田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 鎌倉八幡さまの夏。
七夕と蛍と、蓮の花の源平合戦

(2013.07.23)

遠い夏の記憶

七夕祭りの午後、八幡さままで足を伸ばしてみた。若宮大路の一の鳥居までは涼しかった海風も、梅雨明け翌日の炎天下を歩くのはちょっときつい。二の鳥居から段葛に上がったところで木陰を探し、ソフトクリームをなめて一休みする。三の鳥居から境内に入る太鼓橋の上に、大きな七夕飾りが青い空にゆらいでいた。吹き流しは眺めているだけで涼しくなるものだ。大石段の上の本宮にも飾りが見えたので境内をさらに進む。真ん中にある舞殿の周囲には、お参りした人たちの願いが込められた短冊がたくさん掛かっていた。子どもの頃、夏休み中の8月7日(旧暦七夕)になると、千代紙を切って作った短冊にいろいろと願い事を書き連ね、紙縒りで竹に結んで飾ったものだ。いっぱい夢があったなあ。還暦をとっくに過ぎた今、いきなり願い事と言われても何も浮かんで来ないのは、ちょっと問題かも。


文字に書けば、願いは叶う

七夕と八幡さまの出会いは、シュールレアリスムだ
ホタルといえば源氏蛍

ひと月前(6月9日)に、八幡さまのホタルが一般公開されると聞いて、暗くなる前に大石段右にある柳原神池へホタル狩りに来たのだった。ホタルは一週間の短い命だというし、早い方が元気なホタルが見られるかなと思ったのだ。日没後の八幡さまは想像以上に暗く、境内の若宮と白幡神社の森は深い闇の中。初めてだったが、いやあ、よかった。小さな池の周りを10分ほどで一周するあいだ、数えきれないほど(ホタルの場合、20匹以上は無数だ)の、もちろん源氏蛍が池の周囲を飛び交い、まるで動くプラネタリウム状態。こんなにたくさんのホタルを鎌倉で見ることが出来るなんて。あまりの感動に、翌晩も飽きずに見に行ったほどだ。この神池は水質改善が施されて、毎年春には子どもたちが幼虫3,000匹とエサのカワニナを放流するそうだ。鎌倉で育った、由緒正しい源氏蛍を来年もぜひ見たい。


夜の八幡さまは、違う顔をしている

観光客も帰って、静かになった若宮大路
蓮の花の源平合戦

ホタルが育つ柳原神池は八幡さま境内の奥深くにあるが、入り口の三の鳥居脇にあるのが源平池だ。向かって右、白い旗が立ち並ぶ弁財天がある大きい方が源氏池、左側の美術館に面した小さな方が平家池。梅雨明け後の酷暑が続くある日の夕方、暑気払いにと源平池の蓮の花を見物に出かけた。去年の暮れに池の水を汲み上げて、トラックいっぱいのレンコンを収穫?剪定?していたせいか、蓮は例年より心持ち少ない気がするのだが。源氏池の赤い橋を渡って弁財天から池を眺めると、白い大きな蓮の花がぽつぽつと見える。まだ、ちょっと早過ぎたかな。ところで蓮の花の世界では、紅(ピンク)が圧倒的多数派だが、ここ源氏池では当然の約束事として白でなくてはいけない。隣りの平家池には紅い蓮が植えられているそうだが、中之島が工事中で池の蓮まで近寄れず、生育状態は確認できなかった。源氏池にはたくさんの亀がエサを求めて泳いでいたが、亀の世界にも紅組白組とかあるんだろうか。鎌倉倒幕からはや800年、源氏と平家の紅白合戦は鎌倉の蓮池でまだ続いている。先月、世界文化遺産の戦いでユネスコに敗れはしたものの、武家の古都、鎌倉は、元気だ。


白い蓮は天上の花

紅白亀合戦?