ホテルタカヤマのYOKOSO NIPPON! ニク、にく、肉・・・・・・の最新トレンドは、熟●系?

(2009.08.10)

食の嗜好は歳を重ねるごとに変化していくものです。例えば寿司ネタでも小さい頃はウニなんかよりも、蒸し海老の方がストレートに美味しいと思ったものですし、トロの味を覚えてきたら、その時々の気分や懐具合で、大トロ、中トロを豪快に食すことに無上の喜びを感じたものですが、最近はマグロもむしろ赤身。特にヅケの芳醇な旨味がとても魅惑的です。

暑い季節には、スタミナ! を合言葉に、しばしば“肉”を喰らうわけですが、最近は肉の嗜好も変化してきました。スキー部時代は、肉と言えば焼肉!「カルビ・ライス・カルビ・カルビ・ライス!」のリズムで爆食。サシが綺麗に入った和牛を、まるでしゃぶしゃぶのように、お箸でつまみながら炭火に載せ、表面に脂がふつふつと浮き上がってきたら、即ひっくり返し、ジュっと言った瞬間にレアの状態で口に運ぶ・・・。
あぁ~、口の中に一気に広がる肉汁の旨味は、まさに“悩殺”という言葉がピッタリな記憶です。

でも最近はこんな肉の楽しみ方は、少しばかりヘビーです。確かにサシの美味しさは、ある意味で芸術的だと思いますが、むしろ“肉”を食べたい!という時は、赤身肉をステーキで食したほうが、その期待が裏切られません。

赤身肉にも色々ありますが、いわゆる産地や部位といったこだわりではなく、いかに肉を美味しくさせるかというアプローチ、“熟成”に取り組んでいるお肉屋さんがあるというので、訪ねてみました。ここは『料理通信』の君島編集長から今年の初めに教えて貰っていたのですが、ついつい機会を逸していて、満を持しての訪問です。

壁一面の特製のショーケースには、杉板の上にあらゆる部位が整然と並ぶ。
サーロインのブロックの片側にあったこのカビこそが熟成の証。
日本三大和牛と言われる神戸牛や松坂牛などの素牛である但馬牛は33~36ヶ月肥育。

“熟成肉専門店”を掲げるそのお店の名は、『中勢以』。田園調布駅前のロータリーを抜けて、環八を渡った、アルファロメオのすぐ裏手にあります。モダンな佇まいの店内に足を踏み入れると、一面のショーケースには、スポットライトを浴びたあらゆる部位の肉が杉板に並べられ、その静謐なさまは、まるで博物館のようです。

米国でミートサイエンスのマスターを修めた店長の加藤謙一氏によれば、一般的に流通している牛肉というのは、屠畜後2週間以内で我々の手に渡っているが、その状態はいわゆる死後硬直で硬く締まっているとのこと。同店では、逆に2週間経った肉を、そこから熟成させると言います。肉は寝かせた方が美味しくなるとは、かねてより聞いていたものの、手法によっては熟成なのか、劣化なのか、そこには微妙な一線があるようです。部位ごとに真空パックした状態で熟成させるウェットエイジングという手法に対して、欧米では肉に風を当て、旨みを凝縮させるドライエイジングという手法がありますが、中勢以のドライエイジングはもっとこだわりがありました。

そもそも長い熟成期間に耐えうる牛肉かどうかを研究した結果、中勢以の牛肉は、厳選した但馬の黒毛和牛のみ。その丸々一頭を枝肉のまま、0℃にした特製の熟成庫で、4~8週間、高湿度、無風の状態で寝かせると言います。この枝肉熟成により、本当の旨味、香り、食感が引き出されるそうです。「枝肉熟成された赤身肉は、余分な水分を減らし、旨味を凝縮させ、噛み締める程に奥行きのある肉味へと変化します。厳選された黒毛和牛を熟成させることで、肉には熟成香が生まれ、食感は程よい柔らかさに仕上がります。」とは、同店のパンフレット“中勢以の味”に記されていました。

色々と勉強したので、Eating is believing! と実践することにしました。ラムシン、イチボ、カメノコ・・・・・・と、多少は親しみのある部位から、初めて聞く部位まで興味は尽きませんでしたが、ステーキで美味しく食べる!がテーマでしたので、スタンダードなサーロインとフィレ、そして肉質も熟成の状態も、その日最良と推薦されたランプを買い求め、早速炭火焼にしてみました。感想は・・・・・・。なるほど、なるほど、赤身肉とは言え、シルキーな甘みが口中に広がるさまは、ひとつの価値観を感じさせてくれるものでした。和牛は、これまで神戸牛や松坂牛といったブランドや、A5、A4といったクラスで、特にそのサシの状態が美味しさのバロメーターのようなところがありましたが、熟成肉はそのようなマーケットに新たな価値観を吹き込むのかもしれません。

本日のランプはコンテスト最優秀牛とのこと。味への期待が否が応でも高まる。
備長炭で焼き上げたサーロイン。思いのほか火は早く入る。
備長炭で焼き上げたフィレ断面。

この日のお買い物は、サーロインとフィレが100g 2,500円、ランプ100g 3,260円。この価格を高いと感じるか、安いと感じるか?  それは、人それぞれでしょうが、好み、用途にあわせて部位を選んでくれ、目の前で贅沢にカットされていく様子は、一見の価値はあるように思います。和牛を世界的なブランドにしたニッポン。次は熟成で世界に挑戦!?