佐藤友美の東京バカンス 独断と偏見ご容赦 2008年・美術展ベスト10(前編)

(2009.01.07)

 昨年も本当〜にたくさんの美術館やギャラリーに足を運びました。あくまで趣味の域で楽しんでいるアートの、独断と偏見に充ち満ちたベスト10の展覧会を発表したいと思います。今年まだ足を運んでいないものもあるので、あくまで暫定ということで…

 

展覧会フライヤー集めてみました。ダミアン・ハーストの作品も登場した『ターナー賞のあゆみ展』

10位 ターナー賞のあゆみ展 / 森美術館

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ターナー賞というアートの直木賞みたいなイベントが国をあげてのお祭りになっているのがすごくうらやましかった。一夜明けたら有名人、みたいな感じ!?そしてギルバート・アンド・ジョージとか、私の好きな多くの作家がこの賞を受賞していることも再確認。ダミアン・ハーストの牛の断面の親子作品が東京の、しかも53階で見られたことに感激。シュールなシチュエーションだったよなーとあらためて思う。

9位 対決 巨匠たちの日本美術 / 国立博物館

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今までありそうでなかった、面白い企画だなーと思った。それにのせられて、ついつい対決させながら観てしまう自分がいた。ただ、それぞれがその作家のベストの作品をもってきていたわけではないので、思い入れのある画家だと、これでこの画家がこの程度だと思われたくない気持ちもあった。スタア画家を集める理由付けとして、かっこうの企画というか。洋画とか現代美術でもこの「対決」の構図の企画は使えそうだし、ゼヒ観てみたい。若冲とか応挙とか蕭白とか大観とか、これだけのスタア画家を一堂に揃えたらやっぱり見たくなるよね。企画の勝利。

若冲、応挙、蕭白、大観。スターが揃った『対決 巨匠たちの日本美術』

8位 南蛮の夢、紅毛のまぼろし展 / 府中市美術館

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チラシを見ただけで胸をうたれた、どうしても見たい絵があった。松本華羊「伴天連お春」という絵(HPにのってます)。
吉原の遊女・浅妻が切支丹(キリシタン)で、処刑される前に、桜を見せてくれと懇願しているシーンだそうで、その呆けた目つき、手鎖、丹念に描かれた桜、そのどれもがなまめかしくエロティックで、実に素晴らしかった。ちょっと歌舞伎「金閣寺」の雪姫っぽくもあると思った。
生で観られて大満足。そしてこの企画自体も、とても面白かった。南蛮渡来の雰囲気って、和洋折衷っていうか、独特で味があります。

7位 冒険王・横尾忠則 初公開!60年代未公開作品から最新絵画まで / 世田谷美術館

『冒険王・横尾忠則 初公開! 60年代未公開作品から最新絵画まで』展。横尾忠則は普通の人の30倍は濃い、そして熱い。

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やっぱりすごいやー、横尾忠則は。という再確認。圧倒的な量といい、キャッチーさといい。画家宣言の前のグラフィックデザイナーとしての仕事も本当に素晴らしいし、最近の「描きたいものしか描かないぞ」という姿勢にどんどん走っていく流れ(イコール「老人力」?)がよくわかった。なんか普通の人の30倍は濃い、そして熱い。大好きなY字路シリーズの作品の前に立つと、自分の人生の、選択しなかったもう片一方の道を思って切ない気持ちに。

6位 トレース・エレメンツ展〜日豪の写真メディアにおける精神と記憶
/ オペラシティアートギャラリー

ダム・タイプの古橋悌二のビデオ・インスタレーション「LOVERS 永遠の恋人たち」も登場した『トレース・エレメンツ展~日豪の写真メディアにおける精神と記憶』展。

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写真メディアもここまできたか!という面白い作品がたくさん。出品作家がバラエティに富み、どれも洗練された力作ぞろい。
フィリップ・プロフィの「蒸発した音楽」という作品は、ミュージック・クリップの音楽だけが取り除かれ、その画面の人物や物音の実録音に替えられている。美しいタイトルどおりの作品ではあるが、イメージとは正反対の、そのおマヌケぶりに爆笑。
十数年前にスパイラルでみて、その場から立ち去ることができないほど感銘を受けたダム・タイプの古橋悌二のビデオ・インスタレーション「LOVERS 永遠の恋人たち」も久しぶりに体感することができた。
特筆すべきは志賀理江子作品との出会いだろうか。頭がくらくらするほどの衝撃を受けた。今年、木村伊兵衛賞を受賞したので、写真集をチェックしたときは、いまいちぴんとこなかったのだけど、この展示ではすごさが瞬時に伝わってきた。ネオ・シュルレアリスムともいうべき美しさと不穏さが、そう、まるでデビットリンチの初期のころの作品のように漂っているのです。不穏すぎて、所有したくはないんだけども…。でもこの暗い性的衝動感というか、危うさにやみつきなのでした。

5位〜1位の<後編>へ続きます