斉藤弓子のおいしいパリ案内 春の訪れを告げる復活祭
パック(Pâques)のショコラ

(2012.05.29)

街中がショコラであふれる食いしんぼうな祝日

バレンタインが終わると、スーパーに登場するリンツのウサギ型のチョコレート。復活祭と、春がすぐそこまできていることを感じる光景のひとつです。復活祭とはフランス語ではパック(Pâques)。十字架にかけられ命をおとしたイエス・キリストが復活したことを祝う、キリスト教の祝日の中で最も需要な行事です。この日は「春分後の、最初の満月の後の日曜日」と決められている移動祝祭日で、今年は4月8日。翌日の月曜日はランディ・ドゥ・パックといって休日となり、学校はこの前後で2週間ほどの春休み、バカンス・ドゥ・パックとなります。

ショコラが大好きなフランス人ですが、最も消費されるのはノエルとパックのとき。この2つのイベントで、年間消費量の約半分を占めます。年間ひとり当たり7キロ、パックではフランス中で約14,700トンのショコラが消費されます。ショコラトゥリー、パティスリーにとってはノエルと同じくらい忙しい時期で、大きなイベント。店には復活祭を祝うショコラが並び、街中がショコラであふれる食いしん坊な行事です。

復活祭の時期の定番、スイスのチョコレート・リンツのうさぎ型のチョコレート。
ハートと鍵が愛らしいショコラ
卵をもらってくる3日間は鐘は鳴らない

パックのショコラにはいくつかのモチーフがあり、それぞれに由来があります。鐘(クロッシュ)は「新しい命の象徴である”卵”をもってくるもの」と考えられています。フランスでは、金曜日から復活祭の日曜日の3日間は、キリストの死を悼んで教会の鐘は鳴りません。それを大人は子供に「鐘がローマに行って、復活祭の卵をもらってくる。そして、庭に卵をばらまきながら帰ってくる。」と説明するそうです。それが、子供たちが庭に隠された卵型のショコラを探す、という行事になっていると言われています。子供たちにとってはわくわくする嬉しいイベントです。卵やめんどり、ウサギは生命や多産を象徴。ウサギはドイツからきた慣習だそうです。4月1日のエイプリルフールのモチーフである魚も見かけます。トップショコラティエやパティシエたちがその技術を駆使して、毎年アイディア溢れる、また芸術的なショコラを披露しますが、その形は卵やめんどりなどクラシックなまま。街のお店もそれは同じで、復活祭が伝統的な行事であることを実感します。


左・鐘が庭に卵を隠しばらまく、と言われています。
右・動物が庭の中にいるイメージのショーウィンドー。

左・エヴァン氏のめんどりはしましま!
右・卵、めんどり、魚をひとつで表現。
「好奇心」をくすぐるジャン=ポール・エヴァンのショコラ

今年も個性あふれるショコラが並びましたが、その中でもインパクトが強かったジャン=ポール・エヴァン。それは「亀」のショコラ。毎年、年間のテーマを決めて作品を創り出しているエヴァン氏ですが、今年は「好奇心」。そして「動物が庭の中にいるイメージ」でつくったのが、パックのショコラです。「エヴァン氏が自然界とアートを結びつけて考えたのが「亀」のモチーフなのです。大きな卵にはりついた亀のオブジェは、ショーウィンドーの前を通る人々の興味をひきつけていました。卵型は、キョロキョロと辺りを見回しているような大きな目をつけて、好奇心たっぷりの様子を表現しています。フランス語で「シュエット」というフクロウは、幸せのシンボル。「素敵!」と表現するときにもこの言葉を使います。また「フクロウの目」という言葉は「ギョロ目」を意味し、このまん丸の目で復活祭の様子を眺めている、というものです。お客さんが一番購入していくというめんどりのはしましまのゼブラ模様。そして、卵を抱いためんどりをよく見てみると、その尾は魚の尻尾。復活祭を象徴する代表的なモチーフ「卵」「めんどり」「魚」をひとつにしたものです。他には、魚で魚のモチーフをつくったり、魚のレントゲンのようにしたりと、実にユニーク。「味わい楽しむ」という好奇心、そして「喜び」という感覚を呼び起こす。それが今年のジャン=ポール・エヴァンの復活祭でした。


右・自然界とアートを結びつけた「亀」
左・幸せのシンボルの「フクロウ」

右・魚の中に海の生き物たちがぎっしり
左・復活祭に向けて店内のスタッフたちは大忙し
家族で過ごす大切なひととき

普段は仕事、プライベートやおしゃれに忙しいパリ在住のフランス人女性も、ショコラを買って、週末は家族と一緒に過ごすのだそう。「復活祭は大人、そして子供にとっても大切なひととき。家族はノルマンディーにいるけれど、電車で2時間。全然遠くないわ!」と、笑顔で話してくれました。多くのフランス人はプライベートと同じくらい、家族で過ごす時間を大切に考えています。また家族が一緒に食事を楽しむ機会でもある復活祭。この女性も週末が待ち遠しい、といった表情。ジャン=ポール・エヴァンでショコラを嬉しそうに購入している姿が印象的でした。来年のパックは3月31日。どんなショコラが登場するか、今から楽しみです。


右・パティシエからショコラティエになったというエヴァン氏のケーキも見逃せません
左・シンプルで洗練されたケーキが並びます

右・ショコラ愛好家たちをとりこにするボンボンショコラ
左・パリの中心、サントノレ通りにある店舗。最近では、フィガロ紙でNo.1ショコラ・オ・マカロンに選ばれたばかり。
Jean-Paul Hévin

ジャン=ポール・エヴァン
住所:231 rue Saint Honoré 75001 Paris
Tel:01 55 35 35 96
営業時間:10:00~19:30
定休日:日曜、祝日
メトロ:1番線 Tuileries
HP:http://www.jphevin.com/
※他パリに3店舗あり