田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 世田谷ボロ市の行列と肉まん。

(2011.02.18)
納屋の中から拾ってきたような錆びた鋸、ペンチ、鋏。しゃがんで見るのがボロ市の醍醐味。

先月、久しぶりに世田谷のボロ市へ行ってきた。特に探し物があったわけではないが、蚤の市なんてひやかし半分、面白い物に巡り会ったらその時に買うかどうか悩めばいいわけだし。私の家(世田谷区の南端、九品仏)からボロ市がある上町(かみまち・世田谷区の中央)まで、どの電車に乗ればスムーズか、世田谷区の住人とはいえナビゲーションが難しい。だいぶ前に行った時は三軒茶屋から電車に乗った記憶があるが、現在の新しい駅ではなかったし、でも昔の三茶の駅ってどうだったか、よく思い出せない。玉電という呼び名だけまだ残っていた時代だ。

新しくなった世田谷線の電車に乗るのも悪くないが、最寄り駅の九品仏(東急大井町線)からだと東横線で渋谷まで戻ることになり、いくらなんでも大回りだ。二子玉川へ出て田園都市線で桜新町へ戻り、そこから上町までは歩くことにする。東京の電車はほとんど放射状(世田谷あたりでは東西)に伸びているので、南北に移動する時はバスか徒歩しかない。そもそも、ボロ市が開かれる上町は世田谷線以外からは何処からも遠い町だし、東京の人でも正確な位置は知らないと思う。江戸時代には小田原へ向かう宿場町として大そう賑わったそうで、ボロ市は430年の歴史があるそうなのだが。

世田谷通りも、この日ばかりは歩行者で大混雑。
江戸と小田原を結ぶ世田谷宿の楽市がさびれ、近隣農村の歳末市としてボロ市が残ったそうだ。代官屋敷跡。
ボロ市が国指定の重要文化財だなんて、知らなかったなあ。


サザエさんの桜新町駅から北へ1キロほど、世田谷通りの手前を右へ曲がると突然大混雑のボロ市通りが出現した。予想はしていたが、すごい人出だ。通りの露店には、古道具やフリマっぽい古着の店と、半分くらいは食べ物関係の屋台が並び、以前来た時の記憶とは全く様相が変っていた。今や、観光バスのツアーで来るような、イベントのようだ。そんな中で私が気になったのは大工道具の店。鋸や鉋(かんな)、鑿(のみ)、墨壷など、使う予定は全く無いが、道具として美しい形をしているので手に取って触ってみたくなる。触るとムズムズと骨董の虫が目覚め、欲しくなってしまうが、衝動買いするにはちゃんとした値段が付いていたので、思い留まる。一つ買うだけでは済まなくなるのが骨董の道、悪の芽は早めに摘まないと危ない。そこで、古美術から日用雑貨に視点を変えて、ベランダのガーデニング用にと実用的な剪定鋏を購入。親指ほどあるバラの固い古枝も楽に切れるし、鍋のシーズンに松葉ガニの足も簡単に捌け、キッチン鋏よりも重宝する。

ボロ市には木の臼や杵、焼き印、神棚、太鼓など、普段あまりお目にかからない変った店もあった。道路の左側を歩いて見物するように規制されているので、通り全体が長い行列となり、あちこちで渋滞している。立ち止まったり、しゃがんだりすると押しつぶされそうで落ち着かないから、ガラクタ探しは早々に切り上げ、行列の波にまかせて流される。お昼に名物の代官餅とやらを食べようと売店を探したら、途方もない行列の最後尾が見えるだけで、餅に辿り着くには1時間以上かかるようだから諦める。パリで行列に並ぶのには慣れたつもりだったが、東京の行列の方が手強い。餅がだめなら饅頭とばかりに、上町に来たらいつも寄る肉まん屋へ行くと、ここも整理券を出すほどの行列。どうやらボロ市は、行列覚悟でないと見物できないらしい。しょうがない、ガマンして列に並ぶか。肉まんの順番を待っていると、世田谷線の踏切の警報音が聞こえてきて、少しだけ旅行気分に浸った。

鉋に男盛とは、なんだか日本酒の名前のようで。
この鉄のかたまりが、なんともね、これも鉄ちゃんか。
包丁を磨ぐのが趣味で、いい砥石を見ると欲しくなる。


ここの肉まんは甘口で、皮もおいしい小振りなサイズ、ちょっと肉汁が出るところが小龍包風で私の大好物だ。蒸かしたての饅頭6個を箱に入れてもらうとずっしり重い。パリの人のように、歩きながら立ち食いなどしないでぐっと我慢。(若い人だったら様になるが、年寄りはみっともないだけだし)静かな住宅街を246の駒沢大学まで歩く。少々冷えたし、さすがに腹も減ったので沖縄そばの店で遅い昼メシにするか。上町でベトナム屋さんの長い行列を見たときから、南国エスニック料理がアタマに残っていたのだった。一休みし、駒沢オリンピック公園を突っ切って帰ろうとしたら、早咲きの梅を発見。デザート代わりに梅園で春の香りを楽しむ。公園を出て、駒沢通りと目黒通りを一気に超えて九品仏まで、1日で7、8キロは歩いたかな、いい運動でした。あ、肉まん、どうしたかっていうと、晩ご飯に2個を蒸篭で温め直し、残りはしっかり冷凍保存しました。旨かったなあ。

ふだん、売り切れることはあっても、こんな行列はあまり見ないのだが。