グー先生、今日も料理三昧 あっぷる豚を食べた。

(2008.07.15)

 関西人の私は「肉」と言えば牛肉。豚肉は豚肉であって「肉」ではない。

 子供の頃に母が「今日はポークカレーよ。」とオシャレにカタカナで言ったモンだから、「ポ、ポ、ポークって!ナニ?ナニ?」と期待に胸を膨らませた。ごはんと混ぜるのももどかしく焦りながらスプーンですくい口に運んだそのとた、期待は萎むなんてモンじゃない。マリアナ海溝より深い海底に吸い込まれるほど落ち込んだ。
「これ、豚やん。」もう半泣きである。

 うだるような大阪の夏。あらゆる臭いが夏バテを助長させるデリケートで多感なヤングな頃(言い方、古!)。ケモノ臭がダメだった。香水、体臭、そして肉の臭い。夏の食事はまるで修行僧のような精進もので生きていた私だから、一生食べなくてもいい、ぐらい豚肉の脂身がダメだった。だから家族の中で私だけ、トンカツといえばロースじゃなくてヘレ(関西ではヒレ言わんとヘレっちーますねん。なんか息が漏れてる感じで肩の力が抜けてて、ええと思いません?)。それも、トンカツを好んでいると言うよりも、ソース味が好きで食べているようなモンだった。
「おろしポン酢?やめてんか。」そんなもんじゃ豚の臭いは消えまへん。

 それぐらい豚肉に価値観を持っていなかったのだ。
 いなかったのだ。過去形? そう、過去形。

 東京に移り住んでしばらくした頃、「もしかして豚肉って、美味しい?」などと言う、「今頃言うてんねん!舌の先から美味しいを脳みそに伝えるのにアラスカ経由してんのんか?アホちゃうかコイツ。」的なツッコミを入れられてしまうようなことに気がついた。

 そう、東京は「肉」と言えば豚肉。牛肉は牛肉であって「肉」ではない。
 東京は豚肉のレベルがはるかに高かった。

 薄くしゃぶしゃぶ用に切ったバラ肉を使って、冷やしゃぶ仕立てなんかもするようになった。ところがそうは言っても、やはり厚みのある豚肉、脂身はご遠慮申し上げていた。
「分厚い豚肉いりません。これはもう生涯決定やね。」と思っていた。

 思っていた。過去形? そう、またしても過去形。

 豚肉に価値観を持っていない私が仕事で沖縄に行ったのだ。それも食べる仕事で。
 どうしたもんだかと、行くまで気が重かった私。
 ところが、沖縄で開眼!
 2泊3日、帰るときには「豚肉の脂身はね、身であって脂じゃないのよ。」
「塊肉の料理ほど美味しいものはないね。」などと熱く語るまでになっていた。
 もしかして今までの豚肉人生損してた?
 そう思ったら、損の嫌いな大阪人(…と一括りにされるの、ホンマは嫌いです)。
 と言うより、料理研究家の魂に火が付いた!(そんな大げさなモンでもないけどね)

 幸い、ここ何年かで様々な種類、育てられ方をした豚肉が出てきた。インターネットが急激に発達してお取り寄せも簡単にできるようになった。次から次へと美味しい豚肉を口に出来た。彦麻呂調に「豚肉のワールドカップやぁ〜。」である。

 こうなると人間欲が出てきて、取り寄せられないものが欲しくなる。
 そんな時に聞いたのが「あっぷる豚」なのだ(さあ、や〜っと本題やでぇー)。

 今のところ、駒ヶ根にある「駒ヶ根高原リゾートリンクス」のレストランでしか食べられないという。「あっぷる豚」プロジェクトは、まだ始まったばかりであちこちで食べられるほど生産されていないのだ。行くしかないね、こりゃ。

「あっぷる豚」というのは、長野県飯田市にあるハヤシファームが生産している「幻豚」を改良して、エサにりんごを食べさせている豚である。なんでも、「幻豚」と言う豚はコンテストで数々の賞を受賞している豚で、とても人気のあるブランド豚だそうだ。その豚をルーツの持つだけでもかなりのサラブレッド(豚にサラブレッドっちゅうのもおかしなモンやね)なのに、贅沢にも信州産のりんごを食べさせているのである。

 こう聞くと絶対現地に行きたくなる私。生産者と話をしたくなる私。なのだが、今回、無理矢理時間を作ったからそれはかなわなかった。ちょっと後ろ髪である。こうなったらせめて深く関わっている人に質問攻めしなきゃ。と、意気込んだその割りに、質問はいたってシンプルになってしまった。
「りんごを食べさせるとどうなるか。」
 これだよね、気になるところ聞きたいところは。

 なんと、サシの入った霜降りの柔らかくて旨味のじんわり出てくるような肉になったとサ。「きっと香りがよくなるぞ〜。」ぐらいを想像して、地元の農産物を与えて地元の名物を作ろうと思ったと思う。それが瓢箪から駒ヶ根?(はい、座布団)

 で、もひとつ質問。
「どのくらいの量食べさせてるの?」

 相当な量だと思うでしょ?思うよねー。
 なんと、1個。どんだけー、じゃなくて、そんだけー?
 やりすぎると肉が軟らかくなりすぎるんだって。恐るべしりんご、だね。

 他にも色々説明してくれようとしたけど、いいよ。まずは食べましょ食べましょ。

 ホテルオークラで料理長を務めたことがあるシェフが作る「あっぷる豚」料理は、幅広い年齢層の人が来る、温泉のあるリゾート地なだけに、真っ当なフレンチを軽い仕上げにアレンジしてある。そしてポークソテーの火の通し加減が、火が通っているけどピンク。その切り口から肉汁がしたたり落ちそうなものだけど、温度管理をきちんとした焼き具合は肉汁を肉の中に止め、噛んだその瞬間にサシの入っている脂身から溶け出た脂と共に、じわーっと染み出る絶妙さであった。そしてその柔らかさ。素材である「アップル豚」は語らずしてわからせる。
 はい、よ〜くわかりましたよ。これは料理技術のなせる技ではない。ですね。ウインナーやバラ肉の煮込みももちろん美味しかったけど、これはまだまだ改良の余地有り。ソテーは是非ともこのレベルをいつもキープして欲しい。

 あ〜美味しかったぁ〜。ごちそうさまぁ〜。
 …と思ったら、ここで終わりではなかった。なんとこれからラーメンを食べに行くという。オーマイガー! 私があっぷる豚になっちまうよー!
 と言うワケで、この後行った「我武者羅」の「あっぷる豚ラーメン」の写真は、私のブログ『グー、料理研究家やってます。part2』をどうぞご覧あれ。