新岡淳のトラディショナル・コスチューム 『渡文』織物工場(こうば)へ行こう!

(2010.01.19)

原材料パーツが集積している中から形が出来上がって、私たちが見慣れた形状のものが見えてくる感動は、その臨場感と相俟って迫力という形で老若男女とも変わらない興奮を味わえるものです。
 

ジャガードと呼ばれる織機。
熟練した職人さんの手による技法。

最近、モノ作りに携わる現場を広く知っていただこう という試みの一環として工場見学を積極的に受け入れているきもののメーカーが増えています。

モノ作りの苦労や手間暇を言葉で伝えるには結構な努力と豊かな経験を必要とします。まさに百聞は……の世界で、実際に映像、音、匂い、そして実際に自分で触れる……残念ながらこの業界に味覚はあまり関係ないようで……という五官の殆どを使った体験に勝る経験値は無いと思います。

 

最近、海外旅行に行く若者が少なくなった というぼやきを事業所の近くにある旅行代理店から聞きました。確かに映像伝達の技術躍進により、世界のどの場所もきれいなハイビジョンによって自宅の居間で見ることが出来るのですよね。しかし実際に現場を訪れた方は分かると思うのですが、テレビの中の映像はそれがどれほどキレイであっても結局「切り取られた映像」に過ぎないのです。

パノラマカメラ? そんなもので現地に立った感動は絶対! 絶対に再現されないのではないでしょうか。その場所で吹いている風、温度、音の聞こえてくる方向、降り注ぐ日差しの量……全てを一瞬に体感できることを機械の薄い板に求めてもせんないものです。

 

先日、京都にある機械織り工場に訪問することが出来ました。
それは織物工場が多い近隣でも、機械設備として最高峰の技術集約が出来ている場所。

写真は「渡文(わたぶん)」という帯のメーカーを訪問した時のものです。

工場に隣接される「織成館(手織技術振興財団の建物)」と共に見学することが出来ます。
渡文といえば、手織り技術では世界最高の織物(ペルシャ絨毯や上海緞通なども含めて)を作ると言われている帯のメーカーで、私は仕事柄、その手織り工場の方を見慣れているのですが、(そこでは手織という人間の持つ感性をひとつひとつの織に込めるものが中心で、それはそれは凄い! という言葉でしか表現できない)今回は、帯の裏生地や人間の手でやっても機械でやっても、ほぼ同じ仕上がりになる部分の製作をしている機械織り工場の方に伺いました。

そこでは、殆どが機械化された中で、監視する というのが人間の主な務めとなっているもので、よくテレビなどで見ることがある金属加工工場の光景と変わらないものでした。

 

しかし、
しかしです、そこで改めて機械が織り成す迫力が違った形で我々を圧倒してきました。

そこにはもう言葉は不要かも知れない と思うほどの迫力です。

皆さんもご覧になると、ただただ、人間が作りだした自動化のシステムを前にして驚嘆の声を上げる事になる筈です。
それは例えば飛行機を見て、これが空に浮くのか という機械の完成美に畏怖を抱くものとは違って、その機械の完成された動きによって生み出される製品の量や速さ、そして均一化された品質に驚きを禁じ得ません。その圧倒的な音、独特な匂い、同じ作業を繰り返す機械の動作を見て、人間はその迫力に納得をするものだと。
渡文という帯を作って100年のメーカーにある奥深さに感動間違いなしです。
その「製品が醸しだす個別感、人間が作るという創造性には、どうしても機械は勝てないものですが、作り出すシステムとその量、早さには一定の敬意が必要だと感じます。

 
織物。

その素晴らしき世界。
私は「渡文」を通して、最高の手織りも知ることが出来、機械による圧倒的な力強さも、帯を手にすることで経験できます。なんとステキなことではありませんか。

 
渡文では平日、予約をした方に限り、その帯の出来る工場の一部を見学させて貰えます。詳しくはhttp://www.watabun.co.jp/
行かれた方はその好奇心を充分に満足させてくれます。
皆さんも一度、その工場を見に行ってみませんか。私のようにその工場で出来たものをたくさん買ってくる羽目になるかも……。

 

渡文 織成館

Tel. 075-441-1111
京都市上京区浄福寺通上立売上ル大黒町693