新岡淳のトラディショナル・コスチューム 雨降りと大雪、きもの コートと長靴。

(2010.02.02)

最近、この国を見舞った大寒波、大雪を見て、ある光景が脳裏に浮かんできました。
それは、数年前の話で、北海道の旭川でマイナス21℃という日にきもので集まるパーティーをした時のこと。

雪の中、きものでおでかけ……。

その時「皆さん大変ですね。」と声をかけたところ、私たちはここで生活しているのですから と叱られました。
私は概ね暖かい地方で生まれ、暖かい土地で育ったため、実際にマイナス21℃などという気温は体験したことがなかったのです。地元の方々のお返事にはただただ頷くだけ。彼女たちが夏に九州に来られて、こんなに暑くて大変ですね と言われれば、私だって、いやそんなこと言われても、ここで生活しているから という返事になったことでしょう。
いや、実際、暑さは大変ですけれど……。特に私の体型は。

先日、大阪で『きもので落語を見に行く会』というのがあり、その前日にお越しになる皆さまに最終確認をしたところ、明日は雨なので行かないかも !というお返事の方が。
これには驚きました。

落語家さんと-大阪繁昌亭にて。

前述の旭川の時、マイナス21℃で雪が舞う中、100人あまりの参加者は、全員欠席することなく、会場のホテルに駅から歩いてこられていました。
それはきものの裾をからげ、長靴に(それもゴム長がほとんど)コートというかカッパを上に着て。私はそれを見て、生活をしているというのは、こういう事なのだ と愚にも付かない慰めの言葉を発した自分を責めたりしていました。
皆さん、ホテルに着くと1階のロビーで何事もなかったようにゴム長を脱ぎ、草履に履き替える訳ですが、そこはホテルもよく事情が分かっており、専用のゴム長置き場にずらりと並んだ黒い長靴。よそ者の私はどうやって自分のものと人のものを区別するのだろう と不思議さと同時に思わず優しい気持ちになるものです。

が、
大阪で雨だから行かない って。
「きものを普段に着て出かける」事が目的の会で、雨というのは普段にないことなのかしら? と思うのです。きものを着ることが普段の事でない と言ってしまえばそれまでなのでしょうけれど、そうであれば、きものを普段に着てという会に参加申し込みは筋違いですよね。

愚痴のになり恐縮ですが、結果は翌日が曇りで揉めることもなく、全員きもので落語を楽しんだ訳ですが……。
私としてはなにぶんにも納得のいかない話となってしまいました。

今の環境と比べるのもどうかと思いますが、ホンの60年前まで、この国では雨が降ろうが、雪が降ろうが、はたまた爆弾が降ろうが、皆さんきもの姿でいたのです。きものの上にもんぺがあったにしても。
それを今、雨が降るから と私より年上の方に言われますと、ちょっと辛いものがありますね。

雨や雪への対策は、昔から色々と工夫されてきました。それはもう生活の中でのきものですから当然です。
そんなものの中から、現代でも雨が楽しくなるものとして、お勧めなのは、きものへの撥水加工。水分が付いてもコロコロと水玉になって下に落ちてゆきます。元々は海軍の軍人さんが着る制服への加工のために開発されたものだそうです。
 

お天気がよくない時に、雨用草履カバー。
そして靴下型足袋カバー。

帯から上にかかった水分は帯のところで遮られ、下まで落ちていくことが出来ません。そこは大切な帯を守るため帯揚げに吸って貰う事で解決。
また写真の透明型草履カバーは、鼻緒を守るだけのタイプより全体を覆うものの方が、きもの屋としてお勧めです。更に足袋カバーという靴下型の草履の上に穿くものを足袋の上しておく(これを足袋の代わりにすると楽という意見もあり。NGですよ)こと、そして、換えの足袋。これだけ揃えておけば、後はちょっと和風な傘など差して「きもので雨を楽しむ」のも、ひとつの風情かと。

昔ながらの知恵に支えられ、備えがあって憂いを消し、雨や雪を愉しむ。
きものって楽しい! の1コマと思いませんか? やはり、日本人ですもの。