側は時計の広告塔になっていたが、こんな巨大な印刷が出来るんだと、私は変なところに感心してしまった。

 

古い街のリフォーム。

改修工事が終わって、カバーがようやく取り払われた建物もある。サン・シュルピス教会の左の塔は私が3年前にパリに来た時からずっと工事中で、クレーンとカバーが付いたままの姿が永遠に続くかのように日常化していた。去年のノエル市も工事中だったが、日曜の朝、オルガン演奏を聴きに行ってみると、あっけなく工事の囲いが取れていた。本来の自然な姿に、最初は気がつかなかったくらい。教会前の泉のある広場がすっきりと広く感じられる。白くなった左の塔だけやたら目立つので、次は右の塔が工事にならなければよいが。