黒岩卓の”人生は芋づる式” 「オトナの夫婦」がニッポンを救う!?……「オトナの夫婦プロジェクト」

(2009.05.01)

私が会社で取り組んでいるプロジェクトです。
なぜ犬も食わない「夫婦」の問題をプロジェクトにするのか?
「夫婦問題」の先にあるニッポンて何だろうということを真面目に考えています。

あまり気の利いた文章は書けない私ですが、でもちょっと面白いことをコツコツ実現したいなと思っていますのでお付き合いください。
今日は、ちょっと長いですが、「夫婦」というテーマにたどりつくまでのお話を……

 
●団塊世代のリタイア

私が電通のシニアビジネス推進部に来たのは2年前、2007年7月。この2007年はシニアマーケットにとっては重要な年、戦後生まれ「団塊の世代」が定年を迎え、リタイアライフがスタートする年でした。
それまで、大量の団塊世代がリタイアし、退職金を手に入れることで、大量の消費が生まれ、「シニア市場」が一挙に活気を帯びるのではないか……という期待が世の中では流れていました。

ところが、フタをあけると、期待したほど劇的にはシニア市場が広がってこないなぁ……
という落胆が広がっていました。

私たちの部署では、「単にシニアライフを研究しても、それが市場を活性化するわけではない。」何でシニアは元気がないのか?研究するのではなくて、彼らが元気に活動し、消費をしてくれるために具体的なプログラムをつくろうじゃないか……ということで、「シニア応援プログラム」を開発することにしました。

 
●リタイア前、団塊シニアがやりたがっていたこと

私はマーケティングの専門家ではなく、それまでの20年間、ほとんど営業一筋。だから考えたことは単純です。まずそれまでの調査で皆が「リタイアしたらやりたい!」と言っていたことで、「結局やっていない(できなていない)」ことがあるはず。そこにリタイアライフの現実と市場が動かない原因があるのではないか?

……ということで注目したのは「田舎暮らし」。
とにかく都会暮らしのシニアはみんな多かれ少なかれ「自然の中で暮らし」に憧れているようで(統計的には4割ぐらい)、世の中はその需要が大きな消費を生むと期待していました。
民間では会員制リゾートビジネスへの参入が拡大、自治体も期待が大きく、数多くの体験宿泊、移住プログラムが用意されました。
ところが、フタをあけるとシニアは動かない。調査では本当に夢の田舎暮らしを本当に実行できると思っているのはそのうちの4割に過ぎない……これはいったいなぜだろう?

ということで、調査の専門家ではない私はしばらく、関係者(?)にヒアリングをしました。
そこでわかったことはこんなことです。
◇田舎暮らしをしたいのは、リタイアを控えた男性陣
◇夫が妻に「引退後は那須に別荘でも買って、ゆっくり田舎暮らしをしようよ……」と夢を語り、妻は、「冗談じゃない!」と断る……というのが典型的な破たんのパターン。
これがケースバイケースの話であれば個人的な問題になりますが、行く先々で同じ話を聞いてしまう。……ということは、そこに何か根本的、根源的な問題があるのではないか?

そこから少し真面目な分析をしてみました。

 
●団塊の世代とは?……恋愛結婚第一世代、そしてアメリカ型の家族

団塊の世代とはどんな世代か?本家堺屋太一さんに対抗して考えました。(ウソです!)
私が考えた、進まない田舎暮らしの遠因は次の2つです。

①男女は平等
「教育基本法」の施行……民主的で文化的な国家として、個人の尊厳を重んじ、男女平等の精神のもと、女性も男性と同じように教育を受けられます、そして受けましょう。……という宣言。
つまり団塊の女性は、社会的な存在として教育を受けた初めての世代。結婚の形態は見合結婚から恋愛結婚へと大きく変化していきます。

②核家族……アメリカ型ライフスタイル
日本はもともと農耕民族、自然とともに歩む生活は地域が運命共同体であり、相互扶助のライフス
タイルで生きて来ました。
ところが、戦後の経済成長社会はサラリーマンが中心となる消費社会。団塊世代は家族【親子】が基本的な生活の単位となり、地域社会、親類縁者の絆は次第に薄れ始める最初の世代。

……実はこの二つの変化がシニアライフに大きな大きな影響を及ぼしているのです。

 
●男の定年60歳、女の定年50歳……10年のギャップが夫婦の亀裂に

この二つの事実がどうして田舎暮らしの破たんにつながるのでしょうか?
我々はこれまで、シニアライフは男性の定年である60歳(今は伸びてますが)が変化の境目だと考えてきました、実質的にもこれはそうでしょう。ところが、女性の視点でみるとちょっと違う現実が見えてきます。
(わかりやすく説明するために断定的に説明するので、語弊もあります。おとなの女性の皆様ご容赦を!)団塊女性は初めて自立した生き方を目指した世代です。しかし、実際は、専業主婦として家庭に入ることが理想のライフスタイルとされました。夫はサラリーマンで給料をもらい、妻は専業主婦として白物家電に囲まれて家事と子育てに専念する生活を送るという図式です。これは専門的には「役割分業生活」と言うそうです。

さて、女性の気持ちになって考えてみると……
自分たちは男性と同じ自立した存在でありたいという思いがありながら実際には家庭に入って家事、子育てという社会から切り離された生活を送っています。それは、男からは楽な生活に見えていたのかも知れませんが、実際には、自分の存在の意味を自問する生活であったのではないでしょうか?

ところが、この自問する団塊女性は50歳前後で大きく生活環境が変化します。それは一言でいえば子育て定年。男性にとって定年は社会から切り離される時、しかし女性にとっては、子供が社会人となり独立することで家事から解放され家計も楽になり、改めて自分の人生を歩み出せるスタートの時。この正反対の環境変化と10年のギャップが日本のシニア夫婦に危機的な状況をもたらしているのでは?

 
●子供が巣立つと夫婦の会話は続かなくなる……夫婦は他人

子供が巣立った夫婦に訪れる現実。夜は宴会、土日はゴルフで過ごしてきた働く男にとって、もともと家のことは二の次。一方、自由になった女性は夫に向くのではなく、やりたくてもできなかった自分のための人生を取り戻そうと外へ出ていきます。そして、井戸端会議のプロフェッショナルは新しいコミュニティをどんどん構築して夫婦は別々の道を歩き始めます(夫が知らない間にじわじわと、着実に)。
夫は定年を迎えて、初めて社会から切り離されます。その時初めて自分が孤独であることに気づき始めて妻と一緒に過ごすことを意識します。しかし、その時は手遅れだったりする……それが熟年離婚への道なのです。

 
●「オトナの夫婦」が素敵なシニアライフへのキーワード

そんなわけでシニアが活き活きと時を過ごすためには、この夫婦のあり方を正面から考えなければ解決策を提示することはできないのではないか?
……これが「夫婦」にたどりついた経緯です。次回はもう少し「夫婦」を考える意味をご紹介したいと思います。